『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第202話

青道高校野球部の1軍と2軍の紅白戦は終盤となる7回の表へと突入した。

 

7回の表の1軍チームのマウンドに上がった東条は大きく息を吐く。

 

(しっかりと腕を振ってボールを投げ込む。それが今の俺の課題。)

 

体力測定の時に受けたパワプロの指摘。

 

それが東条が己に掲げる課題である。

 

東条が顔を上げて前を見ると、打席には松方シニア時代のチームメイトである金丸の姿があった。

 

(金丸は真っ直ぐに強い。真っ直ぐは見せ球にしてツーシームとスライダーで勝負!)

 

東条はそう思っていたが、クリスは初球に真っ直ぐを要求してきた。

 

このサインに東条は一瞬首を横に振りたい衝動にかられる。

 

(この1球には俺には理解出来ない意図がある筈。ならビビるな!)

 

己の成長の為に東条は首を縦に振る。

 

初球、東条はしっかりと腕を振ってフォーシームを投げ込んだ。

 

コースはアウトコースよりだが、やや甘い所。

 

(打たれる…っ!?)

 

長打をも覚悟した東条だったが、金丸はバットを振らずにボールを見逃してストライクとなった。

 

(真っ直ぐに強い金丸が甘い真っ直ぐを見逃した?なんでだ?)

 

東条が悩んでいると、クリスはナイスボールと声を掛けながら強めの送球でボールを返球してきた。

 

ボールを受け取った東条は帽子の鍔に手をやりながら足場を均す。

 

(マウンドで悩むな。配球に疑問があるなら後で聞けばいい。)

 

小さく息を吐いた東条がクリスのサインを見る。

 

頷いた東条は投球モーションに入ってボールを投げ込む。

 

2球目、クリスは同じコースにツーシームを要求した。

 

金丸はこのツーシームを引っかけてしまい、サードゴロに打ち取られる。

 

強豪の松方シニアで4番バッターだった金丸を僅か2球で打ち取れた事に東条は驚く。

 

(金丸をこんなにあっさり?今日の俺のボールは特別にキレているわけじゃない。金丸を打ち取れたのはクリス先輩のリードのおかげだ。)

 

背筋にゾクリと震えが走った東条はマウンドで笑みを浮かべた。

 

(もっとこのレベルでプレーがしたい!)

 

力強く頷いた東条の顔は、次の打者であるパワプロに負けない程の笑顔なのだった。

 

 

 

 

7回の表の東条はパワプロと小湊 春市にヒットを打たれたものの、2軍チームに得点は許さず無失点で切り抜けた。

 

7回の裏の1軍チームの攻撃、先頭打者の小湊 亮介と続くバッターの結城は三振こそしなかったものの、ギアの上がったパワプロのボールを捉えきれずに内野ゴロと内野フライに打ち取られてしまった。

 

ツーアウトの状況だがここでクリスがパワプロからツーベースヒットを打って得点のチャンスを作ったが、5番バッターの増子は三振に倒れて無得点で7回の裏は終わった。

 

その後、東条は9回終了までの3イニングをパワプロのホームランによる1失点で終え、パワプロは1軍打線を相手に完封の結果で紅白戦を終えたのだった。

 

 

 

 

「0ー7で2軍チームの勝ち!礼!」

「「「ありがとうございました!」」」

 

紅白戦では何本かヒットを打たれたけど、1軍打線を完封で抑えたぜ!

 

試合終了の挨拶が終わった後に一也とハイタッチをして、俺はアイシングに向かう。

 

「フーくん、お疲れ様。カッコ良かったよ。」

 

そう言いながら貴子ちゃんが笑顔でアイシングを手伝ってくれる。

 

「ありがとう、貴子ちゃん。」

 

俺が左肩と左肘をアイシングしていると、今日投げ合った1年生投手達が俺の所にやって来た。

 

「パワプロ先輩!俺にコントロールの秘訣を!」

「変化球ってどうやって投げるんですか?」

「最後のホームランを打たれたボール…あれって待ってたんですか?」

 

沢村、降谷、東条が次々に俺に質問をしてくる。

 

うんうん、向上心が高くていいね!

 

そんな俺達の所に丹波さん、純さん、ノリに一也やクリスさんに宮内さんといったメンバーが集まって来て紅白戦の事などを話し合っていく。

 

「クリスさん、あのツーベースは読んでたんですか?」

「いや、あれは上手く対応出来ただけで読みではないな。」

 

「東条、チェンジアップの握りを教えてくれる約束だけど。」

「降谷、俺よりも葉輪さんに聞いた方がいいと思うぞ。」

 

「おい、沢村!お前はピッチングの時に力み過ぎだ!もっと脱力しろ!」

「オス!伊佐敷先輩!」

 

「丹波さん、丹波さんなら小湊先輩をどう打ち取りますか?」

「正直なところ、今の俺では打ち取れる気がしないな。シングルヒットなら上出来だろう。」

「ンフー!ナックルカーブの使い所が鍵になりそうだ。」

 

切磋琢磨している皆の様子に俺は自然に笑顔になる。

 

夏の大会が待ち遠しいぜ!

 

 

 

 

後日、紅白戦を負傷退場した小野の診察結果を聞いた。

 

不幸中の幸いで骨に異常は無く、全治2週間で復帰出来るらしい。

 

良かったな、小野!

 

そして時が過ぎて小野が復帰してからしばらく経った頃、今年も夏合宿の時期がやって来たのだった。




次の投稿は11:00の予定です。

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