『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です


第24話

夏の大会が終わった事で多くの6年生がチームを去っていったが、そんな中でクリスさんは

秋の大会まで残ると言った。

 

なんで残るのか聞いてみたんだけど、なんかやり残した事があるらしい。

 

MVPを取ってもまだ足りないとか、向上心が高過ぎる!

 

俺も負けられないぜ!

 

夏の大会のおかげでポイントがかなり貰えたのだが、秋の大会まであまり時間が無いので

制球だけ成長させる事にした。

 

成長させた感覚に慣れるのに時間が掛かるんだよね…。

 

制球のランクをSまで成長させて挑んだ、秋のリトルリーグ選抜東京地区大会。

 

丸亀リトルは順調に勝ち進んだ。

 

どこのチームも新戦力が纏まり終わっていない中で、MVPのクリスさんが残っているのが

大きいんじゃないかな?

 

一回戦は被安打3で完封勝利。

 

三回戦は松方リトルとの試合になったが、被安打2の完封勝利。

 

そして決勝戦の江戸川リトルとの試合。

 

俺は順調にアウトを積み重ねていき、マウンドで最後のバッターと対峙していた。

 

 

 

 

俺はマウンドからスコアボードに目を向ける。

 

スコアボードの相手側には0が並んでいる。

 

最終回である六回ツーアウト、バッターボックスには18人目の代打で出てきた

右打者が必死な表情で立っている。

 

そう、俺は完全試合を目前にしているのだ。

 

俺はプレートの左側に寄って立つ。

 

夏の大会が終わった後、クリスさんから貰ったアドバイスで立ち位置を変更したのだ。

 

『今の葉輪なら横の角度をつけてもボールを十分にコントロール出来るだろう?』

 

なんて言われたら挑戦せざるを得ないじゃないか!

 

そういった訳で今はプレートの左側が俺の立ち位置だ。

 

俺はクリスさんのサインを覗く。

 

クリスさんのサインは『ロージンバッグを使え』だ。

 

俺は逸る気持ちを抑えてプレートから足を外す。

 

すると、グラウンドに応援に来ている人達のため息が聞こえてくる。

 

焦らしてすまんな!

 

俺はロージンバッグを軽くポンポンとしてから改めてマウンドに立つ。

 

ドキドキが止まらない。

 

楽しくて仕方ない。

 

俺はクリスさんが出したカーブのサインに頷き投球モーションに入る。

 

しっかりと腕を振って投じられたカーブは、右打者にとってアウトコースのボールゾーンから

アウトローギリギリのストライクゾーンへと入り込んでくる。

 

パシッ!

 

「ストライク!」

 

審判のコールに驚いた打者が審判の顔を見る。

 

打者はタイムを取るとバッターボックスの外で素振りを始めた。

 

「確か、今のは《バックドア》って言うんだよな?」

 

俺はクリスさんの返球を受けながらそんな事を考える。

 

ちなみに、インコースのボールゾーンからストライクになるのは

《フロントドア》とか言うみたいだ。

 

素振りを終えたバッターが打席に入りながら気合いの声を上げる。

 

俺はそのバッターの気合いに笑顔を返す。

 

クリスさんのサインに頷いて2球目を投げる。

 

今度はインローにフォーシームだ。

 

バシッ!

 

ブンッ!

 

「ストライクツー!」

 

バッターが振り遅れてツーストライクと追い込んだ。

 

クリスさんがサインを出す。

 

俺が頷くと、クリスさんはミットをインハイのボールゾーンに構える。

 

クリスさんは夏の大会ではこういったボール球をあまり要求してこなかったのだが、

今大会ではそれなりに要求してくる。

 

そのおかげなのか、今大会ではかなり三振を奪う事が出来て凄い気分がいいのだ。

 

「これも駆け引きって奴なのかな?」

 

俺はクリスさんの要求通りにインハイのボールゾーンにフォーシームを投げる。

 

それに釣られたのかバッターがスイングをするが途中でバットを止めた。

 

捕球をしたクリスさんが塁審を指差してハーフスイングの判定を求める。

 

塁審の判定はハーフスイングでは無い。

 

う~ん、残念。

 

バッターは大きく息を吐くと主審にタイムを求める。

 

打席を外してスイングをする打者をクリスさんが横目で観察をしていく。

 

捕手の人はあれでどんな情報を読み取っているんだ?

 

俺にはサッパリわからん世界だ。

 

素振りを終えたバッターが打席に入る。

 

グランドに一際大きな歓声が聞こえてくる。

 

「フーくん!頑張って!」

 

そんな歓声の中でも貴子ちゃんの声がハッキリと届く。

 

俺はベンチの貴子ちゃんに笑顔を向ける。

 

貴子ちゃんの応援でテンションマックスだぜ!

 

俺はクリスさんのサインに頷く。

 

投じられたボールは1球目と同じバックドアのカーブ。

 

そのカーブは、まるで時の流れが遅くなったようにゆっくりとクリスさんのミットへ向かう。

 

バッターは先程のインハイが目に焼き付いた影響なのかバットが出ない。

 

パシッ!

 

グラウンドに一瞬の静寂が訪れる。

 

そして…。

 

「ストライク!バッターアウト!ゲームセット!」

 

審判のコールがグラウンドに響くと、クリスさんがマスクを外しながら

真っ先に俺の所に駆けてくる。

 

そして、俺をマウンドの上で高々と抱えあげてきたのだ。

 

クリスさんの行動に驚いた俺だが、俺は喜びの感情を爆発させるように、

人差し指を立てた左手を天高く突き上げて雄叫びを上げるのだった。




次の投稿は13:00の予定です

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