『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第262話

ポジション別テストでパワプロのボールを受ける事を望んだ奥村は、パワプロが肩を作る為にキャッチボールの相手をしたが、今まで受けた事の無い球質に驚いていた。

 

(こんなボール…受けたことが無い…。)

 

まだ肩を作り始めたばかりで然程力は入っていない。

 

それでも奥村は1球受ける毎にキレを増していくパワプロのボールに必死に慣れようとしていた。

 

そして僅か15球程のキャッチボールでパワプロが準備を終えてマウンドに向かうと、奥村はまたしても驚いて目を見開く。

 

(嘘だろ…もう出来上がったのか?)

 

日本のピッチャーは念入りに投げ込みをして肩を仕上げる選手が少なくない。

 

それこそ試合前のブルペンで100球近く投げる選手もいるのだ。

 

そういった投手を見てきた奥村には、球数少なく肩を仕上げるパワプロの姿は未知のものだった。

 

ちなみに青道野球部の投手達はパワプロにならって試合前でも2、30球程で肩を作る様になっている。

 

そのおかげなのか青道野球部の投手には肩肘を痛めた者が一人もいない。

 

もっとも中学卒業までに肩肘を痛めていた者はいるのだが、その者も青道野球部の練習で身体が出来上がっていくに従って徐々に肩肘の痛みが改善されていっているのだ。

 

パワプロはマウンドの感触を確かめる為に3球程、奥村を立たせて軽めに投げる。

 

キャッチボールとは違うボールの勢いに、奥村はボールを溢しそうになってしまった。

 

(集中しろ!絶対に後ろに逸らすな!)

 

奥村がそんな思いを抱きながらボールを受けていた時に、御幸がブルペンに姿を現した。

 

「御幸くん、奥村くんのキャッチングはどう?」

 

ブルペンにやって来た御幸に高島がそう問うと、御幸は最早興味無しと言わんばかりにプロテクターを身に付け始めた。

 

その御幸の姿で察した高島は困った様に苦笑いをする。

 

「御幸、奥村には10球チャンスを与える。」

「了解です、片岡監督。」

 

御幸が監督に返事をした時、パワプロの投げ込みが始まったのだった。

 

 

 

 

さて、高速縦スライダーを投げたいところなんだけど、先ずはフォーシームからいくか。

 

奥村にフォーシームを投げると伝えてから投球フォームに入る。

 

指先にボールの縫い目を感じながらリリースしたボールは、奥村のミットを弾いて後ろに転がっていった。

 

「すいません!もう1球お願いします!」

 

奥村の手は大丈夫そうだけど…いいのかな?

 

俺は片岡さんに目を向ける。

 

片岡さんは頷いたので続けてフォーシームを投げ込んでいく。

 

2球目もボールを弾き、3球目はキャッチング出来たものの芯を外していた。

 

奥村は痛そうにミットの上から右手を当てている。

 

大丈夫か?

 

「もう1球、お願いします!」

 

う~ん…そろそろ高速縦スライダーを投げたいんだけどなぁ…。

 

片岡さんに目を向けると頷いたので、俺は奥村の要望通りにフォーシームを投げる。

 

バシッ!

 

おっ?今度はちゃんと捕れたみたいだ。

 

続く5球目のフォーシームも、奥村はキャッチングに成功した。

 

6球目からは変化球だ。

 

片岡さんの指示に従って横の高速スライダーを投げ込む。

 

高速スライダーを5球投げ込んだんだけど、奥村は1球も捕れなかった。

 

でも5球目には後ろに逸らさずにブロッキング出来たから、それを考えれば1年前の狩場よりは上手いのかもしれない。

 

まぁ、今の狩場ならキャッチングは出来なくても1球も後ろに逸らさないだろうけどね。

 

そんな事を考えていると、片岡さんが奥村にテストの終わりを告げた。

 

奥村は食い下がっていたけど、そんな奥村を無視して一也がキャッチャーボックスに座る。

 

「奥村、テストは終わりだ。学ぶつもりがあるのなら、御幸のキャッチングを見学しろ。」

 

奥村は悔しそうに歯を食い縛ったけど、直ぐに顔を上げて一也に目を向けていた。

 

「パワプロ、縦スラを頼む!」

 

お?流石は相棒。

 

俺が投げたいボールをわかってるね!

 

俺は自分でもわかるぐらい笑顔になり、一也の構えるミットに向けてボールを投げ込むのだった。




次の投稿は11:00の予定です。

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