高校野球で初めての公式戦でありながら、降谷は緊張を見せずに1回の表を三者凡退で抑えた。
続く1回の裏の青道高校の攻撃、1番バッターの小湊 春市が右打席に入る。
(左のサイドスロー…どんな球筋なのかな?)
夏の大会でベンチ入りを果たし、代打で公式戦に出場した経験を持っているからか、春市は打席でも自然体でバットを構えていた。
そんな春市に対して向井は初球にアウトローのスライダーを投げ込んだ。
(遠い…ボール球?)
春市は初球をボール球と判断して見送った。
しかし…。
「…ストライク!」
一瞬の間があったが主審はストライクをコールした。
この判定に春市は前髪に隠れている目を見開いて驚いた。
(ベースの前じゃなくて奥を通った?俺の見間違い?)
春市はバットを構え直して次のボールを待つ。
2球目、向井はインコースへとボールを投げ込んだ。
春市はボールが身体に当たると判断し身構える。
だが…。
「ストライクツー!」
春市は振り返ってミットの位置を確認した。
(…今のはスクリュー?)
向井の決め球であるスクリューに春市は冷や汗を流す。
(身体に当たると判断して身構えたのにインコース一杯に入るとはね…。)
兄の亮介が認める程の才能を持つ春市だが、まだ1年生の春市には体験した事の無い角度からくるボールに1打席で対応する事は出来なかった。
「ストライクスリー!バッターアウト!」
三振に倒れてしまった春市だが、次のバッターである白州とネクストバッターサークルに入ったパワプロに、向井の球筋を伝えてからベンチに戻ったのだった。
◆
亮さんの弟くんが三振に打ち取られると、次のバッターの白州はサードゴロに打ち取られた。
そしてツーアウト、ランナー無しの場面で俺に打順が回ってくる。
左打席に入った俺は、なんか睨んできている様に見える帝東のピッチャーに目を向ける。
(万が一にも当てられない様に気をつけろかぁ…。)
ネクストバッターサークルに向かう前に一也にそう言われたんだよね。
一也は国際大会の決勝でアメリカ代表のエースのコンラッドと対決している。
一也が言うには左のサイドスローの球筋は、左バッターの俺達からすると背中からボールが出てくる様に感じて、ストライクかボールかの判断がしにくいらしい。
(コントロールは良さそうだけど、やっぱり気をつけないとな。)
俺のバッティングの基本はリトル時代から変わっていない。
先ずはボールをぶつけられない様に気をつける。
ケガをして投げられなくなるのが一番嫌だからな。
そんな風に考えながらバットを構えると、帝東のピッチャーが投球モーションに入った。
初球は…アウトコースへのスライダー?がストライクになる。
(思った以上にボールが見にくいなぁ。)
一也の言った通りにボールが背中から出てくる様に感じて、身体に当たるかどうかの判断が他の投手に比べて遅れてしまう。
(インコースを1球見ておきたいな。)
インコースしか待たない俺がこのボールを打つには、早くインコースの球筋を見ておきたい。
2球目、帝東のピッチャーはアウトコースへのスクリュー?を投げてきた。
これもストライクでツーストライクと追い込まれた。
(外れると思ったボールがストライクゾーンに入り込んできた。面白いボールだなぁ。)
成宮のボール以上に横の角度が凄い帝東のピッチャーのボールに、俺は自然に笑みが浮かぶ。
(ピッチャーの数だけ色んなピッチングがある…やっぱり、野球って面白いぜ!)
3球目、アウトコース一杯に投げられたフォーシームにバットを振る。
ガキッ!
バットの先っぽに当たった打球は、3塁線を切れてファール。
俺が笑顔でマウンドに目を向けると、そこには帝東のピッチャーの不満そうな顔があった。
(アウトコースに3つ続けたし、次はインコースに来るかな?)
4球目、俺の予想通りにインコースにボールが来た。
けど、俺はボールが身体に当たると判断してバットを振らずに避ける。
すると…。
バシッ!
「ストライクスリー!バッターアウト!チェンジ!」
俺が身体に当たると判断したボールはそこから横の変化をして、インコースのストライクゾーン奥一杯に入り込んだ。
(こんなピッチングもあるんだな!試合が終わったら一也と相談しよう!)
打ち取られても笑顔でベンチに戻る俺とは対称的に、帝東のピッチャーは不満そうな表情でマウンドを下りていったのだった。
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