『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です。


第235話

青道と帝東の試合の2回の裏、向井から御幸がソロホームランを打った。

 

この1打に動揺した向井はコントロールを乱し、この回で3失点をしてしまった。

 

3回は両チーム共にバットから快音が響かなかったが、4回の表で降谷が突如コントロールを乱す。

 

帝東は打者2巡目という事もあって、コントロールが乱れた降谷を攻め立てる。

 

先頭打者である1番バッターが四球で出塁すると、降谷を揺さぶるべく帝東の2番バッターがバントの構えを見せた。

 

降谷は落合や片岡、そしてパワプロの指導もあってピッチングはかなりの成長を見せているが、フィールディングはまだ覚束無い。

 

その為、帝東の2番バッターがバントの構えを見せると、降谷はどこかぎこちない動きでバントに対処しようと前に詰めた。

 

この降谷の動きを見た帝東の監督は、バッターにあえて降谷の前にボールを転がす様にと指示を出す。

 

あわよくばバッターランナーも生きられるという思惑で出したこの指示は的中した。

 

なんと、降谷は目の前にきたボールをお手玉してしまったのだ。

 

さらに送球も浮いてしまった事でバッターランナーもセーフになり、ノーアウト、ランナー1、2塁の状況が出来る。

 

一発出れば同点の場面で帝東の打者はクリーンナップの3番。

 

色濃い得点の臭いに帝東ベンチとスタンドの帝東を応援している者達が沸き立つのだった。

 

 

 

 

「予想よりも早かったですな。降谷には5回までいって欲しかったのですが…。」

「えぇ、流石は夏の大会で甲子園に出場した強豪校です。」

 

落合の言葉に片岡は肯定する様に頷きながら言葉を返す。

 

「それで、降谷はどこまで引っ張るつもりですか?」

「失点をするまでは。」

「大丈夫ですかな?」

 

落合の問い掛けに、片岡はマウンドの降谷から落合に目を移す。

 

「責任は私が取ります。」

 

そう言って片岡がマウンドの降谷に目を戻すと、落合はため息を吐いた。

 

(やれやれ、負けたら終わりのトーナメントでこんな無茶が出来るのも葉輪がいてこそだな。)

 

そう思いながら落合は目をパワプロに向ける。

 

(エースか…野球界では色々なエース像が語られるが、葉輪の様なエースは俺のコーチ経験でも初めてだ。)

 

力投でチームを鼓舞するエース、チームの中心的存在として仲間を引っ張るエースなど色々な形があるが、どの様な場面でも笑顔で楽しむエースの姿を落合は見たことがなかった。

 

(これから先、俺のコーチ人生で葉輪の様な選手と出会う事は二度と無いだろう。あと1年、葉輪はどれだけの伝説を高校野球界に残していくのやら…。)

 

自身の想像に苦笑いをした落合は、東条と川上にアップの指示を出しにいくのだった。

 

 

 

 

ノーアウト、ランナー1、2塁のチャンスの場面で打席に立った帝東の3番打者は、甘いコースにきた降谷のフォーシームを左中間に弾き返すタイムリーヒットを放った。

 

パワプロが素早く打球を処理した事で2塁ランナーしかホームに帰れなかったが、それでも2点差に追い付いてなおもノーアウト、1、2塁とチャンスが続き、打者は4番の乾を迎える。

 

帝東ベンチとスタンドの帝東を応援する者達が乾に歓声を送るが、その歓声はざわめきへと変わる。

 

それは青道ベンチから片岡が動いたからだ。

 

片岡が主審に話を伝えると、少ししてウグイス嬢から場内アナウンスが流れる。

 

『青道高校の守備の変更をお伝えします。ピッチャー降谷に代わりまして葉輪、背番号1。レフト葉輪に代わりまして…。』

 

この場内アナウンスが流れると、スタンドの青道を応援する者達から歓声が上がった。

 

その歓声を背に受けながらパワプロがマウンドに向かう。

 

そんなパワプロの姿を見て、球場に足を運んでいたとある者達が笑みを浮かべた。

 

それは、引退した元青道高校野球部の3年生達だ。

 

「伊佐敷、降谷のピッチングをどう見る?」

「スタミナが無いあいつにしちゃ上出来だろ。」

「俺はもう少し持つと思ったんだがな。」

「降谷は力み過ぎなんだよ。まぁ、俺も前はそうだったけどな。」

 

ピッチャーとしての目線で丹波と伊佐敷が話をしていく。

 

「やれやれ、後輩達のピンチだっていうのに、丹波も伊佐敷も薄情だね。」

「あん?そう言う小湊はどうなんだよ?」

 

小湊 亮介がさらっと毒を吐くと、それに伊佐敷が言葉を返す。

 

「春市がエラーをしないかが心配だね。パワプロの後ろを守るのは独特の緊張感があるから。」

「小湊の言う通りだが、あれほど頼もしいエースは他にいない。」

 

亮介の言葉に結城がそう言うと、その場の3年生達は同意する様に頷いた。

 

「クリス、お前ならこの場面を無失点で切り抜けられるか?」

 

宮内が問いを投げ掛けると、クリスは投球練習を始めたパワプロに目を向ける。

 

「グランドにいないと感じられない勝負の流れもあるが…。」

 

そこまで言うと、クリスは笑みを浮かべる。

 

「あいつとなら、例えプロが相手でもこの場面を無失点で抑えられるだろうな。」




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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