人は、生まれながらに平等じゃない。
弱い……もとい齢4歳にして悟ったそれは、人生の真理。
つまり僕は生まれながらの欠陥品であり、弱者だということ。
それを知り、自覚し、知られ……そして牙を剥く世界に、僕は屈した。
嘲りが、哀れみが、暴力が、慰めが。
祈りは届いてなお、そこに後悔しかない。
それが僕の人生で、そしてそれは、未だに……挫折の中にある。
「ええと、次の1日までは10時間くらいか。学校は行っても大丈夫かな」
ことが明るみにでたのは中国の軽慶市。全身が発光する赤児が生まれたというニュースが全国ネットで放送されたことだった。
以降各地で『超常』はニュースになり、原因などはいっさい不明のまま時は流れた。
いつしか『超常』は『日常』に、『架空』は『現実』に。
世界人口の約八割が何らかの『超常特異体質』である超人社会となった現在の混乱渦巻く世の中で、かつて誰もが空想し憧れた一つの『理想』が『職業』として脚光を浴びていた。
ヒーロー、という。
「来るんじゃねええええー!」
どこかで誰かが叫んでいる。発生源がどこかわからないのに声がここまで届くのは、きっと巨大化とか怪獣化とか……じゃなきゃ拡声とかの個性かな。どれにせよ目立つ個性だ。
使い用なんていくらでもあっただろうに、彼はその個性を犯罪に使った。あるいは個性自体と犯罪とは関係なかったのかもしれないけれど、とにかくその個性で誰かしらに迷惑をかけた。
『超常特異体質』……公称『個性』。発端となった事件から既に100年以上がすぎているのだから、現在人口の8割が個性者だというのもむべなるかなというところである。残りの2割というのも内実はほぼ旧世代の生き残りや、自主的に無個性を守っている特殊な家系などが主である。
そんな世界で『刃渡り15センチ以上の刃物が~』とか『格闘技有段者の拳は凶器相当に~』などという法が通用するはずもない、そこでの対応に国がもたついている間に『自警団』が台頭し市民権を得る。今では警察や消防抑えて最も人気ある『ヒーロー』として認識されている彼らは、正式に国の行政執行機関に組み込また。
その名の通り『ヒーロー職』の誕生である。
彼らは『個性』を使い、同じく『個性』を使う犯罪者たちと戦い取り締まっている。今暴れているどこかの誰かも、間もなくヒーローによって捕まることになるだろう。
『ヒーロー』にとっての『敵役』……『ヴィラン』として。
そう、犯罪者あっての『ヒーロー』だけど、彼らを『ヴィラン』たらしめているのは『ヒーロー』に他ならない。一説によればヒーローの存在こそ『ヴィラン』の活動を助長しているという。そんな矛盾に満ちた世界で、僕、緑谷出久もまたヒーローに憧れる一人だ。
「キャニオン・カノン!」
ちなみに大騒ぎをしていたのは怪獣化の個性の持ち主で、彼は新人ヒーローMt.レディの一撃で御用となった。
脚光を浴びる彼女の後ろで、うちひしがれるシンリンカムイの姿はこの時代の矛盾を象徴しているようで印象的だった。うん。
「それで緑谷、本気で雄英を受験する気か?」
「えっと、成績は問題ないと思いますけど」
ニューヒーローのデビューに遭遇できるなんて今日は幸先が良いなー、何て思ってたら学校につくなり先生に捕まった。進路相談専門の先生だ。個性ごとの進路の選定がいかに重要かは知っていたけど、自分には縁がないものと思ってたよ。
内容は進路について……まあ、当然か。
「ああ、成績は問題ない。素行も一応、問題ないな」
「一応って、何ですか?」
「一応は一応だ。そんなことよりお前、雄英は実技試験あるんだぞ? わかってるよな」
当然わかっている。というか、別に雄英一本にしぼってるわけじゃなし、記念受験だと思って大目に見てくれないものだろうか。実際担任はそうしてるんだし。
「なあ緑谷、記念ならせめて士傑にしないか? あっちも実技はあるが面接の方が重視されるらしいし、まだ見込みがあると思うぞ」
