「葉輪くん、そろそろ切り上げましょうか。」
東さんのバッティングピッチャーをしていると、礼ちゃんからそう声を掛けられた。
「忘れてるかもしれないけど、今日は学校見学なのよ?」
あ…完全に忘れてた。
「高島先生!ちょっと待ってもろうてええですか!?」
東さんの申し入れに礼ちゃんが頷く。
すると、東さんはバットで俺を指し示しながら声を上げた。
「葉輪!最後に1打席勝負や!」
東さんの言葉に、俺は笑顔になる。
「東さん!3打席勝負にしましょう!」
「試合での打席数と同じ条件でっちゅうことやな?」
「はい!」
俺の申し入れに、東さんが笑みを浮かべる。
「よっしゃ!俺はそれで構へんで!」
そう言うと、東さんはバットを振り始めた。
礼ちゃんは額に片手を当てて、ため息を吐いている。
そして、俺は東さんとの3打席勝負を楽しんだのだった。
3打席勝負の結果は、3三振で東さんを抑えたぜ!
俺は一也とハイタッチした。
イエーイ♪
◆
「すげぇな…。」
パワプロの投球を見ていた伊佐敷が、呟く様に話す。
「あぁ、やっぱりアイツは凄い。」
そして、丹波が伊佐敷に相づちを打つのだが、その顔はどこか晴れやかだった。
そんな丹波の顔を見た伊佐敷は、目を見開いた。
「丹波、お前…変わったな。」
「そうか?」
「おう、少し前はいつも切羽詰まってる感じだったからな。」
伊佐敷の言葉に、丹波は苦笑いする。
「まぁ、今のお前なら、俺もエース争いのしがいあるってもんだ!」
伊佐敷はそう言うと、笑顔になる。
対して、丹波も伊佐敷に笑みを返す。
「負けねぇぞ、丹波!」
「あぁ、俺も負けるつもりは無い…伊佐敷!」
そう言うと、2人は拳を合わせてから練習に戻るのだった。
◆
パワプロと御幸が青道高校の学校見学を終えて帰った後も、青道高校野球部の練習は続いた。
そして練習が終わった後も、1人バットを振り続けている男がいた。
「全然足りんやないか!こんなんで俺はプロに行くつもりやったんかい!」
そのバットを振っている男は、東 清国だった。
「もっと走るんや、もっとバットを振るんや!」
東はパワプロとの3打席勝負で完敗した事で、ドラフト候補として持ち上げられて、
浮かれていた自分に気づいたのだ。
「浮かれてる場合やないぞ…東 清国!」
その後も東は、真剣な表情でバットを振り、多くの汗を流していく。
そんな東に影響されたのか、多くの青道高校野球部の者達が、
練習後にも汗を流していくのだった。
◆
青道高校の学校見学を終えてから数日経った頃、礼ちゃんが家に来て話し合いをした。
俺を特待生として青道高校に迎える事、そして入寮するかどうかを
両親を交えて話し合ったのだ。
特待生の件に関しては直ぐに終わった。
これで来年からは青道高校の一員だぜ!
しかし、入寮に関してはかなりの時間、話し合いが続いたのだった。
問題の1つは、青道高校が歩いて通える範囲にある事。
そして、もう1つが食事に関する事だった。
身体作りに食事は欠かせない。
なので野球選手を志したあの時から、母さんの協力の元、食事には気をつけている。
まぁ、大会で優勝したご褒美等で、美味しいものを食べたりするのはご愛嬌だ。
ちなみにシニアに上がってから、大会の時に食べる弁当は貴子ちゃんが作ってくれていた。
葉輪、藤原両家の母親監修の元、貴子ちゃんは日々、料理の練習をしているみたいだ。
どうやら将来の為の練習らしい。
俺としては、これからも貴子ちゃんの手料理を食べたい。
その事を素直に伝えたら、貴子ちゃんは顔を真っ赤にしながら頷いてくれた。
やったぜ!ひゃっほい♪
その事を聞いていた両家の母親が、何やら微笑ましそうに見ていたので首を傾げたら、
何故か貴子ちゃんに両頬を引っ張られてしまったんだよな。
解せぬ…。
おっと、いかん。
今は寮に入るかどうかの話し合い中だった。
「なるほど…確かに、この食事内容でしたら問題ありませんね。」
礼ちゃんは母さんが書いた、俺の日々の食事内容を見て頷いていた。
「では、風路は家から通わせるという事でよろしいですか?」
「はい、それで結構です。」
お?どうやら話が纏まった様だ。
「それと、私の方からも藤原さんに協力をお願いしておきますね。」
「あらあら、いいのかしら?」
「教師としては問題なのかもしれませんが、1人の女としては応援していますから。」
礼ちゃんがそう言うと、何故か母さんと礼ちゃんは笑うのだった。
まぁ、こんな感じで俺は、来年から青道高校に通う事になった。
そして、秋が終わり、冬が過ぎて、待ちかねた春が来る。
いよいよ、俺が青道高校野球部の一員になる日がやって来たのだった。
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