今年の春季東京大会が始まった。
俺達、青道はシードなので２回戦からだ。
俺達は対戦相手になるかもしれない相手の試合を見学している。
優勢に試合を運んでいるのは成孔学園という高校だ。
その成孔学園なんだけど、選手全員の身体がガッチリとしている。
かなりウエイトトレーニングに励んでいるみたいだな。
でも、そんな成孔学園の選手達の中で１人だけふくよかな身体をしている奴がいる。
そいつはエースナンバーを背負ってマウンドに立っているんだけど、時折ランナーを背負いながらも粘り強く相手打線を内野ゴロで打ち取っていた。
「あれは…スクリューか？」
スクリュー。
簡単に言えば左投手が投げるシンカーの様なものだ。
名古屋ナーガに所属しているラジコン好きなプロ野球選手が投げているボールだな。
それは置いておいてあのふくよかなピッチャー、ランナーを背負う度に何かを口ずさんでいる気がするんだけど…気のせいかな？
◆
「～♪」
成孔学園のエースである小川 常松（おがわ つねまつ）はマウンドで歌を歌っている。
彼がリスペクトするヒーローの歌だ。
小川は昨年の秋の選抜東京地区大会において、満塁からの押し出しによる失点で負けた事で一度自信を失っている。
そんな自信を失っていた時、小川は彼のヒーローと出会ったのだ。
「～♪」
歌を歌いながら投球フォームに入ると、小川は球質の重いボールを投げ込む。
歌を歌ってリラックスした状態から投げ込まれたボールは、ストライクゾーンの低めにしっかりと制球されており、相手打線に内野ゴロを量産させていく。
気分良く、そしてリズム良く小川が投げていたその時…。
「タイム！」
成孔学園の捕手である枡 伸一郎（ます しんいちろう）が主審にタイムを取り、マウンドの小川の元へと駆けていった。
「どうしたっすか、申さん？」
「おい、常。マウンドで歌うのはいいけどせめて鼻歌にしろ。」
「無理っす。これは彼へのリスペクトっす！」
「ア○パンマンを彼って言うんじゃねぇ！」
試合中とは思えない緊張感の無さで枡と小川がやり取りをしていく。
「まぁいいか。それよりも５点差あるから、ここからはスクリューをなるべく投げない様にするぞ。偵察にきている青道にあまり見せたくないからな。」
「偵察っすか？」
枡の言葉に小川はスタンドにいる青道メンバーへと目を向ける。
「青道もバイキ○マンみたいな事をするんすね。」
「ア○パンマンのキャラで例えるんじゃねぇよ！」
ミットで小川の胸を叩いてツッコミをいれた枡は、小走りでキャッチャーボックスに戻っていったのだった。
◆
「俺達の相手は成孔学園で決まりだな。」
一也の言葉に皆が頷くと、席を立って帰り仕度を始める。
「高校生でスクリューを投げるとは珍しいですな。」
「えぇ、球質も重そうなので油断出来ません。」
落合さんと片岡さんが成孔学園の対策についてあれこれと話をしている。
「降谷、左右の違いはあるがお前の真っ直ぐと縦のスライダーが一番小川の球質に近い筈だ。戻ったらバッティングピッチャーをしてもらう。」
「はい。」
片岡さんからの指名でバッティングピッチャーとなった降谷は、嬉しそうにホクホクとした顔をしているな。
ちなみに降谷は昨年から今年にかけてのオフシーズンに縦のスライダーを覚えている。
縦のスライダーは俺が教えた。
降谷は俺と同じ投げ方で縦のスライダーを投げられる様になったんだけど、横のスライダーは何故か投げられないんだよな。
それと降谷はオフシーズンにカーブも覚えようとしていたんだけど、現状では使えるレベルになっていない。
どうしても腕の振りが弱くなっちゃうみたいなんだよね。
降谷以外にも青道投手陣はレベルアップしているので、青道高校のブルペンはとても投げ応えがある。
そう考えていたら投げたくなってきたな。
降谷が羨ましいぜ！
その後、青道高校に戻った俺達は降谷をバッティングピッチャーにしてバッティング練習をしていく。
そして時が過ぎ、成孔学園との試合の日を迎えたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。