「『どうやら間に合ったみたいだな。』」
一人のアメリカ人男性がUー18日本代表とUー18アメリカ代表の決勝戦が行われる球場に姿を現す。
そんな彼に声を掛けた者がいた。
「『ヘイ、マイク!こっちだ!』」
マイクと呼ばれた男性が目を向けると、そこにはロジャーズスカウトのベックの姿があった。
「『サンキュー、ベック。』」
ベックの隣の席にマイクが腰を下ろす。
「『マイク、コークでいいかい?』」
「『残念ながらビアーは経費で落ちないからね。コークでいいよ。』」
肩を竦めながらそう言うマイクの姿にベックが笑う。
「『ところでベック、君が日本で声をかけたという選手はどこにいるんだ?』」
マイクの問い掛けに、ベックはブルペンにいるパワプロを指差す。
「『彼がパワプロか。それで、彼はどんな選手なんだ?』」
ベックはメモ帳を手にパワプロを紹介していく。
「『190cm以上の長身サウスポーで、現在は最速97マイル(約155km)のファストボールを投げるよ。』」
「『97マイル!?彼はまだハイスクールの2年生なんだろう?』」
「『あぁ、その通りだ。』」
驚いて目を見開きながらマイクはパワプロのアップの様子を観察する。
「『彼の球種は?』」
「『カーブにスライダーが2種類、そしてチェンジアップだ。』」
「『器用だな。やはり日本人だからか?』」
腕を組んでパワプロの観察を続けるマイクは、更にベックに問い掛ける。
「『彼にムービングボールは無いのかい?』」
「『あぁ、無いよ。』」
「『オールドスタイルか。そこが不安だな。』」
マイクの言葉にベックが笑いを噛み殺す。
「『なんだい?笑いを堪えているようだが?』」
「『マイク、パワプロは日本でモンスター(怪物)のニックネームをもらっているんだよ。』」
「『モンスター?J・コンラッドと同じニックネームじゃないか…まさか、ベックはパワプロがコンラッドに匹敵する選手だというのかい?』」
「『ハッハッハッ!違うよ、パワプロはコンラッドに匹敵するのではなく、コンラッド以上の選手なのさ。』」
手を広げるオーバーアクションでベックがそう言うと、マイクが驚いて目を見開きながらベックを見る。
少しの間、そのまま呆然とベックを見ていたマイクは不意に不敵な笑みを浮かべた。
「『ベック、そこまで言うのなら賭けるかい?』」
「『あぁ、いいよ。僕はパワプロがノーヒットノーランを達成する事に賭ける。』」
「『ノーヒットノーラン?今大会は100球の制限があるんだぞ?』」
「『パーフェクトと言わないだけ、僕は謙虚に言ったつもりだけどね。』」
自信満々なベックの様子に、マイクは口笛を吹く。
「『ところでベック。』」
「『なんだい、マイク?』」
「『僕が賭けに負けたら、奢るのはバーガーでいいかい?今月はちょっとピンチなんだ。』」
「『ハッハッハッ!コークもつけてくれよ。』」
ベックの要求に、マイクは安堵のため息を吐いたのだった。
◆
ブルペンで試合前の投げ込みをしていると、いつもよりも身体が軽く感じる。
投げられなくてフラストレーションが溜まっていたのかな?
パァン!
フォーシームを投げ込むと一也のミットが快音を鳴らす。
うん、試合の後半みたいにボールがキレてる。
早く試合が始まらないかなぁ…。
国際大会の決勝戦。
この大舞台が始まるのを、俺はリトル時代に初めて先発をする事が決まった時みたいな気持ちで、ソワソワしながら待ち望んでいたのだった。
次の投稿は午後3:34の予定です。