『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第196話

クリスを打ち取った後のパワプロは続く増子と坂井を連続三振に抑えて2回の裏を終えた。

 

そして3回の表、沢村は2軍チームの先頭打者である8番バッターの金丸にフォーシームをセンターに運ばれると、ノーアウト、1塁の状況でパワプロとの勝負を迎えていた。

 

 

 

 

「打たせて行くんでお願いします!」

 

左手に持ったボールを高々と上げて野手陣に声を掛けると、沢村は大きく息を吐いてから打席に入ったパワプロに目を向ける。

 

(高校野球界ナンバーワン投手…俺も、そう呼ばれる投手になりてぇ!)

 

まだクイックモーションが出来ない沢村は、申し訳程度にセットポジションから投球モーションに入る。

 

大きく足を上げてから踏み込むと、前に突き出した右手のグローブを潰して壁をイメージする。

 

右手で作った壁により身体にタメが出来た沢村の投球モーションは、沢村の柔軟な身体と合わさる事でリリースポイントが見えにくくなり、バッティングのタイミングを取り辛くさせる。

 

打席のパワプロはノーステップのバッティングフォームでバットをスイングする。

 

ガキッ!

 

打球は3塁手の増子の頭を超えたが、スライスしてファールゾーンへと切れた。

 

危うく長打コースとなりそうだった打球に沢村は内心で胸を撫で下ろす。

 

しかし、クリスはそうではなかった。

 

(今のでレフト前ヒットになってくれた方がよかったな…。)

 

パワプロは基本的にインコース待ちのホームラン狙いである。

 

それ故に、沢村がコントロールミスをしてボールがインコースに行って長打にされるぐらいなら、今の1球でヒットの方がマシだと考えたのだ。

 

(沢村に新しい投球モーションを封印させて、古い投球モーションでコントロール重視にさせる選択もあるが…紅白戦だからな。足りない物を自覚させる為にも、このままいかせよう。)

 

負けたら終わりの公式戦ならば絶対にしない選択である。

 

しかし片岡がこの紅白戦に込めた意図を考え、クリスはあえて沢村に真っ向勝負をさせる事にした。

 

(腕が遅れて見える独特な投球モーションにムービングボール…2年後にエースになれる素質はあるが、それだけでは葉輪を超えられないぞ、沢村。)

 

2球目、沢村が投げ込んだボールはツーシームの様な変化で真ん中付近からインコースへと変化する。

 

すると…。

 

カキンッ!

 

パワプロが打った打球は右中間へと飛んでいき、フェンス直撃となるタイムリーツーベースヒットとなった。

 

クリスはツーベースヒットを打ったパワプロではなく、マウンドの沢村に目を向ける。

 

(俯いていないな。次の投球でボールを置きにいかずに腕を振りきれれば上出来だ。)

 

沢村が大きな声で野手陣に声を掛けると、それに反発する様に野手陣から声が上がる。

 

(葉輪を相手に先制点を取られたのは大きいが雰囲気は悪くない。こういった雰囲気を自然に作れるピッチャーはそうはいない。2年後には本当に沢村がエースナンバーを背負っているかもしれないな…。)

 

 

 

 

その後の沢村は小湊 春市にタイムリーヒットを打たれて1点を追加されて3回の表を終えた。

 

3イニングで2失点の結果だった沢村だが、悔しさよりも高いレベルでプレー出来る事に楽しさを感じ、もっと投げたい、また投げたいと強く思ったのだった。




本日は5話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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