「鳴さん、ナイスボール!」
夏の高校野球選手権西東京地区大会の決勝戦当日、成宮はブルペンで少ない球数での調整を行っていた。
(たしかに肩肘はこっちの方が楽だな。でも、リリースの確認ぐらいしか出来ねぇから、マウンドに上がるのに不安が残るけど…パワプロはこれで調整してるって言ってたし、俺も出来るようにならねぇとな。)
大会前に成宮は月刊野球王国の峰と大和田に取材を受けたのだが、その時にパワプロの調整方法を聞いて大会中に何度か試してみたのだ。
結果として少ない球数での調整をした試合は、試合後の肩肘の疲労が軽くなったのだが、立ち上がりでコントロールがやや不安定になってしまっていた。
それに不安を残しているのだが成宮はこの調整方法を続ける事にした。
何故か?
それは昨年のオフシーズンに怪我をしたからだ。
幸い背中の筋肉を軽くつっただけだったのだが、大事をとって1週間練習出来なかった事で成宮は調整方法やケアについてよく考える様になったのだ。
(うし!学生では最後の対決だ。今日こそは勝たせてもらうぞ、パワプロ!)
コンディション、モチベーション共に最高の状態に仕上げた成宮は、高校野球最後の大会を楽しもうと笑顔になったのだった。
◆
1回の表、青道高校からの攻撃。
成宮は先頭打者の倉持に対する初球にフォーシームを投げ込んだ。
横の角度がついたフォーシームが右打席に立つ倉持の膝元に吸い込まれる。
パァン!
「ストライク!」
電光掲示板には成宮の最速である152kmが表示された。
(ヒャハッ!いいボールだぜ。正直、手が出なかった。)
一つ息を吐いた倉持はバットを指一本余して持つ。
(短く持っても当てにいくバッティングじゃなく、しっかり振り切る!)
2球目、成宮はアウトローにバックドアとなるスライダーを投げ込む。
ガキッ!
倉持はしっかりとバットを振りきったが、打球は1塁線を切れてファール。
(ちっ、ボール球だった!)
ボール球を打たされた形で追い込まれた倉持は、打席で大きく息を吐く。
3球目、成宮はインハイにフォーシームを投げ込む。
倉持の身体が反応したが、バットは途中で止まった。
パァン!
稲城の正捕手である多田野が塁審にスイング判定を求めるが、判定は振っていない。
冷や汗を流す倉持はヘルメットの鍔を触る。
(今日の成宮のボール…キレてやがる。)
4球目、成宮はインローに高速チェンジアップを投げ込んだ。
ガキッ!
倉持のバットはしっかりと振りきられていたが、引っかけてしまった打球は遊撃手の白河の真正面に転がり、倉持はショートゴロに打ち取られてしまったのだった。
◆
1回の表を成宮が三者凡退で抑えると、パワプロはお返しとばかりに1回の裏を三者連続三振で抑える。
夏の高校野球選手権西東京地区大会の決勝戦は、成宮とパワプロによる高校野球最高峰の投手戦となっていったのだった。
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