パワプロ達がシートバッティングをした日の練習後、片岡はクリスを監督室に呼び出していた。
「失礼します。」
ドアをノックをして、そう言った後にクリスが入室すると、監督室には片岡と高島、
そして太田が待っていた。
「クリス、肩はどうだ?」
「問題ありません。」
片岡はクリスの返事に1つ頷く。
「呼び出した理由はわかるか?」
「…シートバッティングでのミスの事だと思います。」
片岡はクリスの返事にまた1つ頷く。
「原因はわかっているか?」
「身体を動かす際の感覚のずれ、そして、試合勘が無くなった事だと思います。」
そう答えるクリスだが、その表情に悲壮感は無く、しっかりと片岡の目を見ていた。
「春季大会と、夏の大会前の練習試合で様子を見る。その結果次第で、夏の大会では外す。」
「はい!チャンスを頂き、ありがとうございます!」
そう言いながらクリスは頭を下げると、監督室を退室していった。
「大丈夫でしょうか、片岡先生。」
太田が心配そうに声を上げる。
「元プロの、クリスくんのお父さんがトレーナーについてリハビリをしていった事で、
クリスくんの身体は、怪我前に比べて一回り大きくなりました。それが身体の
感覚のずれに繋がったのでしょう。」
高島が資料を見ながらそう言うと、片岡は肯定する様に頷いた。
「高島先生の言う通りでしょう。」
「なら、公式戦ではなく、練習試合や紅白戦でじっくり戻した方がいいのでは?」
「太田部長の意見もわかります。ですが、厳しいリハビリを終えたクリスに
チャンスを与えてやりたいのです。」
そう答える片岡の言葉に、太田部長はため息を吐きそうになって堪えた。
「責任は私がとります。今はクリスを含めた、あいつらの成長を見守ってやってください。」
強い意思を見せる片岡の目に、高島と太田は信頼を見せるように頷いたのだった。
◆
いよいよ春季大会が明日へと迫った日の練習後、片岡さんから
春季大会のレギュラーが発表された。
春季大会の東京地区予選では、基本的に1年生の出番は無いらしい。
理由としては、夏の大会前に西東京地区の高校に情報を与えない為のようだ。
でも、俺は丹波さんと2人で先発をすると言われた。
やったぜ!
丹波さんが先発をする時は、3年生の捕手の人と組むらしい。
そして、俺はクリスさんとバッテリーを組む様だ。
頑張りましょうね、クリスさん!
俺がそう言うと、クリスさんは「葉輪、迷惑を掛ける」と言ってきた。
俺がクリスさんの言葉に首を傾げると、クリスさんは苦笑いをしたのだった。
◆
「フーくん、明日から春季大会だね。」
「うん、待ち遠しいよ、貴子ちゃん。」
片岡さんの話しの後、いつも通りに貴子ちゃんと2人で手を繋いで帰っているんだけど、
貴子ちゃんの顔は少し赤くなっている。
原因は帰る前に、マネージャー仲間にからかわれたせいだろうな。
貴子ちゃんをからかったのは、俺と同級生の…えっと、夏川と梅本…だったかな?
その2人にからかわれたので、貴子ちゃんは顔を赤くしているのである。
顔を赤くしながら、少し恥ずかしがっている貴子ちゃんは凄く可愛い。
夏川、梅本…グッジョブ!
「貴子ちゃん、マネージャーの先輩の事、残念だったね。」
「うん。でも、後を任されたんだから、頑張らないとね。」
先日、1人だけいた3年生のマネージャーの人が、大学の受験勉強に
専念する為に退部していった。
貴子ちゃんの話では、その人は元々2年生までで辞めると家族と約束していたのだが、
貴子ちゃんに色々と引き継ぎをする為に残っていたそうだ。
そういった事があり、春季大会からは貴子ちゃんが、マネージャーとして
ベンチに入る事になったのだ。
「お互いに頑張ろうね、貴子ちゃん。」
「うん。」
貴子ちゃんは、そう返事をしながら笑顔になる。
貴子ちゃんの笑顔…可愛いぜ!
その後は、いつも通りに貴子ちゃんと話しながら、家へと帰っていったのだった。
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