『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第242話

秋の高校野球選抜東京地区大会の第4回戦である準々決勝の日、降谷に代わって急遽先発する事になった東条は念入りに身体を解していた。

 

「高校野球で先発をする気分はどうだ?」

「正直に言うと緊張してますね、御幸さん。」

 

身体を解している時に御幸に問い掛けられた東条は苦笑いをしながら答える。

 

「今回は降谷が爪を割ったから先発出来ますけど、春の甲子園では実力で奪います。」

「ははっ、そういう気持ちを持っている奴をリードするのは大歓迎だ。」

 

御幸は身体を解している東条の肩を軽く叩くと、自身も身体を解し始めたのだった。

 

 

 

 

青道が準々決勝で戦う相手は今年の夏まで財前がいた黒士舘高校である。

 

財前が引退した黒士舘にはパワプロや成宮の様な絶対的エースはいないが、トーナメントの組み合わせに恵まれた事で準々決勝まで勝ち上がってきた。

 

もっとも、彼等が勝ち上がれた要因はそれだけではない。

 

引退した財前が後輩達にムービングボール主体の打ち取るピッチングを指導したからだ。

 

この財前の指導がしっかりと継承されていけば、近い将来に黒士舘が強豪と呼ばれる日がやって来るかもしれない。

 

しかし今の彼等には、まだ強豪との試合は厳しかったのだろう。

 

1回の表の青道の攻撃で黒士舘は4点を失ってしまった。

 

パワプロのタイムリーツーベースヒットで1点、御幸のタイムリーヒットで1点、そして前園のツーランホームランで2点と奪われてしまったのだ。

 

だが黒士舘のメンバーの表情は明るかった。

 

負けて元々という開き直りだが、彼等は勝利至上主義が多くを占める高校野球のグランドをパワプロの様に笑顔で楽しんでいったのだ。

 

仲間がボールにバットを当てれば称賛の声を上げ、東条がコースギリギリのボールを投げればそれも称賛して野球を楽しむ姿はスタンドの観客達をも笑顔にした。

 

そんな彼等の声に影響されたのか、青道のベンチからも黒士舘の選手を称賛する声が飛び、スタンドからは双方を応援しあう声が飛び交った。

 

両チームの選手達全員が笑顔でプレーをして試合を楽しんだ。

 

しかし、勝負の世界とは残酷なものである。

 

黒士舘高校は青道高校に5回コールドで敗れてしまったのだ。

 

悔しそうに苦笑いをした黒士舘のメンバーは、スタンドから降る拍手の雨を背に受けてグラウンドを去っていった。

 

 

 

 

「東条!お前にエースナンバーは渡さないからな!」

 

黒士舘との準々決勝が終わって青道高校に戻ると、沢村が東条を指差しながら宣言した。

 

その沢村の宣言に同意する様に降谷も闘志を燃やす姿を見せる。

 

そんな二人を見て東条も受けて立つと言わんばかりに二人を見詰め返す。

 

(5回コールドだったが、結果としては先発をした1年生で唯一の無失点…。やはりピッチングの完成度は東条が頭一つ抜けているな。)

 

青道野球部1軍の1年生3人を落合が見比べていく。

 

(降谷はスタミナに大いに課題がある…。秋の大会で3回までしか持たんのでは、夏の大会で先発をさせるのは厳しいと言わざるをえない…。オフシーズンには徹底的に走り込ませないとな。)

 

降谷のコントロールはパワプロの助言で改善しつつあるものの、スタミナばかりは一朝一夕では身に付かない。

 

今大会で降谷自身がスタミナの重要さを自覚したのは好材料だが、落合は3年の夏までにものになれば十分だと考えていた。

 

(沢村は時折光るピッチングを見せるんだがまだ不安定だ…経験を積ませるためにも紅白戦を増やす事を片岡監督と検討すべきか?)

 

本格的に寒くなってくる前に出来るだけ紅白戦をと落合は考えるが、まだ秋の大会中だと気付いて苦笑いをする。

 

「パワプロが先発をするとなれば安心感しかないのはいいんだが、これに慣れすぎると1年後には苦労する事になるだろうな。」

 

気を引き締め直すために顔をピシャリと張った落合は、まだ睨み合いを続けている3人に声を掛けるために近付いていくのだった。




次の投稿は11:00の予定です。

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