『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿4話目です。


幕間:プロに行った青道卒業生達の春のキャンプ

時は今年の2月頃にまで遡る。

 

全国各地でプロ野球球団の春のキャンプが始まった頃の事だ。

 

大阪ブルーブルズに入団した伊佐敷は威勢の良い挨拶をしていた。

 

「伊佐敷 純です!よろしくお願いします!」

 

パチパチと送られてくる拍手に伊佐敷は顔を紅潮させる。

 

テレビで見たプロの選手達の姿を目の当たりにして感動しているのだ。

 

伊佐敷の他にも今年大阪ブルーブルズに入団した選手達の挨拶が続いていく。

 

昨年のドラフトで大阪ブルーブルズが指名した高卒選手は伊佐敷1人。

 

それ故に伊佐敷が真っ先に挨拶をする事になったのだ。

 

一通り新人選手の挨拶が終わるとブルーブルズの首脳陣の挨拶が始まる。

 

チーム方針などが話されていくと、伊佐敷は改めてプロの世界に来たんだと実感していた。

 

さて、大阪ブルーブルズがどういったチームなのか説明しておこう

 

大阪ブルーブルズはプロ野球界で初めてストライキが行われたとある問題の末に2つの球団が合併して生まれた球団である。

 

もともとブルーブルズの母体となったチームはファンの好みもあって『打って勝つ』チームだったのだが、球団合併などの問題で有力選手が何人もいなくなってしまっていた。

 

その影響なのか大阪ブルーブルズは所属リーグにおいて毎年の様に最下位争いをしている。

 

そんな大阪ブルーブルズが抱えている問題が投手力不足だ。

 

エースと呼べる存在と守護神と呼べる存在の不在。

 

そこで出てくるのが伊佐敷だ。

 

伊佐敷は青道時代に先発、抑えとして経験を積んできている。

 

それ故に首脳陣は伊佐敷に期待しているのだが、まだ1年目の高卒新人という事もあってプレッシャーを掛けぬ様に慎重に見守っていった。

 

だが、伊佐敷はこの春のキャンプの紅白戦で躍動した。

 

「ッシャア!」

 

ツーシームを中心にプロの先輩達を軽快に打ち取っていくと、首脳陣だけでなく先輩達も驚いた。

 

ツーシームを始めとしたムービングボールはメジャーでは既に主流だが、日本球界ではチェンジアップぐらいしかまだ浸透していない。

 

それ故に伊佐敷の2種類のツーシームは、面白い様にプロの先輩達を打ち取っていった。

 

低めにしっかりと制球されたツーシームで球数少なく打ち取る伊佐敷のピッチングスタイルは、大阪ブルーブルズの投手陣に新たな風を吹き込んだのだった。

 

 

 

 

場面は変わって西東京ペンギンズのキャンプ地。

 

そこで結城 哲也は黙々とバットを振り込んでいた。

 

「固いな~、結城。プロは身体を休めるのも仕事だぞ。」

「はい、古畑さん。」

 

球界の頭脳と呼ばれる古畑の言葉に、結城は素直に頷く。

 

昨年のドラフトで結城を単独1位指名した西東京ペンギンズは、今年の春のキャンプで結城の近くにチームの中心選手である古畑を置いていた。

 

西東京ペンギンズでは長年日本人選手による主砲が不在している。

 

そこで西東京ペンギンズの首脳陣は結城を主砲として育てるべく、かつて首位打者を取った事もある球界の頭脳を結城の側に置いたのだ。

 

「プロは年間140試合以上戦わなきゃいかん。シーズンを通してパフォーマンスを維持するには、休める時に休まないかんぞ。」

 

結城はプロの選手としてはまだ線が細かった事もあり、今シーズン1軍の試合に出場する事はなかった。

 

しかし彼が西東京ペンギンズの中心選手になる日が来るのは、それほど遠くないのかもしれない。

 

 

 

 

場面は福岡キングファルコンズのキャンプ地へと移る。

 

福岡キングファルコンズに入団したクリスは、日本球界で不滅の本塁打記録を持つ伝説の大打者から直接指導を受けていた。

 

「目付けは出来ているね。では、肩が大丈夫ならフォロースルーをもう少し大きくしてみようか。」

「はい。」

 

伝説の大打者の助言通りにクリスがバッティングのフォロースルーを大きくすると、クリスが放つ打球にもう一伸びが加わった。

 

ニコリと微笑んだ伝説の大打者はクリスを称賛する。

 

「素晴らしい!今の飛距離なら文句なしにスタンド上段に飛び込むよ!」

 

近年、この伝説の大打者は体調に不安を抱えているのだが、そんな様子を微塵も感じさせずに楽しそうにクリスを指導していく。

 

(彼を育てるのが、僕の監督としての最後の仕事だ…。)

 

今年、体調の不安から現場を退くつもりだった伝説の大打者だが、ドラフトでクリスの交渉権を得ると監督続投を決意している。

 

それだけクリスの才能に惚れ込んでいるのだ。

 

(願わくば彼がマスクを被ってチームを優勝に導く瞬間を、監督としてみたいものだ…。)

 

伝説の大打者が暖かい眼差しで見守る中で、クリスのバットから快音が響いていく。

 

空高く飛んでいく白球に、伝説の大打者は目を細めて微笑むのだった。

 

 

 

 

神奈川シースターズのキャンプ地にてプロ2年目を迎える東は、ひた向きに練習に励んでいた。

 

(プロを舐めているつもりはなかった。せやけど、年間140試合以上をこなす事を軽く考え過ぎとったわ。)

 

昨年の新人王に輝いた東は打率.301、本塁打30、打点84という記録を残している。

 

高卒新人で本塁打30の記録は往年の名選手以来の2人目とあって、神奈川シースターズのファン達に大きな夢を見せる事が出来た。

 

しかし、東はこの記録に納得していなかった。

 

(夏場にバテへんかったら40本は打てた…。ほんま情けないで…。)

 

昨年の東は1軍選手の故障もあって4月中旬から1軍に昇格していた。

 

そして代打出場のプロ初打席で見事に本塁打を放ち、神奈川シースターズのファンと首脳陣に東 清国の名を刻み込んだ。

 

代打で結果を出し続けると5月中旬に1軍スタメンの座を手にした東は、そこから本塁打を量産していった。

 

7月が終わると打率.354、本塁打18と高卒新人離れした成績を残していたのだが、プロの世界のプレッシャーと連日の試合による疲労が東の身体からキレを奪っていた。

 

そこから東のバットから快音が消え、辛抱の日が続いていく。

 

そしてシーズン最終戦で辛うじて30本塁打に届いた東は、体調管理の大切さを改めて認識したのだ。

 

(1試合結果が出たからって油断したらあかん!プロならシーズン通してパフォーマンスを維持せな!)

 

こうしてプロの自覚を胸に、東 清国のプロ2年目が始まるのだった。




次の投稿は午後3:34の予定です。

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