『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第266話

「~♪」

 

春季東京大会の青道高校と成孔学園の試合、1回の裏のマウンドで成孔学園のエースである小川は彼のヒーローの歌を口ずさんでいた。

 

小川はチラリとランナーに目を向ける。

 

1回の裏、ノーアウト1、3塁。

 

そしてバッターはパワプロというピンチの状況だ。

 

成孔学園のエースである小川は彼のヒーローの歌を口ずさみながら左腕を振るう。

 

球質の重い真っ直ぐとスクリューを駆使してパワプロからカウントを稼いでいく。

 

小川は左バッターが相手の時、決め球にインローのスクリューを投じる事が多いのだが、パワプロのインコースの強さは広く知られている。

 

それ故に成孔学園の正捕手である枡はアウトローへの真っ直ぐで勝負にいった。

 

だが…。

 

カキンッ!

 

パワプロのバットから快音が響くと、打球は逆方向に高々と飛んでいく。

 

そして打球はそのままスタンド上段に飛び込み、青道高校は初回である1回の裏から3点を先取した。

 

ヒーローの歌を口ずさむ小川は精神的に崩れなかったが、パワプロの一発で勝負の流れを持っていかれたのか青道打線の猛攻が止まらない。

 

パワプロに続いて御幸もホームランを打つと、白州、前園とヒットが続き、降谷、樋笠がタイムリーヒットを打つ。

 

流石に沢村のところで連続ヒットは止まったが、それでも沢村は職人芸の域に達しているバントで更にチャンスを拡大する。

 

打者1順しても青道の猛攻は止まらず、1回の裏が終わった時にはスコアボードに11点が刻まれていた。

 

1回の表で三者凡退をしてしまっていた成孔打線は2回の表で先ずは1点をと沢村に挑むが、御幸のリードに青道野手陣の堅守で得点どころかランナーを出す事も出来ない。

 

そして成孔打線が四死球以外でランナーを一人も出せぬまま迎えた5回の表、沢村は5回コールドの参考記録ながらノーヒットノーランまで後1人と迫っていた。

 

 

 

 

「フー…。」

 

大きく息を吐いた沢村の耳に次々と仲間達の声援が聞こえてくる。

 

その中でも一際良く聞こえる声援がある。

 

それは…。

 

「栄純、あと1人よ!」

 

幼馴染みから恋人になった蒼月 若菜の声援だ。

 

若菜の声援が聞こえた沢村はマウンドで笑みを浮かべる。

 

(心臓の音が聞こえる程緊張しているのに、楽しくて仕方ねぇ!)

 

御幸のサインを見た沢村が投球フォームに入る。

 

大きく足を上げてから踏み込むと、沢村の天性の身体の柔らかさにより左腕が遅れて出てくる。

 

タイミングを掴めない成孔学園の打者は、バットを振る事が出来ずにボールを見送る。

 

「ストライク!」

 

主審のストライクコールに沢村の胸が更に高鳴る。

 

あとストライク2つ。

 

待ちきれないとばかりに沢村が御幸のサインを覗き込む。

 

だが、御幸は中々サインを出さない。

 

すると…。

 

「なにを慌ててんのよ!バカ栄純!」

 

若菜の声にハッとした沢村はタイムを要求してロージンバッグを手に取る。

 

深呼吸を1つ、2つとしてから沢村はプレートに足を掛ける。

 

出されたサインに頷いた沢村は、いい具合に脱力をしてボールを投げ込む。

 

「ストライクツー!」

 

成孔の打者が明らかに振り遅れると、沢村の心臓は痛いほどに早鐘を打った。

 

(あと1つ…!)

 

身体から力みを抜こうと、沢村は何度も深呼吸を繰り返す。

 

「栄純!あと1つよ!頑張れ!」

 

若菜の声援に沢村の細胞が応える。

 

周囲の色が少しずつ消えていき、沢村の目には御幸のミットだけが鮮明に色付いて見えていた。

 

初めての不思議な感覚の中で、沢村はゆったりと投球フォームに入る。

 

大きく足を上げてしっかりと体重を乗せ、踏み込み、脱力の状態からリリースで一気に力を解放。

 

全てがイメージ通りに出来た最高の1球が、御幸のミットに向かっていく。

 

そして…。

 

バシッ!

 

「ストライクスリー!バッターアウト!ゲームセット!」

 

主審のコールが耳に届くと、沢村の視界に周囲の色が戻る。

 

そしてマウンドの上で沢村が雄叫びを上げると、スタンドの若菜も嬉しそうに喜びの声を上げたのだった。




次の投稿は11:00の予定です。

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