『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿4話目です


第20話

三回は両チーム共に三者凡退。

 

そして、四回のうちのチームの攻撃では、先頭打者のクリスさんがツーベースヒットで出塁

するものの、後続が続かずに追加点とはならなかった。

 

四回裏は、予定では俺の最後の投球回となっていたので、一球一球楽しむ様に投げた。

 

結果は三振を1つ含む三者凡退だった。

 

「パワプロ、どうする?狙うか?」

 

五回表のうちの攻撃、打順は八番からで次のバッターは俺だ。

 

なので、ネクストバッターサークルに行こうとしたら、監督にそう呼び止められた。

 

「うぇい?狙うって何をですか?」

「気づいてないのか?」

 

俺は監督の言葉に頷く。

 

「パワプロ、お前、ここまでノーヒットピッチングだろう?」

「…そういえば、そうですね。」

 

言われて初めて気づいた。

 

「そこでだ、ノーヒットノーランを狙わないか?」

「ノーヒット…ノーラン!?」

 

え?それって、あれだよな!?

 

「ノーヒットノーランって…ノーヒットノーランですよね!?」

「おう!そうだ!」

 

「狙っていいんですか!?」

「おう!狙え狙え!」

 

そう言って監督がニッと笑う。

 

「パワプロのここまでの球数は44球だ。4年生と5年生は75球の球数制限があるが、

 残り二回で30球投げられるなら十分狙えるだろう?」

 

監督の言う通りにリトルリーグでは球数制限がある。

 

ちなみに6年生は85球が上限だ。

 

但し、相手バッターと勝負の途中で球数制限に達しても、その勝負が終わるまでは投げられる。

 

「狙います!やってやりますよ!」

「はっはっは!そうか、やってやれ!パワプロ!」

「はい!」

 

俺は今日一番のテンションの高さでネクストバッターサークルに向かう。

 

「あ、パワプロ!ノーノーを狙うんだから、体力温存でバットを振るなよ~。」

 

ガクッ。

 

俺は監督の一言で転けそうになる。

 

監督!俺のやる気を返して!

 

その後、打つ気が無いのがバレバレだったのか、三球三振でベンチに戻る事になる。

 

そして五回が始まると、俺は誰よりも早くグラウンドに向かうのだった。

 

 

 

 

マウンドに立って、さぁ早く!と意気込むものの、クリスさんがマウンドにやってきて

少し話をする事になった。

 

「はい?新しいサインですか?」

 

マウンドにやってきたクリスさんがそう提案してきたのだ。

 

「そうだ。」

 

そう言ってクリスさんは俺に耳打ちをしてくる。

 

「…というわけだ。わかったか、葉輪?」

「よくわからないけど、わかりました!」

 

俺はクリスさんの言葉に敬礼しながらそう答える。

 

そんな俺を見て、クリスさんは苦笑いだ。

 

「葉輪、この試合の山場は、この回の最後の打者だ。」

「えっと、御幸?とかいう奴ですよね?」

 

「そうだ、そこを越えればノーヒットノーランも見えてくる。」

 

俺はクリスさんの言葉に笑顔になる。

 

「俺を信じて投げてこい。」

「はい!お願いします!」

 

クリスさんが、ミットで軽く俺の胸を叩いてからキャッチャーボックスに戻っていく。

 

「プレイ!」

 

審判の合図がグランドに響くと、クリスさんがサインを出す。

 

俺は首を横に振る。

 

そして、出し直されたサインに頷くと、俺はミット目掛けてカーブを投げるのだった。

 

 

 

 

「お?首を横に振った?」

 

この回の三人目のバッターなのでまだベンチにいるが、相手バッテリーの観察は欠かさない。

 

「あのピッチャー…欲でも出たのか?」

 

俺は、ピッチャーはどこか癖が強かったり、我儘な奴が多いと思っている。

 

だから、ここまでノーヒットピッチングを続けた事で、あのピッチャーに欲が出たと思った。

 

「前の回の打席…明らかに打つ気が無かったからな…。」

 

この回の先頭打者がアウトになったので、俺はネクストバッターサークルに向かう。

 

「…またカーブ?」

 

ピッチャーが首を横に振ると、次はカーブを投げて来ている。

 

「大した変化でもないのに…なんで投げるんだ?」

 

ピッチャーがまた首を横に振ってカーブを投げる。

 

「あいつ…俺と同い年だよな?」

 

同じ4年生…。

 

「覚えたての変化球を使いたいのか?」

 

そう言葉にするが、どうもしっくり来ない。

 

「どちらにしろ、クリスさんのリードに逆らっているのは確かだな。」

 

このままノーヒットノーランをやられるのは面白くないし、一打で

流れを変えられるかもしれない。

 

「悪いけど、狙わせてもらうぜ。」

 

前のバッターが、首を横に振ってからのカーブで内野ゴロに打ち取られる。

 

そして、俺の打順が回ってきた。

 

「野球はツーアウトからってね。」

 

左打席に入ってバットを構える。

 

一球目、ピッチャーは首を横に振る。

 

そして、次のサインに頷くとカーブを投げてきた。

 

俺は球筋を確認する為に見送る。

 

これで、ワンストライク。

 

二球目、素直に頷いて投げて来たのはフォーシーム。

 

アウトローに来たフォーシームを見送る。

 

下手にスイングを見せると、前の打席の様に狙いがバレるかもしれないからな。

 

判定はストライク…これでツーストライク。

 

三球目、素直に頷いてフォーシームを投げてくる。

 

これはアウトハイに外れてボール。

 

カウントはワンボール、ツーストライクのバッティングカウント。

 

四球目、ピッチャーは首を横に振る。

 

…ここだ!

 

俺は集中力を高める。

 

狙いは次のカーブ!

 

思いっきり叩く!

 

ピッチャーが、ノーワインドアップの独特のフォームでボールを投げ込んでくる。

 

俺はカーブにタイミングを合わせて踏み込む。

 

すると、ピッチャーの投げたボールは、俺の膝元にノビのある球筋で入り込んでくる。

 

「…は?」

 

バシッ!

 

俺の耳にミットの音が響く。

 

そして…。

 

「ストライーーク!バッターアウト!チェンジ!」

 

グランドに響く審判のコールに俺は呆然とした。

 

そして、無意識の内にクリスさんを見る。

 

すると、マスクの奥のクリスさんの表情は、確かに笑っている様に見えた。

 

クリスさんは、何事も無かった様にキャッチングしたボールを審判に渡すと、雄叫びを上げる

ピッチャーの胸を、ミットで軽く叩いてベンチに戻っていく。

 

「…たはっ、やられた。」




次の投稿は午後3:34の予定です

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