夏の高校野球選手権西東京地区大会の決勝戦が始まった。
相手は西東京地区の強豪校の1つである市大三高である。
決勝戦の先攻は青道高校だ。
1回の表、市大三高の先発マウンドに上がるのは2年生エースの真中 要という人だ。
真中さんは高速スライダーが決め球らしい。
そんな真中さんが投げる1回の表、真中さんは立ち上がりが安定せずに、
青道高校の1番バッターである亮さんを四球で出塁させてしまった。
2番バッターの3年生の先輩はバントで亮さんを2塁に送った。
1回の表から早くも得点のチャンスが訪れたぜ!
だけど3番バッターの3年生の先輩は、真中さんの高速スライダーで
三振に抑えられてしまった。
そして続くチャンスの場面で登場するのは、青道の4番バッターである東さんだ。
東さんは1球目を見送ると、2球目の高速スライダーを左中間方向にフェンス直撃となる、
タイムリーツーベースヒットを打った。
ツーアウトながらも続くチャンスの場面。
次のバッターは5番のクリスさんだ。
真中さんはまだコントロールが安定しないのか、ツーボール、ノーストライクと
ボールカウントが先行してしまう。
そして、真中さんが投げた3球目…。
カキンッ!
金属バットの快音を残して打球はセンター方向に高々と飛んでいく。
クリスさんはストライクを取りにきた甘いコースのフォーシームを逃さずに、
しっかりとバットを振り抜いていた。
1塁に走るクリスさんは確信があるのか、右手で軽くガッツポーズをしている。
そのクリスさんの確信通りに、打球はセンターフェンスを超えてホームランとなった。
これで1回の表で3点のリードだ!
ランナーがいなくなった事で余裕が出来たのか、真中さんは6番バッターの哲さんを
高速スライダーで三振に抑えて1回の表を終えたのだった。
◆
1回の裏、青道高校の先発である丹波はマウンドで右手を左胸に当てていた。
(3点のリードを貰っている…。無理に抑えにいく必要は無い。)
丹波は大きく息を吐き出すと、ロージンバッグを手に取る。
(真っ直ぐ、カーブ、フォーク、しっかりと腕を振れ!)
マウンドの横にロージンバッグを置くと、丹波はまた大きく息を吐き出す。
(カッちゃん…。俺の憧れのヒーロー…。)
憧れのヒーローの背中が手の届く所まで来ている。
その事が丹波の心を高揚させていた。
(落ち着け、俺には葉輪の様に楽しめる度胸は無い…。)
丹波は額の汗を腕で拭って帽子を被り直す。
「だけど、俺も少しぐらいはカッコつけたい。」
そう呟くと丹波は打席に入ってくる市大三高の1番バッターを見据える。
(行くよ、カッちゃん。俺は今日、カッちゃんを超える!)
そう心の中で決意した丹波はクリスの出したサインに頷き、
しっかりと腕を振ってボールを投げ込むのだった。
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