秋季神宮大会が終わりオフシーズンに突入すると、青道高校野球部では本格的に寒くなる前にと、紅白戦の数が増えていた。
これは主に沢村と降谷に試合形式の練習で経験を積ませるのが目的だ。
紅白戦は1軍と2軍、1軍と3軍といった形の時にパワプロを下位の軍に所属させて行っていった。
この紅白戦でいいプレーを見せた2軍の1年生は三塁手の金丸 信二、捕手の狩場 航、そして投手兼外野手の金田 忠大(かねだ ただひろ)だ。
金丸は持ち前の真っ直ぐに強いバッティングを発揮して1軍昇格へのアピールをした。
狩場は捕手の人数の関係上、普段から度々1軍ブルペンでスキルアップをしているからか、このオフシーズンの紅白戦ではしっかりとパワプロのフォーシーム、カーブ、チェンジアップを捕球して片岡や落合に成長をアピールした。
まだパワプロのスライダーをしっかりと捕球出来ないが、1年後が楽しみな選手だろう。
そして金田なのだが、この選手が2軍選手の中で最も伸びた選手だろう。
金田は2軍チームでパワプロと一緒になると、積極的にピッチングの事を聞いた。
その結果、それまで全く投げられなかったカーブを投げられる様になったのだ。
金田は真っ直ぐの球速が120km程で、高校野球では打ち頃の球速故に度々打ち込まれていた。
しかしパワプロからカーブを伝授されて緩急を手に入れた事で、金田のピッチングは生まれ変わった。
真っ直ぐとカーブのコンビネーションで、金田は1軍チームから6イニング3失点のクオリティスタートを達成した。
もっともこれは何度も行われた紅白戦で1回達成しただけなのでまだまだと言えるが、1年後には1軍の現1年生投手達の争いに加わるのではと期待が持てる内容だろう。
そんな感じで3人の2軍選手が1軍入りをアピールしたが、1軍選手も負けていない。
1軍選手で最も変わったのは倉持だ。
倉持はバットを振りきるバッティングをする様になると、野手陣の1歩目のスタートが遅れる様になった事で内野安打が増え、オフシーズンの紅白戦では出塁率が4割を超えた。
この結果によって倉持は1番バッターに返り咲いたのだが倉持本人はまだまだ満足しておらず、次は憧れの選手の様に長打力も身に付ける様に日々奮闘している。
そんな倉持以上に結果を出したのは御幸だ。
御幸はこのオフシーズンからメジャーに向けてアメリカ製の木製バットを使い出したのだが、その木製バットでパワプロからオフシーズンの紅白戦で唯一となるヒットを放った。
アメリカの木製バットは日本の木製バットの様にしなりではなく硬さによる弾きで打球を飛ばすのだが、この硬い木製バットに御幸は好感触を持った。
何より御幸がアメリカ製の木製バットを気に入ったのはその頑丈さだ。
多少芯を外しても折れない頑丈さ。
金銭に細かい御幸はこの頑丈さを絶賛した。
御幸はこのオフシーズンからアメリカ製の木製バットを積極的に使っていく様になるのだが、この木製バットを使っていく事で飛躍的にバッティング技術を向上させていったのだ。
そんな選手達の成長に目を細める片岡や落合だが、パワプロの成長には驚きを通り越してため息を吐いた。
このオフシーズンにパワプロは非公式ながら、高校野球における左投手の最高球速に並んだのだ。
更に縦のスライダーと野手能力も成長したとあれば、片岡や落合が驚きを通り越してため息を吐くのも無理はないだろう。
冬の合宿を前にこの成長なのだ。
春を迎えた時にはどれ程成長しているのかを考えるだけでも笑いが溢れる。
だからこそケガには注意せねばならない。
パワプロは青道選手の中でもトップクラスの練習好きだ。
時には高島の根回しで貴子とのデートに行かせたりして、パワプロの練習量を調整しなければならない。
本来ならば思春期の選手達にどの様に練習させるのかを悩むのだが、どの様に休ませるのかを悩む事に落合は苦笑いをするしかなかった。
こうして青道高校野球部がオフシーズンを過ごしていっていた時、明川学園に一つ吉報が届いたのだった。
◆
「お前ら、春の甲子園が決まったぞ!」
明川学園の監督である尾形の言葉に、明川学園の選手達から歓声が上がった。
そんな選手達の中で、楊 舜臣は安堵の息を吐いていた。
「てゆっか楊、お前も喜べ!」
「はい、尾形監督。」
尾形は楊に喜べと言うが、楊の表情を見てチームの誰よりも喜んでいる事には気付いていた。
もちろんチームメイトも楊が誰よりも喜んでいる事に気付いている。
だからだろうか?
チームメイトはアイコンタクトを交わすと、息の合った連携で楊を外に連れ出す。
そして秋空の下で楊を胴上げしたのだった。
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