一也の一言でクリスさんを見ていると、確かに違和感を感じた。
「ほんとだ。何か変だな。」
「だろ?」
う~ん、何が変なんだろ?
「どうしたのかしら?」
「礼ちゃん、クリスさんが何か変なんだ。」
「クリスくんが?」
礼ちゃんの言葉に答えながら、俺と一也はクリスさんを見ていく。
クリスさんは純さんのボールを受けると、『横から投げて』返球した。
ん?横から?
「一也?」
「わかったか、パワプロ?」
「多分だけど、クリスさんが横から投げてる。」
俺の言葉を確かめる様に、一也はクリスさんを見ていく。
そして、クリスさんの返球の仕方を見た一也は、目を見開いた。
「パワプロ、クリスさんって上から投げてたよな?」
「うん。」
俺と一也は顔を見合わせると1つ頷いた。
「クリスさん!」
俺が上げた声に、ブルペンにいる人達の注目が集まる。
「どうした、葉輪?」
クリスさんがマスクを外しながらそう言う。
「クリスさん、シニアでは上から投げてましたけど、返球の仕方を変えたんですか?」
俺の言葉にブルペンにいる皆の注目が、クリスさんに集まる。
「クリス。」
片岡さんが厳しい視線をクリスさんに送る。
「すいません…少し前から肩に違和感があります。」
「クリス!何で言わんのや!ボール受けてる場合ちゃうやろう!」
クリスさんの言葉に東さんが怒る。
「すいません…。」
クリスさんが俯きながらそう呟く。
「高島先生、太田部長に連絡してクリスを病院に連れていってください。」
「はい。」
片岡さんの指示で礼ちゃんが動き出した。
「クリス、大会前の大事な時期でも、これからは怪我を隠す様な事をするな。」
「はい、すいませんでした。片岡監督。」
そう言ってクリスさんは片岡さんに頭を下げた。
その後、クリスさんは太田部長(?)という人と一緒に病院に向かった。
ブルペンに残された俺達の間には、気まずい雰囲気が流れていた。
このままじゃ練習に身が入らないだろうなぁ…。
よし!
「片岡さん、キャッチャー用の防具って借りられますか?」
「どういう事だ、葉輪?」
俺と片岡さんのやり取りに注目が集まる。
「クリスさんの代わりに、一也にボールを受けてもらおうかなって思いまして。」
俺の言葉に片岡さんは一也に目を向けた。
「葉輪はこう言っているが、御幸、お前はどうする?」
急に話しを振られた一也は吃驚している。
「おい、パワプロ?」
「クリスさんの事は残念だけどさ、それで練習に身が入らなかったって聞いたら、
クリスさんは責任を感じると思うんだよね。」
俺の言葉に納得したのか、一也が頷く。
「というわけで、ここはクリスさんの後輩である俺達が一肌脱ごうというわけだ。」
「いや、一肌脱ぐ事になるのは俺だけじゃん。」
一也が苦笑いしながらそう言うが、どうやらボールを受ける気になったようだ。
「いやいや、要望があれば俺もバッティングピッチャーをやるぞ?」
「という事らしいですよ、先輩方!」
「おぉ!?嵌めやがったな、一也!性格悪いぞ!」
「キャッチャーにとっては誉め言葉だな。」
俺達のやり取りに、東さんが大笑いする。
「はっはっはっ!クリスはええ後輩を持っとるやないか!」
東さんの言葉で、ブルペンにいる皆の雰囲気が和らいだ。
「丹波、伊佐敷。葉輪は年下だが得られるものがある筈だ。しっかりと学べ。」
「「はい!」」
こうして俺と一也は急遽、青道の練習に参加する事になった。
クリスさんがどの程度の怪我をしているのかはわからないけど、クリスさんなら
戻ってくると信じている。
だから…頑張ってください、クリスさん!
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