Uー18硬式野球日本代表メンバーがアメリカから帰国すると日本の取材陣に囲まれた。
成宮や原田、轟といった者達が次々に声を掛けられているが、パワプロに取材の声を掛ける者はいない。
中には声を掛けた者達もいるのだが、そういった者達は今大会の事ではなく、パワプロが高校卒業後にアメリカに行く事を追及してきた。
曰く、不誠実。
曰く、裏切り。
これらの言葉を並べ立ててパワプロに追及していく様子は、Uー18国際大会の優勝に貢献した功労者に対するものとはとても思えない。
並みの青少年ならば夢を諦めて、彼等の言葉から逃げる為にプロ野球に進んだかもしれない。
だがパワプロは並みの青少年ではなかった。
彼の野球への情熱はこの程度では微塵も揺らがない。
それにパワプロには前世で社会人だった経験もある。
なのでこの程度の状況ならば笑顔で対処出来るのだ。
パワプロは事前に用意していた言葉を放つ。
それは『職業選択の自由』。
これは高島や片岡といった教員から貰った助言だ。
この一言で数に物を言わせて圧力を掛けていた大人達は二の句を継げなくなった。
そんな大人達を尻目に、パワプロは笑顔で堂々と囲みを抜けた。
そのパワプロの後ろに御幸が笑いを堪えながら続く。
すると、その先には月刊野球王国の記者である峰と大和田の姿があった。
「あ、峰さん、大和田さん。」
「お帰り、葉輪くん。そして、優勝おめでとう。」
「ありがとうございます。」
峰がパワプロに声を掛けると、御幸には大和田が声を掛けた。
「御幸くん、少しお話しいいかしら?」
「お手柔らかにお願いしますよ、大和田さん。」
大和田が簡潔に御幸に質問している様子を横目でチラリと見た峰は、目を戻してパワプロと話をしていく。
「先ずは同じ記者として謝らせてくれ。」
「別に峰さんが謝る必要はないと思いますけど?」
「これから先、うちの取材を優先して欲しいという打算があるのさ。」
「それじゃ、峰さんの謝罪を受け取ります。」
正直な峰の物言いにパワプロは苦笑いをしながら答える。
「秋の大会まで時間が無い中であまり引き止めるわけにもいかないから2つだけ質問させてもらうよ。1つ目、向こうのマウンドやボールはどうだったかな?」
「想像以上にボールをコントロール出来ませんでしたね。」
「メジャーに渡った先人達も苦労した点だからね。葉輪くんも苦労するのも仕方ないさ。でも、その割りには決勝戦で抜群のコントロールだったね?」
「あの時は調子が良かったんですよ。」
サラサラと淀みない手付きで峰は手帳にメモをしていく。
「それじゃ最後に…国際大会の大舞台は楽しかったかい?」
パワプロは峰の質問にとても良い笑顔で返事をしたのだった。
◆
Uー18硬式野球日本代表が帰国した翌日、まだ時差ボケが残る中でパワプロと御幸は青道高校野球部の練習に参加していた。
3日後には秋の大会が始まるからだ。
だがパワプロは先日に完投したばかり、そして御幸は左手を痛めているため、二人は軽い練習での調整となった。
そんな二人は今、ブルペンで見学をしている。
パワプロは投手陣に、御幸はキャッチャー陣に気付いた事をアドバイスするためだ。
「沢村、降谷、チェンジアップを投げる時に腕の振りが緩くなってるぞ~。」
「オスッ!」
「はい。」
パワプロのアドバイスに従って沢村と降谷はチェンジアップを投げ込んでいく。
「小野、狩場、そうやってチェンジアップを追っ掛けて捕ると、ミットが垂れて見えるから低めの時にストライクを取ってもらえなくなるぞ。」
御幸のアドバイスに従って小野と狩場はキャッチングを修正していく。
そんな彼等の様子に落合は不敵な笑みを浮かべていた。
(葉輪は相変わらず凄い奴だが、御幸は国際大会の大舞台を経験したからか一皮剥けた様子だな。新チームの戦力に不安が残る中で頼もしい限りだ。)
落合がそんな思いで見守っている中でブルペンでの練習は続いていく。
ある程度感触を掴んだところで、沢村と降谷は川上と東条に交代した。
「東条、スライダーを投げる時に肘が下がってるよ。ノリは新しく覚えたカーブを投げる時に手首が寝ちゃっているから気を付けて。」
パワプロのアドバイスで投手陣の球質がドンドン良くなっていく様子に、落合は目を見開く。
(やれやれ、葉輪にはコーチとしての才能もあるようだな…。)
自分の仕事を奪われた落合は、苦笑いをしながら顎髭を撫でたのだった。
次の投稿は13:00の予定です。