『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿4話目です。


第239話

秋の高校野球選抜東京地区大会の第3回戦、青道高校と仙泉学園の試合が始まった。

 

先攻は青道。

 

1回の表、仙泉学園の先発マウンドに上がった真木は、青道の先頭打者である小湊 春市にツーボール、ツーストライクと追い込んだ状況からライト前ヒットを打たれてしまう。

 

これは真木の立ち上がりが悪いわけではなく、春市が真木の球質に近いボールを知っていたのが大きかったと言えるだろう。

 

真木は直球が決め球で持ち球にカーブを持っているのだが、青道には右腕のカーブの使い手である丹波、そして右の速球派である伊佐敷がいたのだ。

 

その二人のボールを春市は紅白戦の打席で見ており、さらに右の速球派の降谷のボールも見てきている。

 

その為、春市は真木のボールに1打席で対応出来たのだ。

 

マウンドの真木は少し目を見開いてショックを受けていた様だが、ネクストバッターサークルに入ったパワプロの姿を見ると闘志を燃やす。

 

ノーアウト、1塁の状況で打席に入った2番打者の白州はバントで春市を2塁に送る。

 

白州は華のあるプレーは少ないが、こういった堅実なプレーの確実さは青道でも1、2を争う程に優秀な選手なのだ。

 

キャプテンである白州がチームプレーで春市を2塁に送ると、スタンドにいる青道野球部2軍、3軍の者達が大声で称賛を送った。

 

これはキャプテンとして普段から多くの者達とコミュニケーションを続けて信頼を築いていた白州の人徳が現れたといえるだろう。

 

ワンアウト、2塁のチャンスの場面でパワプロが打席に入る。

 

そのパワプロをマウンドの上から真木は睨んでいた。

 

ここで仙泉学園の監督である鵜飼はキャッチャーにタイムを取らせてマウンドに行かせる。

 

青道のスカウトから声を掛けられる事を望んでいた真木がパワプロを相手に熱くなるのは理解出来るが、ここは慎重になるべき場面であるからだ。

 

キャッチャーの言葉を受けた真木がマウンドをスパイクで均す。

 

その真木の姿を見ても鵜飼は不安を拭えなかった。

 

(真木はインコースの真っ直ぐで勝負にいくだろうな…。)

 

パワプロがインコースに強い事は高校野球界では周知の事実として広まっている。

 

だが、だからこそインコースでパワプロを打ち取ってプロのスカウトにアピールをしたいという選択をする選手も多いのだ。

 

しかし…。

 

カキンッ!

 

その選択をした多くの者は今の真木の様に返り討ちにあってしまっている。

 

スタンドに打球が飛び込んだのを見た真木は、膝に手を付いて項垂れたのだった。

 

 

 

 

青道高校と仙泉学園の試合は1回の表にパワプロのツーランホームランと御幸のソロホームランが飛び出した。

 

5番バッターの前園もツーベースヒットを打ったが、後続が続かずに1回の表は3得点で終わる。

 

そして1回の裏、沢村にとって初めての高校野球公式戦が始まるのだった。

 

 

 

 

「ガンガン打たせていくんで、よろしくお願いします!」

 

振り返った沢村がマウンドの上でそう叫ぶと、青道メンバーが次々に返事をする。

 

「ヒャハ!後輩の面倒は見ねぇとな!」

「任せてよ、栄純くん!」

「沢村!しっかりと腕を振っていけ!」

 

遊撃手の倉持、二塁手の春市、そして中堅手でキャプテンの白州が大きな声を沢村に送る。

 

そんな仲間達の声に、沢村はマウンドの上で笑顔を浮かべた。

 

(ハハ、今ならパワプロ先輩がマウンドで笑顔になる理由がわかる気がする。)

 

中学時代の仲間達と楽しむ野球も面白かった。

 

だが、高校野球でも最高峰のレベルで切磋琢磨しあえる今が楽しくて仕方ない。

 

御幸のサインに頷いた沢村は、抑えきれぬ笑顔のまま投球モーションに入る。

 

沢村の天性の身体の柔らかさが生み出すボールの出所の見えにくさが、仙泉学園の先頭打者にタイミングを取らせない。

 

パァン!

 

初球が御幸のミットに納まり主審がストライクをコールすると、沢村は拳を握り締める。

 

(俺は…間違いなく野球が上手くなってる!)

 

中学時代無名だった沢村が、高校野球初めての公式戦で躍動するのだった。




次の投稿は午後3:34の予定です

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