俺達丸亀シニアは城南シニアに劇的なサヨナラ勝利をした。
そして、試合が終わって帰り仕度をしていた時…。
ピロン♪
頭の中で機械音が鳴った。
「うぇい?」
俺は反射的に能力を使った。
※一定条件を満たしたので『ノビ4』が『ノビ5』に成長しました。
※『ノビ5』を取得した事で現カテゴリーにおける最高球速の限界を
『140km』に修正しました。
『ノビ5』とな?
俺は『ノビ5』の詳細を見てみる。
『ノビ5』
・フォーシームのノビがとても良くなる特殊能力である。
・『ノビ4』よりも体感速度が上がる効果がある。
・この能力は金特殊能力である『怪物』の取得条件の1つである。
へ~、良くわかんないけどフォーシームの質が成長したって事ね。
「パワプロ!」
俺が能力画面を見てボンヤリしていると、成宮が声を掛けてきた。
「次は俺が勝つからな!」
「おう!俺も負けないぜ!」
よく見ると成宮の目元が赤い。
俺の目線に気づいたのか、成宮はプイッと顔を逸らしてから俺に向けて舌を出してきた。
そして、成宮は走って戻っていった。
また投げ合おうぜ、成宮!
◆
秋の大会の四回戦も順調に勝った丸亀シニアは、松方シニアとの決勝戦に挑む。
でも、その決勝戦で先発する予定の俺は絶不調だった。
あ、体調とかが悪いわけじゃないぞ。
俺が絶不調の理由はフォーシームを上手くコントロール出来なくなった事だ。
大会期間中に『ノビ5』を取得した事で、フォーシームを投げる時の
感覚が変わってしまったのだ。
試合前の投球練習の時、フォーシームを投げたらクリスさんがビックリした程だからな。
フォーシームを上手くコントロール出来なくなった事をクリスさんに謝ると、
クリスさんは微笑みながら「気にするな」と言ってくれた。
まぁ、カーブとチェンジアップはしっかりとコントロール出来るから
そう言ってくれたのかもしれない。
そう言えば投球練習を見ていた一也が、何故か俺のフォーシームを受けたいと
クリスさんにお願いしていたな。
断られてたけど。
一也?試合前だぞ?
大会が終わったら練習の時に投げてやるから。
おう!約束だ!
◆
秋のシニアリーグ選抜大会の東京地区決勝戦。
丸亀シニアと松方シニアの試合は中盤となる四回を迎えていた。
先攻の松方シニアの一番打者が緊張を感じさせる顔で打席に入る。
強豪の松方シニアの打者が何故そんな顔で打席に入るのか…。
それはマウンドに立つパワプロが原因だった。
一回から三回までのアウトを全て三振で取っていたからだ。
そう、ここまで九者連続三振なのである。
では、何故松方シニアの打者が九者連続三振をしてしまったのか…。
それはパワプロのフォーシームを打てないからだ。
三回戦で城南シニア相手に見せたピンポイントのコントロールでは無い。
ハッキリ言ってこの試合のパワプロのフォーシームは甘い所ばかりに投げ込まれる。
そして、シニアリーグで考えればパワプロのフォーシームの球速は決して速いものでは無い。
だが、そんなフォーシームに強豪である松方シニアの打者のバットが掠りもしないのだ。
マウンドのパワプロが投球モーションに入る。
松方シニアの一番打者が狙うのはフォーシーム。
狙い通りのフォーシームが投げ込まれてきた。
松方シニアの打者がバットを振る。
だが、ボールにバットが当たらない。
「ストライク!」
松方シニアの打者がタイムを取って打席を外す。
その打者を横目で見ながらクリスがマスクの奥で微笑む。
「たった1試合の経験で化ける事があると親父に聞いた事があるが…
まさかこの目で見ることになるとはな。」
クリスはパワプロのフォーシームを受けた感覚を思い出す様に、ミットの中の手を動かす。
「まだコントロール出来ない様だが…この球質なら十分武器になる。」
打席に松方シニアの一番打者が戻る。
「小細工は抜きだ。力押しで行くぞ。」
マスクの奥でそう呟いたクリスは、パワプロにフォーシームのサインを出したのだった。
◆
秋のシニアリーグ選抜大会の東京地区決勝戦。
パワプロは松方シニアを相手にシニアリーグで2度目のノーヒットノーランを達成する。
その内容は21個のアウトの内、15個の三振を奪うというものだった。
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