『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です


第19話

一回の裏、俺は三者三振で完璧なスタートをきった。

 

そして、二回の表のうちのチームの攻撃ではツーアウト、一塁の場面で俺の出番となる。

 

だが…。

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

空振り三振しましたが、何か?

 

素人レベルのミートとパワーでどうにか出来るわけないだろ!

 

「パワプロ!バッティングは気にするな!ピッチングをしっかり頼むぞ!」

「サー!イエッサー!」

 

監督の言葉に俺は元気よく返事をする。

 

そういうわけで二回の裏、相手チームの四番をサードフライ、五番を三振にして

ツーアウトまでこぎつけた。

 

そして、六番をカーブでボテボテのピッチャーゴロに打ち取るのだが、そこで俺はお手玉を

してしまい、俺のエラーで六番が出塁してしまう。

 

「やっちまった―――!」

 

あの紅白戦からバント処理はそれなりに練習したんだけど、ノックなんかはほとんど

やっていないからか、打球処理はいまだに素人レベルなのである。

 

「気にするな、葉輪。」

「はい!」

 

クリスさんがタイムを取ってマウンドまで来てくれた。

 

「そういえば、次のバッターはクリスさんが気にしてた奴ですよね?」

「あぁ…だが、お前はいつも通りに投げればいい。」

「はい!」

 

そして、クリスさんがキャッチャーボックスに戻っていき試合が再開される。

 

左打席に立った相手を見る。

 

えっと…御幸…だったっけ?

 

名前を思い出そうとするがうろ覚えである。

 

まぁ、いいか!

 

俺はクリスさんのサインに頷いて投球モーションに入る。

 

一球目はフォーシームをアウトローに。

 

「ストライ――ク!」

 

よし!見逃しでまずはワンストライクだ!

 

次の要求は?

 

俺はクリスさんのサインを覗き込む。

 

お?次もフォーシームか!

 

俺はサインに頷いて投げる。

 

今度のコースはアウトハイだ。

 

相手は大きな空振りをする。

 

「ストライクツー!」

 

フハハ!このまま押しきるぜ!

 

ボールとバットがかなり離れていたので、俺は次もフォーシームのサインが出ると思っていた。

 

だが、クリスさんが要求してきたのはカーブだった。

 

あるぇ?

 

どういうこと?

 

う~ん…まぁ、いいか!

 

アレコレ考えてもわからんから、後でクリスさんに聞こう!

 

そう思いきって、俺はカーブ投げる。

 

だが…。

 

ヤベッ!真ん中にいっちまった!

 

緩い変化球がど真ん中の甘い所に向かう。

 

でも…。

 

「ストライクスリー!バッターアウト!チェンジ!」

 

相手バッターはバットを振らずにど真ん中を見逃したのだ。

 

うぇい!?

 

なんで?なんで絶好球を見逃したのん?

 

俺は無事に二回を抑えても首を傾げながらベンチに戻るのだった。

 

 

 

 

「たはっ、あの空振りは大げさだったかな。」

 

俺はベンチで防具をつけながらさっきの打席を思い出す。

 

「クリスさんか…バッターの反応をよく見てる事で…。」

 

うちの打線がまともに捉えられない、あのフォーシームを叩いて流れを呼び込もうと考えた。

 

だが、その思惑は丸亀リトルのキャッチャー、クリスさんに読まれてしまった。

 

「一球目で球筋を見て、二球目の空振りでタイミングを計りながら次の

 フォーシームを誘ったけど…ダメだったな。」

 

俺は自分の言葉に苦笑いをする。

 

「クリスさん…次は打たせて貰いますよ」

 

俺はキャッチャーボックスに向かいながらそう呟く。

 

そして三回から始まる丸亀リトルの上位打線を、どう抑えるのか考えていくのだった。

 

 

 

 

「え?あの空振りって誘いだったんですか?」

 

ベンチに戻った俺は、クリスさんに先程の事を聞いていた。

 

「あぁ、おそらくだがな。」

「ふぇ~…。」

 

「葉輪、俺の読みではあの打者は『決め打ち』をする奴だ。」

「決め打ち?」

「狙い球を決めて打つ事だな。」

 

「どういう事ですか?」

「例えだが、狙い球以外は全部見逃すと言えば、あのカーブの見送りにも納得がいくだろう?」

 

俺はクリスさんの言葉に何度も頷く。

 

「もっとも、それは極端な例だけどな。」

 

そう言いながら、クリスさんはベンチの前の方へ席を移す。

 

「緩急による揺さぶりが効きにくい相手だが…やりようはある。任せておけ。」

「はい!」

 

俺が返事をすると、クリスさんはジッと相手の捕手の観察を始めた。

 

これが駆け引きかと思うと、俺はますます野球を楽しく感じてきた。

 

あぁ――!早く投げてぇ――!

 

味方打線には打って欲しいけど早く投げたい。

 

俺はそんなジレンマに頭を抱えて身を捩る。

 

そんな俺を見ていた貴子ちゃんは、口元を押さえてクスクスと笑うのだった。




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