『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿4話目です。


第204話

青道高校野球部の夏合宿も終盤となり、連日練習試合が行われていた。

 

今日の1軍の相手は北海道の強豪校である巨摩大藤巻高校。

 

1年前の夏の甲子園の決勝で戦って以来の因縁の相手だ。

 

そんな巨摩大藤巻には今年、シニアで有名な選手が入学している。

 

その選手の名前は本郷 正宗。

 

右投げ右打ちの投手であり、1年生ながら今回の遠征に参加している実力者だ。

 

その本郷はグランドに挨拶をすると、真っ直ぐにパワプロの元にやって来た。

 

「葉輪さん、今日はよろしくお願いします。」

「おう!今日はよろしく!」

 

パワプロが頭を下げる本郷にサムズアップをすると、本郷は瞳に闘志を宿してチームの元に戻っていった。

 

「なぁ、一也。」

「どうした、パワプロ?」

「あの子、誰?」

 

パワプロの言葉を聞いた御幸とクリス、そして貴子が苦笑いをする。

 

「パワプロ、あいつは本郷 正宗。シニアの全国大会の時に投げ合った事がある選手だぞ。」

「そうだっけ?」

「まぁ、お前らしいと言えばらしいけどな。」

 

パワプロが困った様に頭を掻くと、それを見た貴子が微笑む。

 

ゆるい空気を引き締める様に咳払いをしたクリスがパワプロに話し掛ける。

 

「葉輪、今日の試合は縦のスライダーは禁止だ。」

「はい!わかりました!」

「今日の試合でマスクを被るのは御幸だ。アップをしながらでいいから配球の事を打ち合わせしておけよ。」

 

暖かい季節になって肩の調子は良くなったが、クリスは疲労している今の身体の状態を考えて今日の練習試合の出場を辞退していた。

 

野球に限らずスポーツは常に万全の状態で試合に挑めるわけではない。

 

疲労やケガなどを背負ってプレーしている選手は数えきれないほどいる。

 

それにより新たにケガをしたりケガが悪化するケースも少なくないが、それらのリスクと試合出場の機会を天秤にかけて決断をしていくのである。

 

その結果、クリスは先々を考えて今日の練習試合の出場を辞退したのだ。

 

「よし、パワプロ、キャッチボールを始めるぞ。」

「おう!」

 

パワプロと御幸がキャッチボールを始めると、クリスは少し残念そうに苦笑いをしてから片岡の所に歩いていったのだった。

 

 

 

 

青道高校の1軍と巨摩大藤巻の練習試合が始まった。

 

青道の先発はパワプロ、巨摩大の先発は3年生のエースだ。

 

1回の表のマウンドにパワプロが上がると、ベンチにいる本郷は真剣な目でパワプロの投球練習を見つめている。

 

「本郷。」

「はい。」

 

巨摩大の監督である新田 幸三に呼ばれた本郷が返事をして、素早く新田の元へ行く。

 

「今日の紅白戦、展開に関係なく6回からお前に投げさせる。準備をしておけ。」

「…はい!」

 

早くも準備を始めた本郷を横目で見た新田は、目を投球練習をしているパワプロに移す。

 

(あの怪物はまだ成長をしているのか…。)

 

巨摩大の選手達も大会前の追い込みの時期で疲労がある事に加え、更に遠征である。

 

こんな状態では間違いなくパワプロを打ち崩せないだろうと新田は予測する。

 

だが…。

 

(少しでもいいイメージを持って帰らなければ、夏の大会でリベンジする前に甲子園にすら行けなくなる…。)

 

巨摩大の監督の新田は『新田マジック』と称される采配を振るう名将である。

 

しかしそんな名将でも、たった一人の選手が攻略出来ない。

 

その選手とはパワプロである。

 

パワプロの存在が1年前の夏の甲子園から、新田の頭を悩ませ続けていた。

 

ビデオを見て何か突破口はないかと繰り返し見続けても結論はいつも同じ。

 

延長戦に持ち込んでパワプロの体力切れによる降板を待つか、まぐれ当たりの一発を守りきるかの2つだけだ。

 

高校野球でこんな結論が出るのは馬鹿げていると新田は頭を抱えた日々を送ってきた。

 

どれだけ巧みに継投をしようが、現代の高校野球のレベルで完封は難しい。

 

エースが必要だった。

 

一般的な高校野球のエースではない。

 

世代を代表するようなエースだ。

 

その渇望したエースになれる素質を持った選手が新田の元にやって来た。

 

それが本郷 正宗である。

 

新田は本郷を育てる為にこれまで以上に鬼になる事を決めた。

 

それからの本郷の日々は、まるで時代を逆行したかの様に過酷な練習漬けの日々だった。

 

まだ身体が出来上がっていない1年生に課すような練習量ではなかった。

 

だが本郷は新田の期待に応え、ここまでケガをせずに練習をこなしてここに立っている。

 

本郷の才能は花開きつつあった。

 

新田の予想では本郷がパワプロと投げ合うにはまだ早い。

 

如何に本郷が才能豊かでもまだ1年生だ。

 

その1年生の本郷を起用して試合に敗れたら新田の進退にも関わる。

 

しかし新田は今年の夏から本郷を起用していく事を決めていた。

 

全てはパワプロが投げる青道に勝つために…。

 

「3年生には悪いが、今年の夏は秋以降の為の布石になるだろう…。あの怪物に勝つために…!」

 

腕を組み睨む様にして新田がパワプロを見詰める中で、青道と巨摩大の練習試合が始まるのだった。




次の投稿は午後3:34の予定です。

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