「いえ、記念だからこそ好きなとこ受けます」
ああそうか、もしかして期待してくれてるのかな? ヒーロー職は無理でも、ヒーローにはなれるかもって。
でもごめんなさい先生。ほんとは記念ですらないんです。無個性はヒーローになれないって、ちゃんと諦めたいんです。だから譲れません。
「そうか……まあ、君の進路だからね」
先生の顔がなんとなく寂しそうに見えて、余計申し訳なくなったけど、だからといってこの気持ちは曲がらない。改めて第一希望に雄英ヒーロー科を記した進路希望調査表を担任に提出した。ちょっと笑われたけど知るもんか。
そう思ってはや半日。正直後悔してる。
「デェクゥ、没個性どころか無個性のお前が、なぁんで俺にはりあえんだぁ? ぁあ!?」
なぜ僕はあの時先生に口止めしなかったのか。
クラスメイトに信じられない物を見るように見られるのはまあいい。先生が内心バカにしてようと構わない。だけど、自意識過剰系幼馴染みに絡まれるのは心底めんどくさい。
無名の公立とか、自分の伝説がなんのとか言ってるけど、バカじゃないのかな。中学一本に絞って面接で落とされただけじゃん。あげく僕がいるなんて理由で同じ公立に転がりこんでくるし。ごちゃごちゃ言ってるけど、要するに自分の過去の汚点を万が一にも吹聴されたくないんだろ、僕そんな暇じゃないんだけど。
「僕がどうしようと僕の勝手だろ、君のことなんて知らないよ」
「俺のことなんて眼中にありませんてか……? そおゆうところがムカつくんだよ!」
ほんと、しつこい。今までなんだかんだで避けてきたけど、次の『一日』までのこり一時間くらいだし、もういいかな? うん、いいんじゃないか。でもそうすると、後ろの取り巻き二人もまとめてになるか。
そう思って目をやると、彼らは顔を青くした。
「お、おい勝己、さすがにまずいって、マジでやったら内申に響くぜ」
「そ、そうだぜ勝己、ラーメン食いに行くんだろ?」
「なんだてめえら、なにいきなりひよってやがる! こいつは無個性の……」
「勝己!」
「……ちっ、冷めたわ。おいクソナード、とっとと先公に言って進路撤回しとけや。いいな?」
よくないよ……って言ったところで聞かないんだろうな。勝手に盛り上がって勝手に帰ってったし。まあ、僕も勝手にするんだからお互い様か。それより、彼らがこの場を去るなら去るで次の相手を探さないとね。
適当に敵か不良でもいればあと腐れないんだけど……
(……)
え、なんだ? なにか……来る!
「Mサイズの……隠れミノ」
!?
「大丈ーブ、身体を乗っ取るだけさ。落ち着いて。苦しいのは約45秒、すぐに楽になれる」
ドロドロ男が現れた! ドロドロ男の先制攻撃! 流動的で掴めない身体、迷いなく口と鼻を塞ぎに来る残酷さ。凶悪な敵だ。
だがお前じゃない。
いや、多分だけどね。変な気配がすると思った途端に現れた。液状化とかの個性かな? ビシビシ感じる害意、悪の気配。敵なのは間違いないだろう。だけど、直前に感じた変な気配とこいつの醸し出す悪の気配は完全に別物だ。なんなんだ?
「まさかこの街にあんなのが来てるとは……流石にヤバかった……だけどこれでなんとかなる、いやぁ、君はオレのヒーローだよ」
あの、静かにしてもらえませんか? いまそういう語りとか要らないんで……って余裕ぶってる場合じゃないな。正体不明の何者かは気になるけど、このまま無抵抗だと殺される(多分)。どうにかしないと……
胴体と頭に取りつかれてる→末端(手足)は自由→掴めないので手は無意味か?
鼻と口を塞がれている→喉を閉じれば内臓への侵入は防げる→僕が窒息する。っていうか45秒って窒息させるって意味だろ。意味なし。
流動的→物理手段では対処不可?→精神攻撃とかスタンガンとか……乾燥剤とかどうだ? 持ってないけど。
敵の言動→隠れ蓑、あんなやつ?→時間稼ぎが最適か?
