『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿4話目です


第90話

「悪い、パワプロ。」

 

スライダーを後ろに逸らしちゃった一也が、マウンドまで謝りに来た。

 

「気にすんなよ、一也。」

 

俺がそう言っても、マスクの奥の一也の表情は厳しいままだ。

 

「狙った所に投げられたと思ったんだけど、俺が思ったよりもスライダーが

 曲がったからしょうがないって。」

「悪い、パワプロ。」

 

まだ試合に負けたわけじゃないし、そこまで気にする必要は無いと思うけどなぁ。

 

「じゃあ一也、試合が終わったらジュース奢ってくれよ。それでさっきのはチャラな。」

 

俺がそう言うと一也は目を見開いてから、プッと笑いだした。

 

「わかったよ、パワプロ。奢るのはアップルティーでいいか?」

「一也って熱いアップルティーしか飲まないじゃん。夏にそれはキツくね?」

「いやいや、冷たいのは邪道だろ?」

 

俺達はそんな事をグローブで笑い顔を隠しながら話す。

 

「あ、パワプロ。俺が決勝点を打ったら奢りチャラな。」

「おう!期待してるぜ!」

 

俺の返事を聞くと、一也は笑顔でキャッチャーボックスに戻っていった。

 

 

◆

 

 

パワプロと御幸がマウンドで話をしていた頃、ベンチのクリスは強く拳を握り締めていた。

 

(あのスライダー…、俺なら止められた。)

 

怪我をしてからのクリスは、感覚を新たに作る事で精一杯だった。

 

それ故に、この試合のマスクを御幸に取られた自分の感情に、今気付いたのだ。

 

(これがスタメンを奪われた時に感じる感情か…、悔しいな。)

 

クリスは素直に自分の感情と向き合っていく。

 

それが成長する為に必要だと本能的に感じたからだ。

 

(認めよう。御幸、お前は俺のライバルだ!)

 

クリスはこれまでの野球人生で、試合ではマスクを被り続けてきた。

 

そんな日々の中でクリスは、いつしか無意識の内に自分は挑まれる立場だと思っていたのだ。

 

クリスは元プロ野球選手の父親に、初めて野球を教えてもらった時の事を思い出していた。

 

(あの時は上手くいかない事が当たり前だった。そして、出来る様になるのが嬉しくて、

 親父に誉めて貰えるのが嬉しくて、野球が好きになっていったんだ。)

 

クリスは一度目を瞑ると、笑みを浮かべてマウンドの2人を見詰めた。

 

「御幸、マスクを被るのは俺だ。お前が成長するのなら、俺はそれ以上成長してみせる。」

 

クリスのこの言葉が聞こえた控えのメンバーは、驚いてクリスの方に振り向く。

 

そしてクリスの言葉が聞こえていた片岡は帽子を深く被り直すと、

教え子達の成長を喜ぶ様に笑みを浮かべたのだった。

 

 

◆

 

 

8回の表に稲実の原田が振り逃げで出塁した事で、パワプロの完全試合は崩れてしまった。

 

稲実ベンチは5番バッターにバントを指示して原田を2塁に送る。

 

この試合、両チームを通じて初めて得点圏にランナーが進んだ。

 

そんな状況に球場の観客達が歓声を上げて両チームを応援していく。

 

パワプロはその雰囲気を楽しむ様に笑顔で投球をすると、原田を2塁に釘付けにして

8回の表の稲実打線を抑えた。

 

回は変わって8回の裏、ようやく巡って来たチャンスの場面を活かせずに落ち込む

稲実メンバーを鼓舞する様に、成宮はこの試合で一番の力投を見せた。

 

青道の5番バッターをフォーシームのみで三振に抑えると、続く6番バッターの結城も

チェンジアップで三振で抑える。

 

この成宮の力投に心が奮い起った稲実メンバーは、グランドを埋め尽くす様に

声を張り上げていく。

 

そんなメンバーの様子を見て、成宮は世話が焼けるとばかりに鼻を鳴らすと、

青道の7番バッターをカットボールでショートゴロに打ち取った。

 

8回の裏を終えると、成宮はパワプロの14三振を超えて、

青道打線から17三振を奪っていた。

 

ノーヒットを継続するパワプロと、圧倒的な奪三振能力を見せる成宮の投げ合いに、

球場に駆け付けた高校野球ファンは声が枯れる程に声援を送る。

 

そんな2人の投げ合いも大詰めとなる9回を迎える。

 

9回の表はパワプロがリズム良く3人で抑える。

 

そして9回の裏の先頭打者である御幸は、打席に向かう前に

熱いアップルティーを口にするのだった。




次の投稿は午後3:34の予定です
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