春の大会の一回戦を無事に勝った丸亀シニアは、その勢いのままに決勝戦まで勝ち進んだ。
二回戦からの一也は本来の動きに戻って、クリスさんにも劣らないだろう活躍をしていった。
そう言えば、一也は二回戦からアップルティーを持参してくる様になった。
気に入ったのかな?
そんな感じで決勝戦に挑んだ丸亀シニアだったが、決勝戦では惜しくも負けてしまった。
俺の投球内容は七回を被安打4、失点1、奪三振9だった。
決勝戦は七回では決着がつかずに延長戦にもつれ込んだ。
そして、延長戦での点の取り合いの末に負けてしまったのだ。
夏の大会でリベンジするぜ!
◆
春の大会が終わり、俺は中学2年生、貴子ちゃんは中学3年生になった。
そして夏の大会に向けて、丸亀シニアは恒例のレギュラーを決める紅白戦を行った。
春の大会に出場出来なかったからなのか、クリスさんが凄い活躍をして
レギュラーの座を勝ち取った。
一也も春の大会で経験を積んだからなのか、クリスさんに負けないぐらいの結果で
監督にアピールしたんだけど、レギュラーには選ばれなかった。
一也はこの結果に悔しそうだったけど、どこか楽しそうだった。
そして一也はクリスさんと笑顔で握手した後、不意に俺に質問をしてきたのだった。
◆
「なぁ、パワプロ。なんで俺はレギュラーに選ばれなかったと思う?」
紅白戦が終わって整理運動をしていた時、一也が首を傾げながら俺にそう聞いてきた。
「バッティングはクリスさんの方が上だけど、キャッチャーとしては負けてない自信がある。
やっぱりバッティングがクリスさんが選ばれた理由だと思うか?」
一也が言う通りにバッティングはクリスさんの方が上だと思う。
でも、一也もチャンスの場面ならクリスさんに負けないだけのバッティングが出来るんだよな。
「う~ん…俺の考えは違うなぁ。」
「お?じゃあ、何が原因だと思う?」
そう言って一也は食い付く様に身を乗り出してきた。
「あくまでも俺の考えだぞ。」
「おう!」
「一也には悪いけど、ハッキリ言えばクリスさんの方が投げやすいんだよね。」
俺の言葉に一也は不服そうに眉を寄せる。
「どういう事だ?」
「う~ん…何て言えばいいのかなぁ?キャッチングの仕方かなぁ?」
俺と一也がそんな風に話していると、俺達の所にクリスさんがやって来た。
「その話、俺も興味あるな。」
「あ、クリスさん。」
クリスさんが俺と一也と一緒に整理運動を始めた。
「パワプロ、俺とクリスさんのキャッチングはどう違うんだ?俺はしっかりと
音を出して取ってるぞ?」
「言っておくけど、あくまでも俺の感覚だからな?」
俺の言葉に一也が頷いたので続きを話す。
「一也もそうなんだけど、キャッチャーの人ってピッチャーが投球モーションに入ると、
一回ミットを下げるだろ?」
「あぁ、ピッチャーの投球モーションに合わせてリズムを取ってるな。」
「だろ?でもさ、それって一瞬だけど投げ込む目標が無くなっちゃうんだよね。
そうすると俺としては少し投げにくかったりするんだ。」
俺の言葉に一也は「へ~」と言いながら左手の動きを確認している。
俺達の周りで整理運動をしていた投手の人達の何人かが、俺の言葉に同意する様に頷いてる。
「それでクリスさんなんだけど、クリスさんはずっとミットの面をピッチャーに
見せてくれるんだ。そうしてくれると、投げ込んだ時にボールの軌道がわかりやすい様な
気がするんだよね。だから、クリスさんの方が投げやすいって感じてるんだと思う。」
思うとか感覚的で曖昧な表現ばかりだけど、俺としてはそう感じるんだから仕方ない。
でも、周りにいた投手の人達の何人かは何度も頷いていた。
「へ~…クリスさん、タイミング取らないと捕りにくくないですか?」
「俺もタイミングは取っているぞ。手首じゃなくて肘でな。」
「肘…。」
クリスさんの返答に一也は左腕を前後に動かしながら確認をしている。
周りに目を向けると、聞き耳を立てていた捕手の人達も腕を前後に動かしている。
「へ~、肘かぁ…クリスさん、秋まで残ってくださいよ。そうしたら
クリスさんからレギュラーを奪いますから。」
一也が笑いながらそう言う。
「御幸、キャッチングもそうだが、お前はチャンス以外でも打てるようにならないとな。」
「たはっ!それは言わないでくださいよ。」
クリスさんと一也のやり取りに皆が笑う。
こうして俺達は良い雰囲気の中で夏の大会に挑むのだった。
本日は5話投稿します
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