ううん、普通にじゃどうにもできないな。かろうじて時間稼ぎには目がありそうだけど、だからこそ動きにくいっていうか……だいたい時間の稼ぎ方も思い当たらないし。
やるか。ちょうど敵が来てくれたんだし。そう見切ってしまいたいけど、踏ん切りがつかない。
多分、こいつの言う『あんなやつ』と気配の主は同じやつだ。敵と敵対してるんだから、ヒーローの可能性も高い。見られるのはあんまり良くないだろう。
どうしよう。どうする?
「『もう大丈夫だ、少年!! 私が来た!』」
お?
「『TEXAS...SMASH!!』」
おおおおおお!?
「風……圧!?」
拳一発で身体に張り付いていたドロドロ男が吹き飛んでいく。
オールマイト……No.1ヒーロー! 僕の憧れそのものが、なんでここに!?
「『ふう! 大丈夫かな少年! ヴィラン退治に巻き込んでしまったようだけど……うん、元気そうで何よりだ!』」
「おお、オールマイト!?」
あんなヤツ=オールマイト!? そりゃ敵もビビるわけだ。コスチュームを着てないけど……まさか通りすがったのか、物語に出てくるヒーローみたいに都合よく? さすがオールマイト。
ってういか近くで見ると画風違うなぁ。
「『いやぁ、普段はこういうミスしないんだけどね!慣れない土地に浮かれちゃったかな!?』」
驚いてる僕をよそに、それだけ告げたオールマイトはコンビニのビニール袋からコーラ? のペットボトルを出して……一息で飲みきってしまった! しかも二本! さすがオールマイト!
「『さて、それじゃ私はこれからこのヴィランを詰めなくては』」
「ぼ、僕も手伝います!」
「『ありがとう少年! 助かるよ!』」
「そ、それで、よかったらこのノートにサインを……してあるー!?」
え、嘘!? 僕今カバンから出したノートだよ!? どうなってんの?
「『ふふっ、プロは常に時間との戦いさ! そしてファンサービスはヒーローの基本だ!』」
「あわわわわ……」
「『さ、少年! 悪いがあまり時間がないんでね』」
「は、はい!」
慌ててその辺に飛び散ってる敵の破片を破りとったノートのページで掬い上げて、ペットボトルに注いでいく。うーん……一応これ全部で一人の人間なんだよね? 二つのペットボトルに分けて大丈夫なのかな……? まあ、人間を割いていると思うと罪悪感あるし、これはこれでいいか。いや、悪いことというには若干物足りない感があるけど。
っていうかオールマイトすごいスピードだけどどうやって詰めてるんだ? 僕が半分も終わらない間に詰め終わって、残りもあっという間に詰めちゃったぞ?
「『ふう、おかげで無事詰められたよ! それじゃ私はこいつを警察に届けなきゃいけないからね! 液晶越しにまた会おう!』」
「あ、待ってオールマイト!」
「『ん?』」
「僕、あなたに聞きたいことがあるんです!」
心臓がばくばくする。なんてバカなことを……って自分でも思ってる。だけど、聞かずにはいられない。
僕は終わりが欲しい。この馬鹿げた道に。
「無個性でも……無個性でもヒーローになれます、よね?」
「『……』」
「特別な力なんてなくても、誰かを助けたいと思って努力できれば、必死になれるなら! 誰だってヒーローになれる! そうでしょ!?」
肯定してくれ。
僕がバカだったって。間違ってたんだって。
「『……ヒーローは何時だって命懸けさ』」
オールマイトは、まるでなにかを堪えるように歯をくいしばる。
まさか、嘘だろオールマイト? 思わずそんな悲鳴を飲み込んで、だけど彼は次の瞬間何時もの恐れ知らずの笑顔を僕に向けた。
「『だけどそうさ! 君の言う通り! 誰にだって、例え無個性だって! ヒーローになれる可能性はあるさ!! それじゃ、今後とも応援よろしく!』」
次の瞬間、まるで空に吸い込まれるようにオールマイトは跳んでいってしまった。
ああ、ありがとうございますオールマイト。
完璧なトドメでした。
膝がガクガク震えだし、直ぐに立っていられなくなる。思わず尻餅をついたのと、セットしていたアラームが鳴り出すのはどっちが早かったのか。
「今、3時か」
次の一日まで、残り時間は1時間を切った。今まで必死に守ってきた僕が僕であるための生命線。
だけどもう構うもんか。何を失うことになったって、自分で自分の首を絞めるような毎日からは解放される。やっぱり僕は間違ってたんだ。
力が欲しくて、そうじゃなきゃヒーローになれないと思って。だけど手に入った力は、ヒーローになるのに相応しいものじゃなくて。それでも、
バカで、身の程知らずで……いや、身の程を知った気になった癖に、諦めることができない、夢と現実の区別が出来ないバカが僕だったから。
だから……
Booom!!
