春季大会の東京地区予選の第3回戦に勝った青道高校は、順調に勝ち上がっていった。
第4回戦で先発した丹波さんは、打線の援護に恵まれた事もあり、7回まで投げ抜いた。
結果として4失点してしまったが、降板した時の丹波さんの表情は悪いものではなかった。
8回から登板した純さんは、2回を6人でキッチリと抑えた。
試合後に純さんは、「いつでも先発と代わるぞ、丹波!」と言っていた。
そんな純さんと丹波さんは、不敵に笑いあって拳を合わせていた。
うん、いいライバル関係だ!
俺も交ぜて欲しいぜ!
さて、第5回戦で先発した俺は、8回を投げて4失点だった。
第3回戦の時の様にホームランを打たれたわけでは無いんだけど、バント等をからめられて、
相手チームに着実に点を取られてしまったんだよね。
でも、その点を取られた時にクリスさんが、また自分のミスだと言ってきてビックリした。
クリスさんが言うには、守備のシフトとかの対応を間違えたらしい。
う~ん、キャッチャーって大変なんだなぁ…。
そんな感じで俺は8回を投げきって、3年生の投手と交代したわけだ。
3年生の投手の人はランナーを1人出したものの、0点に抑えたぜ!
こうして第5回戦まで勝った青道高校は今日、第6回戦となる東京地区予選の決勝戦に挑む。
相手チームは東東京地区の黒士舘高校だ。
俺は第5回戦で先発したので、ベンチで見学である。
そんな俺は、第5回戦の事をクリスさんと話しながら歩いていると、
球場に入る前に黒士舘高校の人に声を掛けられて、足を止めたのだった。
◆
「クリス!」
そんな声に俺とクリスさんが振り向くと、そこには黒士舘高校の人がいた。
「財前か、膝の調子はどうだ?」
「おう、リハビリも順調だぜ!その件ではサンキューな、クリス!」
ん?どういうこと?
俺が首を傾げていると、クリスさんが説明をしてくれた。
「葉輪、去年の学校見学の時の事を覚えているだろう?俺が太田部長に病院に
連れて行ってもらった時に、財前も病院にいたんだ。」
クリスさんの話しを聞きながら、俺は財前という人を見る。
う~ん、どっかで会った事があるような?
「その様子だと、財前の事は覚えていないか。」
「はい!会った事がある気はしますが、思い出せません!」
俺がハッキリと答えると、財前という人は頭を抱えて、クリスさんは苦笑いした。
「すまんな、財前。」
「いや、気にするな。俺は葉輪や成宮程、シニアでは有名じゃ無かったからな。」
すいません、名前とか覚えるの苦手なんです。
「話を戻すぞ?病院にいた財前なんだが、財前は去年の夏の大会で起こったアクシデントで、
膝の靭帯を断裂してしまったんだ。」
靭帯断裂!?大怪我じゃないか!
「財前さん、大丈夫なんですか?」
「あぁ、靭帯断裂って聞いて病院でヘコんでいた俺に、クリスの怪我を聞いてすっ飛んできた
クリスの親父さんが、俺の手術費用も出してくれて、手術を受ける事が出来たからな。」
おぉ!さすが元プロ!太っ腹だな!
「クリス、改めて礼を言わせてくれ。ありがとう。」
そう言うと、財前さんはクリスさんに深く頭を下げた。
「財前、礼は親父に言ってくれ。」
「いや、あの時、アニマルさんを説得してくれたのはクリスだ。もちろんアニマルさんにも
感謝してる。でも、俺の恩人は間違いなくクリスだ。」
そう言いながら、財前さんはクリスさんに頭を下げ続けている。
「わかった。財前、礼の言葉は受け取らせてもらう。だが、借りはしっかりと
復帰してからプレイで返してくれ。」
「あぁ、重ねてありがとな、クリス!」
財前さんは顔を上げると、ニッと笑顔を見せた。
「それで、復帰はいつ頃になりそうなんだ?」
「今年の夏には間に合わねぇが、秋には大丈夫だぜ。」
財前さんの言葉に、クリスさんが笑みを浮かべる。
「そうか。」
「あぁ、投球フォームなんかも、1から作り直しているからな。焦らずにいくさ。」
そう言うと、財前さんは手を差し出して、クリスさんと握手した。
「今日はスタンドから見学だが、必ずマウンドに戻る。」
「あぁ、待っているぞ。財前。」
財前さんは、笑顔で手を振りながら歩いていった。
その後、青道と黒士舘の決勝戦は、丹波さんの奮闘に応える様に打線が爆発した、
青道高校が勝利したのだった。
これで、青道高校は春季大会の関東大会への出場が決まったぜ!
関東大会も楽しみましょうね、クリスさん!
これで本日の投稿は終わりです
また来週お会いしましょう