パワプロ達がアメリカに渡った頃、青道高校のグランドでは練習試合が行われていた。
甲子園を経験した3年生達が引退した事もあって、青道では新戦力を含めた新しいチームの形を模索している所なのだが、青道の支柱であるパワプロと御幸がいない事もあって、青道高校野球部の新しい1軍はどこかまとまりに欠けていた。
そんな1軍メンバーが都外の強豪校を相手にダブルヘッダーで練習試合をしているのだが、その試合内容は秋の大会に暗雲を感じるものになっていたのだった。
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午前に1試合目の練習試合を終えて午後となった現在、2試合目の練習試合は4回を迎えていた。
「川上、準備をしておけ。」
「はい!」
片岡の指示で川上がアップを始める為にベンチを立ったのを、落合は横目でチラリと見る。
(思ったよりも東条を引っ張ったが…まぁ、まだ1年だと考えれば上出来か。)
そう思いながら落合はマウンドに立つ東条に目を向ける。
(川上が今準備を始めた事を考えると6回までだな。3回までで2失点といった結果だが、2巡目以降の強豪打線相手にどこまでやれるか…。)
頭を掻く落合は午前中に行われた1試合目の事を思い出す。
(沢村、降谷共にランナーが出たら、相手にいいように揺さぶられていた。経験不足もあるが、それ以上に知識と技術が不足しているな…まぁ、収穫はあったがね。)
1試合目の沢村と降谷は、落合が思い出している通りにいいように相手に揺さぶられて大量失点をしてしまい1試合目の練習試合に負けてしまった。
だが沢村は天性のバントの上手さを、降谷は長打力を発揮して後に繋がるだろう好材料を見せた。
(降谷は葉輪の様に外野を兼任させるのもありだな。外野守備で走らせて足腰を、低く速い送球で肩を鍛えれば後々に活きてくる。)
落合は顎髭をしごいて東条を見ながら、沢村の事も考える。
(沢村は…とりあえずアウトコースのピッチングを覚えさせるか。どうもインコースの力勝負に拘る傾向が強いからな。降谷もそうだったが…これもエースの影響かね?)
良くも悪くも後輩達に影響を与えるパワプロに、落合はため息を吐く。
(フィールディングにセットポジションと沢村と降谷はまだまだ課題が山積みか…。だが、指導しがいがある原石ってところか。)
コーチとしての腕の振るいがいがないエースの事を思い浮かべた落合は苦笑いをするのだった。
◆
場面は変わってアメリカでの練習初日を終えたUー18硬式野球日本代表メンバーは、宿泊先に戻って身体を休めていた。
その身体を休めている時、パワプロと御幸が泊まる部屋に成宮と原田が訪れていた。
「なぁ、パワプロ。お前、卒業したらアメリカに行くって本当か?」
「おう!本当だぜ、成宮!」
「ふ~ん。」
自分から聞いておいて興味がない様な声で返事をする成宮だが、その実はかなり気にしていた。
「成宮はどうするんだ?」
「俺?俺はドラ1でプロに行くに決まってるだろ。」
「メジャーには興味なし?」
「俺はプロでNo.1になるから、それから大手を振ってメジャーに行くのも悪くないな。」
そんな二人の会話を小耳に入れながら、御幸と原田はキャッチングの事について話し合っていた。
「御幸、葉輪のスライダーだが、どうしている?」
「パワプロのスライダーは横滑りしますよね?なので普通なら脇を開けてミットを横に使う様にするんですけど、右打者のインローに要求する時は逆に脇を閉めてますね。」
「脇か…。」
原田はそう呟きながら左手を動かしてイメージをする。
「まぁ、俺も最初はパワプロのスライダーを取れる様になるまで時間が掛かりましたから。」
「だが、今は苦戦しているようだな。」
「進化が止まらない頼もしい相棒ですからね。」
御幸がそう言って肩を竦めると、対戦した者として実感があるのか原田が頷く。
「次回は俺から葉輪のボールを受けさせてもらうぞ。」
「お断りしますよ、原田さん。パワプロのボールを受けるのは誰にも譲りません。」
その後、パワプロと成宮が飲み物を買いに行った際に、宿泊施設内で迷子になっていた轟 雷市を保護したりといった一騒動があったりしてアメリカでの日々が過ぎていく。
そして1週間が経ち、Uー18硬式野球国際大会の予選リーグが始まるのだった。
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