……なんだろう、爆発音?
何処かで敵が暴れてるのかな。それなら……間違いついでに、もう一回くらい間違ってもいいかもしれない。何があったにせよ、何の役にも立たないってことは無いだろ。いっそ人質にでも取られてそのまま……
なんだかフワフワする足に任せて歩いてくと、商店街の一角に何人ものヒーローと大勢の見物人が集まって……あれ、あの爆発、まさかかっちゃん? なにやってんだ……? いや、あれってさっきのドロドロ男か? まさか、操られて!?
「ベトベトで掴めねぇし、いい個性の子供が人質になってもがいてる、おかげで地雷原だ!」
的確な今北三言ありがとうございますデステゴロ。でもベトベトは掴めない理由とは違く無いですか。
いや、今はそんなことより敵だ。オールマイトは……居ない。まだこの事態に気付いてない? なんで……って言ったら多分僕のせいだよな。最後の方、焦ってペットボトルで直に掬い上げようとしたりもしたし、穴とか開けちゃってたのかもしれない。あの勢いで跳んでたら相当遠くにいるだろう、多分すぐには戻ってこない。
この場にいるヒーローはデステゴロにシンリンカムイ、Mt.レディとバックドラフトetc...みんな個性が合わなかったり二次被害を抑えるのに手一杯みたいだ。かっちゃんの救出は進まない。っていうか、誰も手が出せてない。
どうしよう?
(どうしようって?)
どうしたらいい?
(どうしようもないよ)
どうすれば……
(そもそもさ、どうしたいの?)
それは……
(かっちゃんてさ、友達じゃないよね。いてもいなくてもいい、そういうヤツだ。そりゃ、思い入れがないわけじゃないけどね)
かっちゃんは友達じゃない? そりゃ、向こうはそう思ってないかも知れないけど、だからって……
ふと、ドロドロ男に身体の自由を奪われもがくかっちゃんと目が合った……気がした。
いつもの傲慢で、世の中全部睥睨するような目つきじゃない。
ハの字に歪んだ額、垂れ下がった目元。
涙をこらえるみたいな、そんな、
「バカヤロー!! 止まれ!! 止まれー!!!」
気がつけば、走り出していた。
(何をしてるんだ?)
かっちゃんを助けようとしてる!
(友達じゃないかっちゃんを?)
そうだよ! 友達だとかそうじゃないとか、関係ない! だってあんなに助けを求めてるじゃないか!
(それを望むのか? 一番大切な思いを果たすことを?)
それが僕の、正義だから!
(あきらめるんじゃなかったのか?)
諦める! 僕はヒーローにはなれない! この正義も、すぐに消えてなくなる! だけど、だから!
最後は悔いを残したくない! すぐに消えてなくなる僕だけど、信じた物を裏切りたくない!
(今まで散々、裏切ってきたのに?)
今まで散々、裏切ってきたから! この思いが続く限り!
「君が、助けを求めてるから!」
「デク、てめ、なんぶっ!」
先に投げた鞄がその視界を塞ぎ、僕の渾身の拳がかっちゃんの顎を捉えた。
さしもの彼も脳が揺らされれば腕に力が入らなくなる。爆発もしない腕がだらりと垂れ下が……らない、ドロドロ男が支えてるのか。次の瞬間には多分ドロドロ男の気付けと、その痛みに対する反射の爆破があるだろう。
だけど構わない。撒き散らされた爆発の光と煙、奴自身の拡張した身体がドロドロ男の視界をかなり狭めてる。前に伸ばされた腕の下を潜り抜け、入れ!
