「4ー0で青道高校の勝ちです!礼!」
「「「ありがとうございました!」」」
試合後の挨拶も終わって帰り支度をしていると、俺の所に楊がやって来た。
「葉輪、今日は俺の完敗だ。」
そう言って楊が手を差し出してきたので握手をする。
「今日の俺は、そちらの4番にホームランを打たれた後、仲間を気遣う余裕が無かった。
あの不用意な投球が無ければ、まだ勝負はつかなかったと思うと後悔しかない…。
4番のホームランよりも、その後のヒットの方が悔しく感じている。」
楊は一息ついてから話を続けた。
「今日の反省を活かして、ピッチングだけでなく、バッティングも磨いてくる。
秋の大会で試合をする事になったら、また投げ合いたいな。」
「おう!また投げ合おうぜ!」
俺がサムズアップして楊の言葉に応えると、楊は笑みを浮かべてから戻っていった。
◆
明川学園に勝って迎えた4回戦。
先発した丹波さんは、2回戦とは別人の様な投球を見せた。
4回まで1人のランナーも出さずに相手打線を抑える、見事なピッチングを披露した。
だけど、5回に高めに抜けたフォークを外野まで運ばれると、
丹波さんのピッチングのリズムが狂ってしまい連打を浴びた。
5回だけで3失点した丹波さんだったが、その後は抑えて7回3失点で降板した。
その後は9回に登板した純さんが、ソロホームランを浴びたりしたが、
試合は8ー4で青道の勝利だ!
そして準決勝で戦うのは成宮がいる稲城実業のようだ。
成宮!勝負だ!
◆
「パワプロ!」
試合をする球場のグランドでアップをしていると、俺と一也の所に成宮がやって来た。
「今日は俺が勝って甲子園に行くからな!」
成宮が俺を指差して宣言をしてくる。
「おう!俺も負けないぜ!」
成宮はフンッ!と鼻を鳴らすと、チームメイトの元へ戻っていった。
「パワプロ、今日は勝負所でスライダーを使う。」
俺は驚いて一也の顔を見ると、楽しみで笑顔になる。
「遂に解禁か!?」
「あぁ、片岡監督の許可も取ってある。パワプロ、甲子園に行こうぜ。」
「おう!」
俺と一也はハイタッチをすると、アップを終えた皆が待つベンチに戻って行くのだった。
◆
「今日の試合、マスクは御幸に被ってもらう。クリス、お前はベンチだ。」
今日の試合のスタメン発表で告げられた片岡さんの言葉に、クリスさんが表情を曇らせた。
「甲子園を勝ち抜いていくのは長丁場になる。その中で疲労が溜まっていけば
プレーの質は下がり、怪我にも繋がっていく。」
甲子園の言葉に、青道の皆の表情が引き締まった様に見える。
「特に、夏の暑い時期に防具を着用してプレーするキャッチャーは、自身が感じる以上に
疲労が溜まっていく筈だ。甲子園に乗り込む前に、控え選手にも大会の雰囲気を体験させて
いつでも代われる様にしておく必要がある。これはクリスだけに限った事では無い。」
そこまで言うと、片岡さんは皆の顔を見渡した。
「たとえ代えられても、レギュラーの者達は気持ちを切らすな!そして、チャンスを
与えられた者は全力で掴み取って見せろ!」
「「「はい!」」」
皆が大きな声で片岡さんに返事をした。
うん。曇っていたクリスさんの表情も晴れているな。
「葉輪、今日の試合はお前1人で投げきるつもりで行け。」
あれ?いいの?
「中継ぎや抑えの者を休ませる事が出来るのは大きい。その価値は大会を勝ち進めば、
より大きくなるだろう。成宮との投げ合いに勝って見せろ!」
「はい!」
片岡さんは1つ頷くと、皆の顔を見渡してから話を続けた。
「稲城実業に勝てば、おそらく決勝の相手は市大三高だろう。西東京地区を代表する
強豪と連戦になるが、勝ちきって甲子園に行くぞ!」
「「「はい!」」」
片岡さんの檄に皆が応えると、稲城実業との試合が始まるのだった。
よっしゃ!やってやるぜ!
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