『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第213話

夏の高校野球選手権西東京地区大会の決勝戦、青道と稲城の試合は成宮の三者凡退による快投から始まった。

 

続く1回の裏はパワプロが三者連続三振でお返しをすると、2回の表にはこの試合の注目の対決の1つである成宮と結城の勝負が始まった。

 

多くの者が小湊 亮介との勝負の様に長引くと予想したのだが、その予想に反して勝負は三球で決着がついた。

 

勝者は結城を高速チェンジアップでショートゴロに打ち取った成宮だ。

 

青道のメンバーは成宮の新変化球の正体が掴めず、2回の表も三振凡退に抑えられてしまう。

 

そんな青道メンバーに、今大会から太田部長に代わってベンチに入っている落合が成宮の新変化球の正体を示した。

 

「おそらくだが、あれは高速チェンジアップだろう。」

 

この一言に青道ベンチの注目が集まる。

 

「落合さん、チェンジアップって遅い変化球じゃないんですか?」

「そういった認識が多いだろうが、なにも変化球は遅くないとダメというわけではない。肝心なのは打者を打ち取れるかどうかだからな。それに、お前が投げるスライダーも一般的なスライダーに比べて球速が速いだろう?」

 

落合の言葉にパワプロは素直に頷く。

 

「まぁ、日本では珍しい変化球だからな。攻略するには時間が掛かるだろう。」

 

そう言って落合がチラリと目線を片岡に送ると、片岡が頷いてから話し出す。

 

「一球一球集中していけ。打撃だけでなく守備でもだ!」

「「「はい!」」」

 

 

 

 

青道と稲城の試合は多くの者の予想通りにパワプロと成宮による投手戦となった。

 

脅威的なペースで三振を積み重ねるパワプロに対し、成宮は打たせて取るピッチングと三振を奪いにいくピッチングを合わせて巧みに青道打線を抑えていった。

 

成宮は7回の表に小湊を歩かせてしまったが、それ以外の打者は完全に抑えてノーヒットノーランを続けている。

 

そんな成宮と投げ合うのが楽しいのか、パワプロは笑顔で完全試合を継続していった。

 

こういった試合では継投のタイミングが難しい。

 

故に両チームの監督はエースとの心中を覚悟した。

 

そして9回裏、パワプロがここでも三人で稲城打線を抑えて完全試合を継続すると、青道と稲城の試合はタイブレークとなる延長戦へと突入するのだった。

 

 

 

 

十回の表、タイブレークルールによりノーアウト、1、2塁の状況から青道の攻撃が始まる。

 

先頭打者の青道の2番バッターが送りバントを成功させ、ワンアウト、2、3塁の状況でパワプロに打席が回る。

 

ここで原田はタイムを取って稲城の内野陣をマウンドに集めた。

 

「勝負所だ。」

 

原田の言葉に稲城のメンバー全員が頷く。

 

「内野ゴロでも失点しかねん。バックホームは意識しておく必要があるが、コーチングをしっかりとやっていくぞ。」

「「「応!」」」

 

メンバーの返事に頷いた原田は成宮に目を向ける。

 

「鳴、スタミナは大丈夫か?」

「問題ないよ、雅さん。」

 

夏の高温のマウンドで体力を削られている筈の成宮だが、その立ち振舞いはエースの貫禄を十分に感じさせるものだ。

 

そんな成宮を中心に小さく円陣を組んで気合いを入れると、各々の守備位置に戻っていく。

 

(勝つのは俺だ…パワプロ!)

 

延長に入ってギアを上げた成宮は初球に渾身のフォーシームをアウトコースに投げ込む。

 

このフォーシームをパワプロは見逃し、判定はストライク。

 

球場にざわめきが起こる。

 

原因はバックスクリーンに表示されている球速にあった。

 

151km。

 

延長でありながら成宮の最高球速が更新されたからだ。

 

ミットから伝わった手応えに原田の背に震えが走る。

 

(鳴…お前は、最高のエースだ!)

 

2球目、原田のサインに頷いた成宮はインコースにフロントドアとなるカットボールを投げ込む。

 

カキンッ!

 

バットを振りきったパワプロの打球は場外へと消える大ファールとなった。

 

歓声と悲鳴がマウンドの成宮に入り雑じって聞こえるが、成宮に動揺はなかった。

 

(どれだけ飛ばしてもファールはファールだし。)

 

3球目、成宮はアウトローぎりぎりに決め球であるチェンジアップを投げ込む。

 

この1球をパワプロは辛うじてバットに当ててファール。

 

4球目もアウトローにチェンジアップを投げ込んだが今度はボールゾーンに外れ、パワプロはこの1球を見逃した。

 

見逃されたが成宮と原田に動揺はない。

 

今の1球は次の1球への布石だからだ。

 

アウトコースにチェンジアップを2球続ける事でコースと球速に慣れさせて、パワプロをインコースで打ち取る為の配球。

 

パワプロがインコースを得意としているのは既に多くの者に知られている。

 

その得意なインコースでエースのパワプロを大事な場面で打ち取る事で流れを呼び込む。

 

これが成宮と原田が出したパワプロに勝つ方法だった。

 

カウントはワンボール、ツーストライク。

 

勝負をするには絶好のカウントだ。

 

成宮は原田が出したサインに迷わず頷いてセットポジションに入る。

 

そして、インローに高速チェンジアップを投げ込んだ。

 

前の1球よりも速いボールでインコース…フォーシームと勘違いしてスイングをする可能性は十分だった。

 

更にインローのストライクゾーンから僅かにボールゾーンへと変化する事で空振りや打ち損じを誘う。

 

成宮はリリースの瞬間に、原田はパワプロがアクションを起こした瞬間にこの打席の勝負の勝利を確信した。

 

だが、パワプロの狙いは最初から1打席目に打ち取られたインコースの高速チェンジアップだった。

 

カキンッ!

 

金属バットの快音が鳴り響くと、原田はマスクを勢いよく外しながら立ち上がって打球の行方を確認する。

 

打球は右中間を高々と飛んでいる。

 

もし中堅手のカルロスが打球に追い付いてもタッチアップには十分な飛距離だ。

 

だが、パワプロが放った打球は右中間フェンスに直撃した。

 

右中間フェンスでボールが跳ねたのを見た原田はポトリとマスクを落としてしまう。

 

青道のランナー二人がホームインしたのを見た成宮は大きく息を吐くと、諦めずに次の打者である結城に意識を向けるのだった。




次の投稿は13:00の予定です。

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