Uー18硬式野球国際大会の決勝戦、アメリカ代表と日本代表の試合の7回の表のマウンドに向かう中で、アメリカ代表のエースであるコンラッドは不敵な笑みを浮かべていた。
(メジャーのスカウトにアピールするだけの場だと思っていたが、まさかこれ程の相手と投げ合えるとはな。)
6回を終えて球数71、奪三振14はコンラッドにとってベストピッチである。
しかし、投げ合っているパワプロは6回を球数60、奪三振15でパーフェクトゲームを継続中とコンラッドを上回るピッチングをしている。
『ビッグユニット二世』、『モンスター』のニックネームで呼ばれる様になってからのコンラッドには、ライバルと呼べる相手がいなかった。
そんなコンラッドは久しく現れた強敵に心が昂っていた。
(100球の球数制限が煩わしく感じるのは初めてだ。フウロ・ハワだったな?お前との投げ合いは最高だぜ。)
その後、コンラッドは8回の表まで日本打線を完封してマウンドを下りる事になる。
彼は日本代表を相手に8回を球数97、奪三振19、被安打1の成績を叩き出したのだった。
◆
8回の裏もパワプロが三人で抑えると、日本代表とアメリカ代表の試合は無得点のまま9回の攻防を迎えた。
「残念ながらコンラッドの攻略はならなかったが、気持ちを切りかえろ!」
「「「はい!」」」
アメリカ代表の2番手投手としてスリークォーターから投げる右腕のムービングボーラーが登板した。
この2番手投手も最速150kmを誇っていたが、日本代表打線にしてみればコンラッドよりもずっと与し易かった。
先頭打者の8番バッターがライト前ヒットで出塁すると、9番バッターが送りバントでランナーを2塁へと進めた。
ワンアウト、2塁の状況で打席には1番のカルロスが右打席に入る。
カルロスは初球をトライアングルと呼ばれる位置にプッシュバントした。
ピッチャー、セカンド、ファーストがお見合いをする内に、カルロスは快足を飛ばして1塁を駆け抜けていた。
急遽集められた代表チームの連携の拙さを突いた見事な奇襲だ。
動揺するアメリカ代表チームに日本代表打線が畳み掛ける様に仕掛ける。
カルロスに続いて打席に入った白河にスクイズのサインが出た。
これを白河はきっちりと決めて、日本代表チームは待望の先制点を奪い取る。
残念ながら日本代表チームの3番打者は打ち取られて1点止まりだったが、日本代表チームはこの1点で勝利を確信した。
何故なら、まだ球数に余裕を残すエースのパワプロが9回のマウンドに上がるからだ。
そんな期待を背負ったパワプロは、球場のベースボールファンによるスタンディングオベーションに包まれながらマウンドに上がるのだった。
◆
「一也、左手は大丈夫か?」
「後1イニングだけならな。」
ここまでパワプロのボールを受けてきた御幸の左手は真っ赤に腫れ上がっていた。
これに日本代表チームの監督は気付いてキャッチャーを原田に交代しようとしたが、原田は今日のパワプロの変化球は受けきれないと監督に伝えた。
この原田の一言で監督は困り果てた。
原田にキャッチャーを交代するならばパワプロも交代しなければならない。
しかしそうすると、パーフェクトゲームを継続しているパワプロを交代する事になり、盛り上がっている現地のベースボールファンからのブーイングは免れないだろう。
さらに帰国した後にマスコミへの申し開きをしたり、協会から問題追及される可能性がある。
責任者としては御幸にケガをさせるわけにはいかない。
だが、諸々の大人の事情が監督の決断を鈍らせた。
しかしそんな監督に御幸は行けると告げた。
そこで監督は苦心の末に、ランナーを一人でも出したらノーノーが継続していてもバッテリー交代をすると日本代表メンバー全員に通達したのだ。
「日本に帰ったら直ぐに秋の大会だぞ?」
「わかってるさ。でも、ここで無理しなきゃ男じゃないだろ?」
御幸の決意を知ってパワプロは笑みを浮かべる。
「それじゃ、完全試合をやるか!」
「おう!」
パワプロと御幸は利き手で握り拳を作って軽く合わせる。
そして御幸の決意に応えたパワプロは、Uー18硬式野球国際大会の決勝戦という大舞台で完全試合を成し遂げたのだった。
本日は5話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。