礼ちゃんが片岡さんの元に行ってから少し待つと、礼ちゃんと一緒に伊佐敷先輩と、
何故か一緒に片岡さんが俺と一也の所にやって来たのだった。
「葉輪くん、御幸くん、この人が青道高校野球部の監督、片岡 鉄心先生よ。」
礼ちゃんの紹介に俺は背筋を伸ばして挨拶をする。
「来年から青道でお世話になる葉輪 風路です!片岡さんに憧れて野球を始めました!
握手してください!」
そう言って俺が手を差し出すと、片岡さんが握手をしてくれた。
ひゃっほい♪
「同じく来年からお世話になる御幸 一也です!今日はよろしくお願いします!」
そう言って一也が片岡さんに頭を下げる。
片岡さんは一也の挨拶に1つ頷くと、俺に目を向けてきた。
「高島先生から話は聞いた。伊佐敷にアドバイスをくれるそうだな?」
「いやぁ、大した知識はないですよ?」
俺の返答に片岡さんは首を横に振る。
「シニアMVP投手のアドバイスだ。伊佐敷を成長させてくれる可能性が
あるなら聞く価値はある。」
そう言うと片岡さんは、後ろに控えていた伊佐敷先輩に目を向けて、伊佐敷先輩を
促す様に1つ頷いた。
「俺は伊佐敷 純だ!よろしくな、後輩!」
「はい!パワプロって呼んでください!伊佐敷さん!」
「おう!俺も純でいいぜ、パワプロ!」
俺がサムズアップしながら愛称呼びを提案すると、純さんはノリ良く応えてくれた。
「俺もよろしくお願いしますね、純さん。」
「おう!御幸だったな?よろしくな!」
色々と威勢の良い純さんだが、面倒見が良さそうだと感じる。
「葉輪、さっそくだがブルペンに向かうぞ。」
片岡さんにそう言われたので、俺は敬礼を1つしてついていった。
…なんで礼ちゃんと一也は苦笑いしてるんだ?
◆
ブルペンに向かう途中、貴子ちゃんを発見したので手を振った。
お~い、貴子ちゃ~ん。
お?気づいてくれた。
貴子ちゃんは俺に手を振り返してくれた。
うんうん、流石自慢の幼馴染み。
可愛いぜ、貴子ちゃん!
あ、貴子ちゃんが一緒に雑用をしている女子にからかわれて顔を赤くしてる。
そこの女子!ナイスだぜ!
そんな風にしながら片岡さんについていってブルペンに到着すると、
ブルペンから大声が聞こえて来たのだった。
「コラァ!何やっとんねん、丹波ぁ!」
うぇい?
大声のするブルペンに目を向けると、縦横に大きい人と、その人に怒られている投手の人、
そしてキャッチャーをしているクリスさんの姿があった。
「クリスが構えとるのはインコースやろうが!何をビビって真ん中に放っとるんや!」
「すいません、東さん!」
「アホかぁ!謝る相手はオレやなくてクリスやろうが!」
そんな感じのやり取りを見ていると、礼ちゃんが補足するように話し始めた。
「投手の子は丹波くんね。伊佐敷くんと同じで貴方達の1つ上の先輩よ。」
ペラリと礼ちゃんが資料を捲る音が耳に聞こえてくる。
「丹波くんは120km台の真っ直ぐと大きなカーブを投げるわ。身長も174cmあるから、
その将来性も含めてエース候補の1人ね。」
「おぉ!俺のライバルだね、礼ちゃん!」
「でも、1つだけ問題があるのよ。」
俺が首を傾げると、礼ちゃんは苦笑いしながら答えた。
「丹波くんはノミの心臓なの。」
そう言うと、礼ちゃんはため息を1つ吐いてから話を続けた。
「夏の大会は、大会前の合宿中に足を捻挫したから出場しなかったのだけど、練習試合で
相手チームに打たれた一本のヒットからボロボロに崩れてしまったの。」
礼ちゃんの言葉を確認する様に、俺は丹波さんを見る。
う~ん、ノミの心臓ねぇ…?
俺は一也と顔を見合わせると、2人で肩を竦めた。
「クリスくんは2人共知っているから省くわね。それで、丹波くんを怒っているのは東くんよ。
貴方達の2つ上の先輩ね。」
礼ちゃんが資料を捲る音がまた聞こえてくる。
「東くんは青道高校で、クリスくんと1、2を争う強打者よ。来年のドラフト候補の
1人として高校野球界では注目されているわ。」
俺は東さんを見る。
うん、確かにあの身体はパワーがありそうだ。
俺と一也は納得した様に頷いた。
そして、東さんの説教が一段落した頃、片岡さんが前に進み出た。
「片岡監督!?」
片岡さんに気づいた東さんが帽子を取って頭を下げると、同じ様に丹波さんと
クリスさんも頭を下げた。
「丹波、少しクリスを借りるぞ。」
「え?あ、はい!」
丹波さんの返事に片岡さんは1つ頷くと、クリスさんへと顔を向けた。
「クリス、伊佐敷の投球を受けてくれ。」
「伊佐敷のですか?」
片岡さんはクリスさんの言葉を肯定する様に頷く。
「あぁ、伊佐敷の投球に葉輪がアドバイスをくれるそうだ。」
片岡さんがそう言うと、先輩方の注目が俺に集まる。
そんな俺を見て、一也は面白そうにニヤニヤと笑っていたのだった。
性格悪いぞ、一也!
これで今週の投稿は終わりです
また日曜日にお会いしましょう