『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第257話

オフシーズンに入った高校球児達だが、彼等は野球にだけ打ち込んでいるわけではない。

 

何故なら彼等は高校生。

 

そう、学生故の試練たるテストがあるのだ。

 

このテストに沢村や降谷は苦しんだが、その他の青道野球部の者達は無事に乗り越えていた。

 

パワプロも勿論テストを無事に乗り越えている。

 

それどころか御幸と並んで学年トップクラスの点数を叩き出した。

 

後にそれを知った沢村と降谷はショックを受けたが、直ぐに気持ちを切り換えて野球に打ち込み始めた。

 

そんな感じでオフシーズンも進んでいくと今年も残すところ後少しとなり、とあるイベントの時期がやって来る。

 

そう、クリスマスだ。

 

野球に青春を捧げる高校球児達にとっては中指を立てたくなるイベントだが、生憎と青道野球部の者の中にはこのイベントに参加する裏切り者が複数いる。

 

パワプロ、御幸、沢村の3名だ。

 

そんな3名は野球部の仲間達を尻目にイルミネーションに彩られた町並みに足を運ぶ。

 

そして、それぞれがクリスマスというイベントを楽しんでいくのだった。

 

 

 

 

「唯ちゃん、頑張ってね!」

 

貴子ちゃんに励まされた夏川が決意を感じさせる表情で頷いている。

 

今日はクリスマス。

 

勝負に出るには絶好の日だからな。

 

頑張れよ、一也!

 

一也との待ち合わせ場所に出陣していった夏川を見送ると、今度は沢村の幼馴染みである蒼月に貴子ちゃんが声を掛けていた。

 

「若菜ちゃん、自分から積極的にいかなければダメよ。そうしなきゃ、フーくんや沢村くんみたいなタイプは気付かないんだから。」

「はい!藤原先輩!」

 

両拳を握り締めて気合いの入った様子の蒼月も、沢村との待ち合わせ場所に出陣していった。

 

沢村、頑張れ!

 

「お待たせ、フーくん。」

 

笑顔で振り返った貴子ちゃんが俺と自然に腕を組んでくる。

 

俺も貴子ちゃんに笑顔を返した。

 

さぁ、クリスマスデートの始まりだぜ!

 

 

 

 

「お待たせ、一也。」

「おう、それじゃ行くか。」

 

そう言って歩き出そうとする御幸の手を夏川が掴む。

 

「これだけ人が多いのに、彼女がはぐれたらどうするつもり?」

「…わるい。」

 

御幸が照れ臭そうに顔を逸らすと、夏川は笑みを浮かべる。

 

「グラウンドじゃ緊張しないくせに、こういう時は緊張するのね。」

「否定はしない。」

 

デートの始まりは緊張していた御幸だが、時間が経つと共に心から楽しみ始めた。

 

そして楽しい時間というのはあっという間に過ぎるもので、寮の門限まで後少しとなってしまった。

 

「げっ、もうこんな時間か…。」

 

腕時計を見た御幸は残念そうに苦笑いをする。

 

「…今日は楽しかったぜ、唯。家まで送っていくから、そろそろ帰ろうか。」

 

手を引いて歩き出そうとする御幸を、夏川は引き止める。

 

「どうした?」

「今日はクリスマス…よね?」

「あぁ、だからデートしたんだろ。」

「恋人が別れるには、まだ時間が早いんじゃない?」

 

夏川の言葉に御幸は頭を掻く。

 

「悪いけど、寮の門限が近いんだ。外出許可は出したけど、外泊許可は出してないからな。」

 

御幸の言葉に夏川は意味深な笑みを浮かべた。

 

「なんだよ?」

「今日の外出許可、高島先生に外泊許可と差し替えて貰ってあるわ。」

「…はぁ?」

 

呆然とした御幸の腕に夏川が腕を絡める。

 

「今日は帰さないって言ってるのよ。」

「いや、それは女が言う台詞じゃねぇだろ。」

「じゃあ一也が言ってくれるの?」

 

からかう様な笑みの夏川に、御幸は諦めのため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

日が暮れ始めた町並みに御幸達が姿を消した頃、沢村と若菜ペアのデートは終わりの時を迎えつつあった。

 

「栄純、今日は楽しかったわ。ありがとね。」

「お、おう…。」

 

幼馴染みの若菜とは小さい頃から色々と遊び回ったが、こうしてはっきりとした形でデートをしたのは初めてだった。

 

それ故か、沢村はいつも以上に若菜を女性として意識していた。

 

「そろそろ寮の門限でしょ?急がなくて大丈夫なの?」

「い、いや!男として若菜を送っていくぐらいはする!」

「ふふ、ありがと、栄純。」

 

微笑む若菜を見た沢村は顔を真っ赤に染める。

 

そしてぎこちない足取りで並んで歩き出すと、徐に若菜が沢村と手を繋いだ。

 

「なっ!?なんだぁ!?」

「何を驚いているのよ。手を繋いだだけでしょう?」

「そ、そんな事はわかってる!」

「小さい時には手を繋いだ事もあるんだから、今更気にするんじゃないわよ。」

 

自身と違って余裕がある様に見える若菜に、沢村は意地を張った。

 

「そ、それじゃあ!このまま送っていくからな!」

「うん、よろしく頼むわね。」

「お、おう!」

 

余裕そうに見せていても、内心では若菜も一杯一杯である。

 

(私から行動を起こさなきゃ。でも…恥ずかしいものは恥ずかしいですよ、藤原先輩!)

 

次の行動を考えた若菜の顔が真っ赤に染まる。

 

幸いにも沢村も一杯一杯の為、若菜の紅い顔には気付いていない。

 

そんな初々しい二人のデートも、若菜の下宿先に辿り着いてついに終わりを迎えようとしていた。

 

「そ、それじゃあな!」

 

踵を返して走り出そうとする沢村を、若菜が腕を引いて振り向かせる。

 

「な、なんだよ!まだ何か…!?」

 

口に感じる柔らかな感触に沢村が目を見開く。

 

しばし時が止まった様に固まった沢村から、若菜がスッと離れた。

 

「冬合宿…頑張りなさいよ、栄純。」

 

顔を真っ赤にした若菜が下宿先に駆け込むのを、沢村は呆然と見送る。

 

その後、どうやって青道野球部の寮に戻ったか記憶に無い沢村だが、門限に遅れて反省文を書くことになったのであった。




次の投稿は11:00の予定です。

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