城南シニアに勝った俺達丸亀シニアは、その勢いのまま東京地区予選を勝ち抜いた。
そして、全国大会の三回戦で敗れてしまった。
俺は東京地区予選の四回戦と、全国大会の二回戦でも先発したんだけど、城南シニアとの
試合の様に無失点とはいかなかった。
東京地区予選で五回を2失点、全国大会で四回を3失点という結果だった。
シニアの洗礼とでも言うのかな?
まぁそんな感じで丸亀シニアの夏が終わった。
そして、中学3年生の先輩が丸亀シニアを去っていった頃、1人の美人なお姉さんが
丸亀シニアの練習を見学に来たのだった。
◆
「おい、パワプロ見てみろよ。」
俺は一也の指差す方を見てみる。
そこには美人なお姉さんと話をしている監督の姿があった。
「監督が鼻の下を伸ばしてるねぇ。」
「いや、そっちじゃねぇよ。」
一也のツッコミを受けてお姉さんを見る。
「一也、あの人って監督の恋人だと思う?」
「いや、ありえねぇだろ。」
ありえねぇとは酷い言い草だ。
まぁ、俺も無いとは思うけどね。
だって、監督なんだもん。
「あのお姉さんは何をしに来たんだ?」
「どこかの高校のスカウトだとしたら、クリスさんを見に来たんだろうな。」
なるほど、一也の言うことに納得した。
「一也、ブルペンに行くからボールを受けてくれない?」
「よし!じゃあ行くぞ!クリスさんが来る前にな!」
俺は妙にやる気になっている一也に引っ張られる様にしてブルペンに向かった。
◆
「それでは、今日は見学をさせて頂きますね、監督さん。」
「えぇ、ゆっくり見学していってください、高島さん。」
夏のシニアの大会を見ていた眼鏡の美人、高島 礼が丸亀シニアの練習を見学しに来ていた。
「それで、今日は誰が目当てですか?」
「そうですね…大会でスタメンとして出場しなかった御幸君を中心に見てみようかと。」
高島の言葉を受けて丸亀シニアの監督は辺りを見回す。
「クリスが野手連携でグラウンドにいるとなると、御幸はパワプロとブルペンにいるかな?」
「ではブルペンに行ってみますね。」
「案内しますよ。」
そう言って監督は高島と歩きだす。
監督は風により流れてくる高島の香りに鼻の下を伸ばしている。
それに気づいた丸亀シニアの子供達は苦笑いだ。
「監督さん、1つお聞きしてもいいでしょうか?」
「はいはい、何でもお聞きしてください。」
この男、美人な高島にデレデレである。
「なぜ御幸君を公式戦の時にスタメンでお使いにならないのですか?」
監督は高島の言葉で顔を引き締める。
普段からこのように真面目であれば少しは女っ気もあるのだろうが…。
「クリス君の実力が際立っているのはわかります。ですが、御幸君にチャンスを
与えてみてもいいのではと思いまして。」
監督は高島の言葉に頭を掻きながら苦笑いをする。
「高島さんのおっしゃる通りです。俺も御幸にチャンスが欲しいか聞いてみたんですがね、
その時御幸が言ったんですよ。『実力で奪い取るのでいりません』ってね。」
高島は監督の言葉に驚いた表情を見せる。
その時、監督は『美人は驚いても美人だな』と再び鼻の下を伸ばしていた。
「そうですか…御幸君は私が思っていたよりもストイックな子だった様ですね。」
「御幸はムラッ気がある奴ですが、間違いなく逸材ですよ。そのムラッ気をやる気に
向けさせるのが俺の仕事です。」
監督は御幸を立てながらも、然り気無く自分をアピールしていく。
教え子をだしにして自分をアピールする。
かつて御幸が思った通りにズルい男である。
「そうですか、それは御幸君の練習を見るのが楽しみですね。」
だが監督のアピールは届かず、高島はにこやかな笑顔でブルペンへと歩いていく。
ブルペンに向かう道中、監督は心の中でそっと涙を拭うのだった。
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