夏の高校野球選手権西東京地区大会の第2回戦、青道と薬師の試合は7回の表まで進んでいた。
薬師高校のベンチからは7回の表の先頭バッターである轟 雷市に必死な声援が送られている。
そんな声援の中で薬師高校の監督である轟 雷蔵はスコアボードに目を向けた。
0ー9
7回の表の薬師の攻撃で3点取らなければコールド負け。
この事実に雷蔵はため息を堪えながら頭を掻いた。
(試合前はもう少しなんとかなると思ったんだが…現役を離れて俺の勝負勘も狂ったか?)
雷蔵は苦笑いをしながら打席の方に目を向ける。
(ったく、容赦ねぇな。完全に雷市を潰しに来てやがる。高校生のくせに可愛気がねぇ。)
そう思いながら雷蔵はキャッチャーボックスに座る御幸に目を向ける。
(1打席目も2打席目も真っ直ぐだけで雷市を三振に抑えた…。そして止めにど真ん中を3つってか?)
今度こそため息を吐いてしまった雷蔵は、無精髭を撫でながら雷市に視線を移す。
そこには特徴的な笑いをする雷市の姿はなく、日常のシャイな…素の雷市の姿があった。
(雷市、勝負ってなぁ怖ぇだろ?でもな、その怖ぇのを乗り越えなきゃ、野球選手になれねぇんだぜ…。)
息子の成長を信じて、雷蔵は雷市の背中を見守るのだった。
◆
薬師高校との試合は9ー0で俺達、青道高校が勝った。
俺は7回を投げて被安打0、与四死球0、奪三振19の結果だった。
7回コールドだから参考記録だけど完全試合を達成だ。
これでポイントをガッツリとゲットだぜ!
そんな感じで喜んでいると…。
ピロン♪
俺の脳内に機械音が鳴った。
俺は反射的に能力を使ってステータス画面を開く。
※おめでとうございます。一定条件を達成したので金特殊能力の『驚異のキレ』を取得しました
※金特殊能力を取得したのでボーナスポイントを贈ります
※一定条件の達成を確認しました。特殊能力の『パワーヒッター』を取得します
うおっ!?
一気に2つも取得!?
俺は取得した特殊能力の詳細を確認する。
『驚異のキレ』
・キレ系特殊能力の最上位特殊能力である
・変化球の変化開始位置が非常に打者寄りになり、変化球の変化速度が上昇する
・変化球の球威が上昇し、長打が打たれにくくなる
めっちゃいい特殊能力やんか!
ビックリして思わず似非関西弁が出てもうたわ!
ふう、落ち着いて『パワーヒッター』の詳細も確認しよう。
『パワーヒッター』
・強振した際にホームラン性の打球が出やすくなる特殊能力である
・打球を遠くに飛ばす感覚を得る
・最上位特殊能力に『アーチスト』が存在する
『パワーヒッター』もいい特殊能力だな。
しかし、打球を遠くに飛ばす感覚かぁ…。
この2つの特殊能力の感覚に、西東京地区大会中に慣れる事が出来るかなぁ?
明日は休養しなきゃいけないから、明後日から感覚に慣れるとしよう。
さて貴子ちゃんが待ってるし、急がないとな!
◆
青道と薬師の試合が行われた球場のスタンドには、稲城のメンバーの姿があった。
「最速155kmか…また速くなってるな。」
稲城野球部の主将である原田の呟きに、見学に来ていた稲城のメンバー全員が頷く。
「雅さん、試合も終わったし帰るよ。」
成宮が立ち上がると、それに続く様に稲城のメンバー全員が立ち上がる。
「鳴、決勝で青道とやるまで例のボールは封印だぞ。」
「言われなくてもわかってるよ、雅さん。」
成宮と並んで歩く原田が釘を刺すと、成宮は両手を頭の後ろで組みながら返事をする。
「言っておかないと、お前は葉輪に対抗して投げそうだからな。」
「ひでぇ!もっとエースを信じろよ、雅さん!」
原田と成宮のやり取りに、稲城のメンバーから明るい笑い声が上がったのだった。
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