『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です


第53話

御幸を打ち取った後の楊は、残りのバッターも打ち取り、五回の表までノーヒットで抑える。

 

そして、迎えた五回の裏。

 

ワンアウト、ランナー無しの場面で、台湾の中学生選抜チームのバッターは楊 舜臣。

 

この試合、2度目の打席に立った。

 

(左手に少しシビレが残っている…。)

 

五回の表の御幸との勝負で、御幸を打ち取ったのはいいのだが、その打球を止めた際に

楊は左手がシビレてしまっていた。

 

現在、御幸との勝負を終えた時に比べれば左手のシビレはマシになっていたが、それでも

バットを握る際の違和感は残ってしまっていた。

 

(今の状況でストレートを狙うと力負けするかもしれない…なら、狙いは変化球だ!)

 

そう意識を定めて構えると、楊は無意識に左手を握り直したのだった。

 

 

 

 

キャッチャーボックスに座る御幸は違和感を感じていた。

 

(なんだ、この違和感?)

 

五回の表で楊に打ち取られた事で、さらに集中力を高めた御幸は、楊を観察していて

違和感を感じたのだ。

 

御幸は違和感の答えが出ないままにパワプロにサインを出す。

 

要求したのはアウトローへのフォーシーム。

 

パワプロが投じたボールは要求通りにアウトローへ。

 

カウントはワンストライク。

 

ボールを捕球した御幸は楊に目を向ける。

 

視線が交差する中で、御幸はまた違和感を感じた。

 

(バットを握り直した?)

 

御幸はパワプロに返球しながら違和感の原因を考えていく。

 

(バットを握り直した事に、なんで違和感を感じたんだ?)

 

御幸は考えながらも右拳でミットを鳴らす。

 

すると、ミットを持つ左手の感覚から、ある光景が頭を過った。

 

それは、五回の表の御幸の打球を楊が止めた時の光景だ。

 

(もしかして…手がシビレてるのか?)

 

ある種の閃きに似た感覚が、御幸の思考を埋めていく。

 

御幸は確認を取る為にサインを出す。

 

パワプロに要求したのはアウトコースのボールゾーンへのチェンジアップ。

 

パワプロがサインに頷き、独特なノーワインドアップの投球モーションに入る。

 

そして、パワプロが投じたボールに楊が反応する。

 

楊はバッターボックス一杯に踏み込み、バットを振る。

 

キンッ!

 

金属バットの音が鳴るが、打球は一塁線を切れてファール。

 

この結果に御幸は確信した。

 

楊の左手はまだシビレが残っていると…。

 

御幸は確信を持ってパワプロにサインを出す。

 

パワプロがサインに頷き、投球モーションに入る。

 

御幸が要求したのは、インハイへのフォーシーム。

 

パワプロが投じたボールが楊の顔付近に目掛けて進んでいく。

 

そして…。

 

バシッ!

 

「ストライクスリー!バッターアウト!」

 

主審のコールで東京シニア選抜チームのベンチが沸き上がる。

 

御幸と目を合わせた楊は、闘志溢れる目で御幸を見据えてからベンチに戻っていったのだった。

 

 

 

 

楊は打たせて取るピッチングで、東京シニア選抜チームの打線を抑えていく。

 

対してパワプロはキレのあるボールで、台湾の中学生選抜チームの打線を

多くの三振で抑えていった。

 

そして試合は進んでいき、六回まで両チーム共にノーヒットだった。

 

だが、七回の表についにヒットが出る。

 

七回の表の東京シニア選抜チームの先頭打者であったカルロスが、三遊間の深い所に

ゴロを転がすと、持ち前の足の速さを活かして内野安打をもぎ取った。

 

続く二番バッターの白河がキッチリと送りバントを決めて、東京シニア選抜チームは

ワンアウト、2塁のチャンスを作る。

 

三番バッターはセカンドフライに打ち取られてしまったが、ツーアウト、2塁のチャンスで

迎えたバッターは四番の御幸。

 

楊は1つ大きく息を吐いてから投球を始めた。

 

楊と御幸の勝負は進んでいき、カウントはツーボール、ツーストライク。

 

楊が勝負球に選んだのはインローへのツーシーム。

 

楊が投じたボールが御幸のバットを掻い潜ろうとしていく。

 

御幸は腕を畳むようにしてスイングをしていく。

 

そして…。

 

キンッ!

 

金属バットの音が球場に鳴り響く。

 

打球はセンター前に落ちた。

 

カルロスが加速しながら三塁を蹴ってホームに向かう。

 

通常よりも前掛かり目な守備位置にいた台湾チームのセンターが、

素早くボールをキャッチャーへ返球する。

 

ホームベース上でスライディングするカルロスと、台湾チームの

キャッチャーのミットが交差する。

 

一瞬の静寂が球場を包み込む。

 

主審の判定は…。

 

「アウト!スリーアウト!チェンジ!」

 

ファーストベース上の御幸が天を仰ぐ。

 

抑えきった楊は、雄叫びを上げながらベンチに戻っていったのだった。




次の投稿は11:00の予定です

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