『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です


第89話

夏の高校野球選手権の西東京地区大会準決勝。

 

青道と稲実の試合は8回の表を迎えようとしていた。

 

その8回の表の先頭打者となる稲実の4番バッターの原田は、

打席に入る前に大きく息を吐いた。

 

(春季大会でも思ったが、やはり葉輪は凄い投手だ。だが、うちの成宮も負けていない!)

 

原田はマウンドで何かを話しているパワプロと御幸に目を向ける。

 

(葉輪を相手に連打は望めない。ならば最低でも2塁に到達出来る長打が必要だ。)

 

そう考えると、原田はバットを目の前に持ち上げて両手でグリップを引き絞る。

 

(葉輪のカーブとチェンジアップは引っ掛けてゴロになる可能性が高い。

 狙うは真っ直ぐ1つだ!)

 

原田はそう心を定めると、キャッチャーボックスに戻ってきた御幸に合わせて打席に入る。

 

本日3度目となるパワプロと原田の対決。

 

1球目。

 

パワプロはアウトローにバックドアとなるカーブを投げ込んだ。

 

原田はしっかりとタイミングを取っていたが、このカーブを見送る。

 

「ストライク!」

 

主審の判定はストライク。

 

これでカウントはノーボール、ワンストライク。

 

(8回でも衰えぬ抜群のコントロール…。見事なものだ。)

 

原田は1つ息を吐いてからバットを構える。

 

マウンドのパワプロはサインに頷くと、独特なノーワインドアップの投球モーションに入る。

 

2球目。

 

ストライクゾーンに入っているアウトコースのボールに原田が反応して踏み込む。

 

だが…。

 

(真っ直ぐ…!?いや、チェンジアップか!)

 

パワプロが投げたボールは、原田の目には途中までフォーシームに見えていた。

 

その為、原田はスイングを始動していたのだが、原田は身体が開かない様に懸命に堪える。

 

(態勢を崩すな!中途半端なスイングでは狙いを悟られるぞ!バットを振り切れ!)

 

ガキッ!

 

原田が打った打球は1塁側のファールゾーンに転がっていった。

 

「ファール!」

 

これでカウントはノーボール、ツーストライク。

 

追い込まれた状況だが、原田は内心で胸を撫で下ろしていた。

 

(助かった。あと1球チャンスがある。そして、2球外に遅いボールが続いたこの状況…、

 内に速いボールが来る可能性が高い!)

 

原田の狙い球はパワプロのフォーシーム。

 

それが強く叩けるインコースに来る可能性が高い状況に、原田の心は昂る。

 

原田はタイムを取ると、打席を外して素振りをする。

 

(落ち着け、原田 雅功!緩急差に惑わされずにしっかりと振り抜け!)

 

原田は何度か軽く素振りをした後、最後に強くバットを振ってから打席に入る。

 

原田が大きく息を吐いてからバットを構えると、マウンドのパワプロはサインに頷く。

 

3球目。

 

パワプロが投げたボールは間違いなくインコースに来ている。

 

だが、そのコースはこれまでのものと違って甘いコースだった。

 

(絶好球!もらった!)

 

原田はパワプロが投げたボールをフォーシームと認識してスイングする。

 

だが…。

 

(バットに感触が無い!?ボールは何処だ!?)

 

原田は捉えた筈のボールの感触が無い事に混乱していた。

 

そんな原田に声が届く。

 

「走れ、原田!」

 

野球人の本能なのか、原田は混乱したまま1塁へと走る。

 

そして原田が1塁を走り抜けると同時に、青道の1塁手の結城のミットの音が鳴る。

 

「セーフ!」

 

1塁塁審の判定はセーフ。

 

原田は何が起こったのか確認したくて、御幸がいる方に振り向く。

 

御幸がいる位置はキャッチャーボックスの後方、バックネット付近。

 

(あのコースでワイルドピッチ?いや、パスボールか!)

 

そう思った原田の頭には新たな疑問がわきあがる。

 

(俺が真っ直ぐと思ってバットを振ったあのボールは…なんだ!?)

 

原田は1塁コーチャーボックスにいる仲間に声を掛けられるまで、

1塁の塁上で呆然と立ち尽くすのだった。




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