『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿4話目です


第65話

能力テストが終わって数日、春季大会の日が迫ってきていた。

 

春季大会は、夏の高校野球選手権大会の試金石とも言える大会なので、一軍メンバーは

レギュラーの座を勝ち取るべく、練習に熱が入っている。

 

そして、俺は今、一軍の1年生、2年生の投手、捕手メンバーと一緒に

ブルペンで投げ込みをしている。

 

ちなみに、3年生の投手と捕手の人は、グラウンドでシートバッティングだ。

 

「一也!次、カーブ行くぞ!」

 

俺の言葉に一也がミットを叩いて応える。

 

俺が投げたカーブは、狙い違わずに一也のミットに納まった。

 

一也の返球を受けながら、俺はチラリと他の人の投げ込みを見ていく。

 

丹波さんは、新しい球種としてフォークを練習している。

 

フォーシームとカーブのコンビネーションで、緩急を活かして打ち取るのが、

丹波さんのピッチングスタイルだ。

 

そこに、カーブに比べて球速の速いフォークを加える事で、ピッチングの幅を拡げたいらしい。

 

丹波さんがフォークを選んだ理由は、カーブと同じく、リリースの際に『抜く』系統の

変化球だからと言っていた。

 

そして、フォークは腕の振りがフォーシームと同じなので、カーブとは別の形で

フォーシームを活かす事が目的の様だ。

 

ちなみに、丹波さんのボールを受けているのは、クリスさんだ。

 

俺は丹波さんのピッチングから、純さんへと目を移す。

 

純さんが練習しているのはチェンジアップだ。

 

去年の秋の大会で、純さんはフォーシームとツーシームの2球種で挑んだらしい。

 

純さんは色々と球種を試した結果、抜く系統の変化球が苦手だと言っていた。

 

その為、フォーシームと同じ様に投げられるツーシームを持ち球としていたのだが、

エースの座を勝ち取る為に球種を増やす決断をしたとの事。

 

そこで選んだのが、フォーシームやツーシームに比べて、球速の遅いチェンジアップだ。

 

ただ、純さんは『抜く』リリースの感覚が苦手なので、チェンジアップを投げる際は、

中指と薬指でフォーシームを投げるような形でやっている。

 

その為なのか、純さんのチェンジアップは『落ちる』のではなく、

『来ない』チェンジアップになった。

 

そんな感じで、純さんのチェンジアップは変化球として形になったのだが、

現在は高めに浮いてしまうのが課題となっている。

 

純さんのボールを受けているのは、一年生の捕手である、小野という奴だ。

 

小野は本来は二軍なんだけど、ブルペンで受ける捕手の数が足りないので、

一時的に一軍に合流している状態だ。

 

小野はこの機会を活かそうと、真剣な表情で純さんのボールを受けている。

 

俺は目をノリのピッチングに移す。

 

川上 憲史。

 

数日前の投手の能力テストで、俺と一緒に一軍に選ばれた同級生だ。

 

ノリとは能力テストの後に、ピッチングの事を話して仲良くなった。

 

その際にお互いを、愛称で呼び合う様になったのだ。

 

ノリは能力テストの時に練習中だと言っていた、シンカーの練習をしている。

 

右打者の膝元に投げ込みたいけど、投げきれないのが課題の様だ。

 

そんなノリは、ボールを受けてもらっている宮内さんと、相談しながら投げ込みをしている。

 

「パワプロ!そろそろスライダーを投げてくれ!」

 

おっと、俺も練習に集中しないとな。

 

一也の要求通りにボールの握りを、『ツーシーム』にする。

 

そう、このツーシームの握りが、今現在のスライダーの握りだ。

 

能力テストの翌日からスライダーの練習を始めたのだが、その時はフォーシームの握りから、

縫い目をずらした様な握りだった。

 

だがその握りでは、俺の中の感覚でカーブと区別がつかなくて、

なんかしっくり来なかったんだよね。

 

そこで今朝、練習が始まる前にクリスさんに相談したら、この握りを教えてもらったのだ。

 

クリスさん曰く、プロ野球でガラスのエースと呼ばれた、伝説の投手の握りらしい。

 

伝説の投手の握りと聞いて、テンションが上がって小躍りしてしまった。

 

その時の姿は貴子ちゃんに見られてしまった。

 

そして一言、「フーくん、可愛い」と言われてしまった。

 

俺は頭を抱えながら、身を捩って悶えたぜ。

 

ちくしょう!今度はカッコイイ姿を見せてやる!

 

そんな俺の決意に、クリスさんは呆れた様にため息を吐いていたな。

 

閑話休題。

 

さて、新しい握りでスライダーを投げてみるか!

 

俺はクリスさんにもらったアドバイスに従って、リリースの際に人差し指で、

横に弾く様に意識してスライダーを投げる。

 

俺のスライダーの変化量は、ステータス画面上では1なので、小さな変化しかしない。

 

しかも、この握りで初めて投げたせいか、俺が投げたスライダーは、

一也が構えているミットから大きくずれてしまった。

 

一也がポロリと、ボールを落としてしまう。

 

「ごめん、一也!」

 

俺は一也に一言謝る。

 

一也はボールを手で捏ねてから返球してきた。

 

すると…。

 

ピロン♪

 

頭の中に機械音が響いた。

 

なんだ?

 

俺は能力を使って確認してみる。

 

 

※スライダーが高速スライダーに変化しました。

 

 

ふぁっ!?

 

なんかよくわからないけど、新しい握りで投げるスライダーは、高速スライダーらしい。

 

へ~、こんな風に能力が変わる事もあるのか。

 

まぁ、いいか!

 

練習を続けよう!

 

その後、俺は高速スライダーのリリースの感覚に慣れようと、投げ込みをしていくのだった。

 

 

 

 

(くそっ!捕りにくい!)

 

パワプロのボールを受けている御幸は、高速スライダーの捕球に苦戦していた。

 

御幸の返球を受け取ったパワプロが、笑顔で投球モーションに入る。

 

御幸は息を吐きながら、集中力を高めていく。

 

パワプロが独特な投球モーションから高速スライダーを投げる。

 

(ボールの軌道はフォーシームに見える。でも、ここから…横に滑る!)

 

御幸は高速スライダーを捕球しようとするが、予測していた場所と違った為、

型付けしてあるミットのポケットで捕球出来ずに、手首に近い位置でボールを受けてしまった。

 

(…いってぇ―――!!)

 

御幸はマスクの奥で目を見開きながら、手の痛みに耐える。

 

「ごめん、一也!また、ずれた!」

 

パワプロは新しい握りのスライダーに挑戦している為、他の球種の様に

コントロール出来ないのは仕方ない。

 

だが、ここまで連続でちゃんと捕球出来ない事は、御幸にとって初めてだった。

 

御幸はマスクの奥で笑みを浮かべる。

 

相棒の止まらない進化が、堪らなく嬉しいのだ。

 

「譲りませんよ、クリスさん。絶対にレギュラーの座を勝ち取ってやる!」

 

その後も、御幸は苦戦しながらパワプロのボールを受けていく。

 

そして御幸は練習後に、真っ赤になった手をアイシングするのだった。




次の投稿は午後3:34の予定です

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