『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です。


第195話

1軍と2軍の紅白戦の2回の表、沢村は2軍チームの5番にヒットを打たれたものの、その後の2人をサードフライとセカンドゴロのゲッツーに抑え、2回の表も無失点で切り抜けた。

 

そして2回の裏、この紅白戦で初めてのパワプロとクリスの勝負にグランドは大きな緊張感に包まれたのだった。

 

 

 

 

「な、なんだ!?この空気!?」

 

クリスが打席に向かった途端にグランドに漂う緊張感が変わった事に気付いた沢村が、驚いて声を上げる。

 

「今の高校野球界におけるナンバーワンピッチャーとナンバーワンバッターの対決だからな。公式戦の終盤の様な緊張感になるのも仕方ないだろうな。」

「ナンバーワン…。」

 

御幸の言葉を呟くように反芻した沢村は、クリスが醸し出す重圧をものともせずにマウンドで笑顔になっているパワプロを見て唾を飲む。

 

「沢村、お前はそういうピッチャーにエースを奪うって宣言したんだぜ?先輩を押し退けてでも、ベンチの最前列で2人の勝負を見てこいよ。あそこにいる降谷みたいにな。」

 

沢村が御幸の視線を追うと、そこには悪びれもせずに最前列にいる降谷の姿があった。

 

「あっ!?降谷!抜け駆けをするなんて卑怯だぞ!」

「…。」

 

そう言いながら詰め寄ってくる沢村に対して、降谷は面倒そうに息を吐いた。

 

「東条、お前は行かなくていいのか?」

「ここの方が葉輪さんの動きだけに集中出来ますから。」

 

東条の返答に御幸は少し驚きながらも興味を持った。

 

「松方シニアで学んだのか?」

「俺が不器用なだけですよ、御幸さん。俺は勝負全体を見て、葉輪さんのピッチングを学べないだけです。」

「自分が見るべき所をわかっているだけでも上出来だろ?降谷や沢村はまだそこまで出来ないみたいだからな。」

 

御幸の言葉に東条は首を横に振る。

 

「沢村と降谷は知識も技術も無い状態で青道の2軍に上がった奴等です。そんなあいつらがこれから先、投手として必要な事を学んだらと考えたら楽観出来ませんよ。」

「あいつらは強豪の松方シニアでエースを経験した東条でもライバルと思える相手ってことか。」

 

御幸の言葉に頷いた東条は表情を引き締める。

 

「今年の秋、俺は沢村と降谷、そして川上さん以上に結果を出して第2先発の座を狙います。そして、2年後に葉輪さんのエースナンバーを受け継ぎます。」

「パワプロを超えるつもりはないのか?」

「もちろん葉輪さんの背中を追いかけますよ。でも葉輪さんは俺の憧れだから、そう簡単に追い付けない人であり続けて欲しいって思ってるんですよね。」

 

苦笑いをしながらそう言う東条に御幸はニッと笑みを浮かべた。

 

御幸には東条の気持ちがわかったからだ。

 

御幸もリトル時代からクリスの背中を追い続けている。

 

超えたい気持ちはもちろんある。

 

だが、それと同じくらい大きな壁であり続けて欲しいとも思っているのだ。

 

「東条、いつでも声を掛けろよ。パワプロが投げてない時ならいつでもボールを受けてやるからな。」

「そこは葉輪さんよりも優先するって言ってくれるところじゃないんですか?」

 

東条の言葉を笑って誤魔化した御幸は、パワプロとクリスの勝負を見ることに集中したのだった。

 

 

 

 

バットを構えずに打席に入っただけのクリスさんから威圧感の様なものを感じる。

 

いいね!

 

燃えてきたぜ!

 

俺は小野の出したサインに首を横に振る。

 

なんか、打たれそうな気がしたんだよね。

 

小野はチラリとクリスさんを見てからサインを出し直す。

 

うん、それでいこう。

 

サインに頷いた俺は投球モーションに入る。

 

ノーワインドアップから足を上げてゆっくりと足を下ろしていく。

 

そして下ろした足を滑らせる様に前に出して踏み込むと、しっかりと腕を振ってボールを投げ込んだ。

 

俺が初球に選んだのはインハイのフォーシーム。

 

クリスさんがスイングを始めたけど、バットは途中で止まった。

 

ハーフスイングでは無いみたいだけど、判定はストライクだ。

 

クリスさんの見逃しかたは上手いなぁ。

 

スイングが始まっていても途中でスッて止まるんだよね。

 

まるでプロのバッターの見逃しみたいだ。

 

さて2球目は、っと。

 

アウトローにボール1つ分外すチェンジアップね。

 

俺のチェンジアップは利き腕方向に変化しながら少し落ちるから、それで引っかけさせようと思っているのかな?

 

でも、それは打たれそうな気がするんだよなぁ…。

 

去年、東さんのバッティングピッチャーをし始めた時から、今みたいに打たれそうだって感じる様になったんだよね。

 

それで打たれそうだと感じながらもそれを投げると、見事に東さんにホームランを打たれた。

 

それ以来、俺は打たれそうだと感じた時は首を横に振る様になった。

 

小野はまたクリスさんをチラリと見てからサインを出し直す。

 

2球続けてフォーシームね。

 

了解!

 

俺はアウトローにボール1つ分外に外すフォーシームを投げ込んだ。

 

クリスさんはスイングを始めるけど、またしても途中でバットを止めた。

 

小野がハーフスイングの判定を求めたけど、判定はボールだった。

 

これでカウントはワンボール、ワンストライク。

 

3球目、小野は俺に縦スライダーを要求してきた。

 

小野はまだ縦スライダーをしっかりと捕れない筈なんだけど…大丈夫か?

 

胸の前で拳を握った小野は、俺に身体で止めると訴えているようだった。

 

俺は笑みを深めてサインに頷く。

 

3球目、インローに投げ込んだ縦スライダーにクリスさんはバットを振りきる。

 

だけど…。

 

「サード!」

 

ボールの上っ面に当たった打球が弱々しい勢いでサードの金丸の所に転がっていく。

 

金丸はクリスさんの走り出しを見て、ボールを丁寧に1塁に送球した。

 

アウトになったクリスさんは小野と目が合うと、微笑んでからベンチに戻っていった。

 

そのクリスさんの微笑みを見た小野は、右手で小さくガッツポーズを取っていたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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