一回表の丸亀シニアの攻撃が終わり、いよいよ俺が投げる時が来た。
俺はマウンドの上でロージンバックをポンポンとしながら、城南シニアの
一番バッターを見ていた。
「えっと…カリオストロ、じゃなくてカルロスだったっけ？」
右打席に入った一番バッターを見ながらそう言葉にする。
「一年で一番バッターかぁ…いいね！燃えてきた！」
俺はクリスさんのサインを覗き込む。
サインはフォーシーム。
俺は頷いて投球モーションに入る。
そして、フォーシームを投げ込むとカルロスはバントの構えを見せる。
「うぇい！？」
カルロスはそのままセーフティーバントをする。
だが、カルロスはボールを転がせずに上げてしまった。
主審の後ろ、ファールグラウンドにボールが飛んでいく。
そのボールにクリスさんがマスクを外しながら素早く反応する。
そして…。
「アウト！」
クリスさんはダイビングキャッチで見事にボールを捕球したのだった。
「クリスさん！ナイスキャッチ！」
俺の掛け声にクリスさんは軽く手を上げて応える。
そして、指を一本立ててグラウンドの皆に「ワンアウト！」と声を出してチームを鼓舞した。
クリスさん、カッコいい！
続く二番、三番打者は三振で抑えて一回の裏を終えた。
◆
その後、試合は俺と成宮の投手戦となった。
成宮は２打席目の白河を四球で歩かせたが、それ以外は丸亀シニアの打線を抑えていく。
俺もそんな成宮の投球に応えるように城南シニアの打線を抑えていった。
だが、四回に試合が動く。
四回の表、先頭打者のクリスさんがヒットで出塁すると成宮の制球が乱れる。
クリスさんに続く五番バッターを四球で歩かせてしまったのだ。
これで一回の表以来のチャンスが丸亀シニアに訪れた。
だけど、ここから成宮が底力を見せる。
六番、七番バッターを連続三振で抑えたのだ。
そして、続く八番バッターの場面で俺達の監督が動いた。
「代打、御幸！」
八番バッターの２年生の代わりに、１年生である一也を代打に送ったのだ。
一也はゆっくりと素振りをしながら打席に向かう。
「一也！ヒーローになるチャンスだぞ！」
一也は俺の声に振り向くとサムズアップをしてきた。
楽しめよ、一也！
一也が打席に入ると成宮がセットポジションからサインを見る。
だが成宮は首を横に振ると、プレートから足を外してロージンバックを手に取る。
グラウンドは緊張感に包まれていく。
熱い勝負だ！
その後も何度か首を横に振ってから成宮が漸く頷く。
そして、成宮がボールを投げると…。
キンッ！
一也の打球が右中間へと飛んでいく。
成宮は打球の方向を呆然と見ている。
一也が２塁にスタンディングで辿り着くと右腕を突き上げる。
走者一掃のタイムリーツーベースヒットだ。
ここで城南シニアの監督が動く。
どうやら投手交代のようだ。
成宮は帽子を深くかぶり直しながらベンチに戻っていった。
◆
城南シニアとの試合、５―１で俺達が勝った。
俺は五回を被安打２の無失点で終えた。
え？四回裏のチャンスの打席？
凡退しましたが何か？
それはともかく、シニアのデビュー戦を勝利で飾る事が出来てよかったぜ！
試合が終わったので帰り支度をしていると、成宮がこちらにやってきた。
「おい、お前！」
ん？俺の事？
俺は自分を指差しながら成宮と目を合わせる。
「そう、お前！名前は何て言うんだ！？」
俺は成宮の言葉に笑顔で答える。
「俺は葉輪 風路！パワプロって呼んでくれ！」
俺がそう言うと、成宮は俺を指差しながら宣言する。
「パワプロ！次は俺が勝つからな！」
そう言って成宮は戻っていった。
これはあれか？
ライバル宣言か！？
いいね！
成宮！また投げ合おうぜ！
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