青道高校と仙泉学園の試合は6回の裏まで進んでいた。
6回の表までに青道高校は真木から8点を奪っている。
対して仙泉学園は5回の裏までに何度もチャンスの場面は作るものの、後一本を沢村から打つことが出来ていなかった。
沢村のボールはパワプロの様に打席の外から見てもわかる様な凄いものではない。
それ故にスタンドからは仙泉学園の打者に向けて野次の様な声が含まれた声援が飛んでいる。
しかし沢村のボールの真価は打席に立ってみて初めてわかるのだ。
ボールの出所の見えにくさ、思ったよりも手元でピュッと来る真っ直ぐ、そして腕の振りが真っ直ぐと同じツーシームとチェンジアップ。
これらを持った沢村を御幸がリードする事で、仙泉学園打線を無失点に抑えているのだ。
他にも沢村の明るい雰囲気や投球テンポの良さが守備にいいリズムを作り出しているのもあるが、前述の事が仙泉学園打線を抑える事が出来ている大きな要因だろう。
そんな1年生とは思えない快投を見せているマウンドの沢村の元に御幸が足を運んでいる。
「沢村、たぶんだけどお前はこの回までだ。」
「えっ!?俺はまだ行けますよ!」
「その意気込みはいいんだけど、お前のボール浮きはじめているぞ。」
「うっ!?」
「その様子だと、まだ疲れているっていう自覚はないみたいだな。」
ここまでの投球で沢村のボールのキレは失われていないものの、5回の裏からコントロールが乱れ始めていた。
それでも仙泉学園打線を抑えられたのはコールドゲームを回避しようという焦りが大きい。
「まぁ、初めての公式戦でここまでやれたなら上出来だろう?」
「パワプロ先輩の公式戦デビューはどうだったんですか?」
「7イニングを8奪三振、被安打7、3失点だったよ。」
御幸の言葉に沢村が驚いて目を見開く。
そんな沢村の姿に御幸はミットで口を隠しながら笑った。
「あいつだって最初から今みたいなとんでもないピッチャーだったわけじゃないぞ。もっとも、リトルでもシニアでも俺が知る限りナンバーワンのピッチャーだったけどな。」
そう言った御幸はミットでポンッと沢村の胸を軽く叩く。
「さぁ、疑問や質問は試合が終わったら聞いてやるから、先ずはきっちりと抑えようぜ。」
「…おう!」
ちなみに御幸は、ここで沢村がパワプロのデビューの時期を勘違いしている事に気付いているがあえて指摘しない。
それをしたら沢村が対抗心を燃やして力むと確信しているからだ。
マスクを被って人の悪い笑みを隠した御幸がキャッチャーボックスに座ると、マウンドの沢村が大きく息を吸い込んで声を上げる。
「またガンガン打たせて行くんで、よろしくお願いします!」
沢村の声に反応した守備陣にいい雰囲気に微笑んだ御幸は、サインを出してスッとミットを構えたのだった。
◆
「小野、帰ったらボール受けてくれない?」
俺達は9ー1で仙泉学園に7回コールド勝ちをしたんだけど、俺の登板はなかったんだよね。
だから投げ込みをしたくて、こうして試合が終わった後に小野に声をかけてみた。
ちなみに沢村が6イニングを1失点、東条が1イニングを0失点の結果だった。
「パワプロ、俺が受ける。」
「一也でも構わないけど、ノリや降谷のボールも受けておいた方がいいんじゃない?」
「そうだぞ御幸。パワプロの相手は俺に任せておけ。」
そう言って勝ち誇った様なドヤ顔をする小野に、一也が笑顔を返す。
「いやいや小野さん、大会期間中に指をケガしたらまずいんじゃないですか?」
「いやいや御幸さん、これから先にケガをしない為にもパワプロのボールを受けておかないと。」
お互いに笑顔を浮かべながら話しているのに、目から火花が出ている様に見えるのは気のせいかな?
「降谷、どっちに受けて欲しい?」
「御幸先輩で。」
俺の問いかけに降谷がそう答えると、一也と小野はさらに笑顔のまま会話を続けていくが、落合コーチの介入で俺のボールは小野が受ける事に決まった。
この一件で一也は目に見えて落ち込んだんだけど夏川がそんな一也を慰めていた。そうすると、青道野球部の多くの人達が息の合った連携で二人に中指を立てたのだった。
本日は5話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。