今年の夏合宿が始まった。
暫定1軍メンバーに選ばれた1年生は由井と哲さんの弟くんだ。
由井と哲さんの弟くんは息も絶え絶えながら、なんとか合宿練習に食らい付いてきている。
二日目、三日目と日が経つにつれて二人の動きは鈍っていくけど、それでも目から闘志が消える事はなかった。
そうして合宿の日程も過ぎていくと、例年通りの練習試合の日がやってきたのだった。
◆
今年の夏合宿の練習試合の相手はかなり豪華だ。
北海道からは巨摩大藤巻高校、大阪からは大阪桐生高校等の全国でも有数の強豪校がやってくるからだ。
ダブルヘッダーで行われる今日の午前中の相手は巨摩大藤巻高校。
残念ながら今日の練習試合に俺が出る予定はないんだけどね。
そういうわけでグラウンドの準備を手伝っていると、巨摩大藤巻高校のエースである本郷が俺の所にやってきた。
「葉輪さん、今日はよろしくお願いします。」
「あ~…悪いけど、今日の練習試合は出る予定はないんだよね。」
困った様に頬を掻きながら頭を下げる本郷にそう言うと、本郷は真剣な表情で顔を上げた。
「なら、引き摺りだします。」
「おう!頼むぜ!」
俺が親指を立ててそう言うと、本郷は不敵な笑みを浮かべて巨摩大藤巻高校のメンバーの所に戻っていった。
「本郷も随分と貫禄がついたな。」
本郷が去った代わりに一也が俺の所にやってくる。
「パワプロ、知ってるか?俺達の次の世代ナンバーワンは本郷だって言われてるのを?」
「そうなの?」
「『月刊野球王国』の大和田さんから聞いた話だけどな。」
合宿が終わった後に峰さんと大和田さんが青道高校野球部に取材に来る予定なんだけど、去年の秋季大会の時に取材に来た大和田さんは一也と夏川が付き合っていると聞いて崩れ落ちていた。
峰さん曰く、大和田さんは眼鏡男子贔屓らしい。
大和田さん、ご愁傷様。
「さて、それじゃのんびりと見学しますか。」
「本郷にはああ言ったけど、出番がこないといいねぇ。」
昨日最高球速を成長させたばかりだから、身体が筋肉痛になってるんだよね。
明日には筋肉痛は治ると思うけど、大阪桐生との練習試合中に新しい感覚に慣らさないとな。
俺と一也が見学する中で、巨摩大藤巻との練習試合が始まったのだった。
◆
巨摩大藤巻高校のエースである本郷は、青道高校の先発としてマウンドに上がった降谷を睨むように見ている。
降谷と本郷は同郷なのだが、その降谷が東京に行った事を本郷はよく思っていないのだ。
「降谷…お前にだけは絶対に負けない!」
本郷はパワプロを引き摺り出す事とは別に、決意を胸に練習試合に挑むのだった。
◆
巨摩大藤巻高校との練習試合、青道高校は合宿での疲労で動きが鈍い事に加え、ベストメンバーでない事が合わさって序盤の流れを巨摩大藤巻高校に握られてしまう。
それでも青道高校の先発としてマウンドに上がった降谷は粘り強く投げるが、予定していた投球回である6回が終わった時には、巨摩大藤巻打線に4点を奪われていた。
降谷の後を継いでマウンドに上がった川上が巨摩大藤巻打線をしっかりと抑えるが、後一歩が届かず3ー4で青道は敗れてしまったのであった。
本日は5話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。