「ガキ! 何しやがる!」
多分だけど、さっき僕を襲った時とはこいつの状況は違う。周囲の状況をみる限り、45秒はとっくにすぎてるだろう。乗っ取るなんて言ってたけどその実態は恐らく一種の二人羽織、神経とか脳とかを自分の物と繋げられる訳じゃない(と思う)。つまり殺したり気絶させたりしたらかっちゃんの個性が使えなくなる。市街地の真ん中でかっちゃんを襲った以上、ヒーローが来るのは時間の問題。多分こいつはかっちゃんを苦痛とかで屈服させて、個性ごと奴隷みたいに使おうとしてるんだ。
つまりかっちゃんが気絶すれば、爆破の脅威はない。そして、このヒーローに囲まれた状況で、ただの人質を取っているだけなんて通用すると思うか?
状況を見切ったシンリンカムイとデステゴロが走ってくる。ドロドロ男が僕の顔に手を伸ばす。バックドラフトが火元の鎮火を確認して大技を決める。息が苦しい。だけど、この手を緩めは……
「『大丈夫! 私が来た!!』」
誰かに手を掴まれた。気がする。
「『DETROIT SMASH!!』」
そこから先は、なんというかあっという間だった。
僕はなに考えてんだって怒られ、かっちゃんはヒーロー達に称賛された……らしい。らしいというのは、直ぐに引き離されて応急処置ができるサイドキックがかっちゃんの面倒を見てたからだ。
その後かっちゃんは病院への搬送を拒否、逃走。僕は彼を病院に誘導する仕事を請け負うことで、今回のことは不問となった。
(あの裸締めには悪意は無かったのか?)
どうだろう? かっちゃんが相手だったし、全く無かったとは言い切れないけど……必要だったのは確かだよ。殺すわけにはいかないし、飛び出したときは何も考えてなかったし。
(……チカラを使えばよかったじゃないか。俺達のチカラを)
そりゃ……ええと、かっちゃんを助けるためとはいえ、みんなを危険に晒すことは出来ないかな。滅び行く種族なんだとしても。
(それが理由か? 何も考えず飛び出したにしては冷静だな)
……まあ言われてみると、とっさに使えるほど馴染んでないのもあったかも。いや、だからって裸締めに馴れ親しんでるのかって言われると困るけどさ。でもまあ、関係ないよね。二度と使うことはないんだから。
(使わないのか? たとえ使わなくても……ん?)
「『私が来た!!』」
お?
「オールマイト? さっきまで取材陣に囲まれて……」
「『ふふ、抜け出すのなんてワケないさ! なぜなら私はオールマイトだからね!』」
バッチリポーズを決める姿がどこまでも眩しい。うん、本物だ。
しかしここ、さっきの現場からそこそこ離れてると思うんだけど、よく見つけられたな。
「少年、緑谷くんだったね。私は君に聞きたいことがあって来た」
「聞きたいこと、ですか? ええと、
「いや。その経緯には興味がなくもないが、考えた結果なのだろうとは思う。だからそこは省こう」
結構考えなしだったと結論が出ているのでそこを省いていただけるのはありがたいです。
「私は言ったね。無個性でもヒーローになれる、と」
「はあ、まあ、そうですね」
「だからかい?」
「え?」
「だから君は、あの時飛び出したのか? 無個性なのに?」
ええと……?
(ヒーローになれるって言われたから、ヒーローになろうとしたのかってことか)
ああ、なるほど?
「すいません、オールマイト」
「いや、君が謝ることじゃない! あれは私が」
「正直、何も考えてなかったんです」
「うん?」
「色々、責任を感じてくださったりしてるみたいですし、気を使ってくださったみたいですけど、正直あの時はヒーローとかどうでもよくて」
言われてみると、オールマイトの言いたいこともわかる気がする。例えば小学生に、『僕将来ヒーローになりたいんだぁ』とか言われて、『なれるよ!』って言ったらその子が銀行強盗に襲いかかった……みたいな。そりゃ、色々思うところがあるよね。多分、相応に怖い思いをしていたことだろう。
だけど、うん。正直あの時はヒーローになることは諦めてたしなぁ。
「ただかっちゃん……あ、人質になってた子の、なんかこう、表情? 見たら思わず走り出してて」
「身体が勝手に動き出していた、ということかい?」
「まあ、そうです」
「そうか……ああ、そうか」
なんか手を顔に当てて天を仰いでるけど、呆れられたかな。
「緑谷少年、私は君に謝らねばならないことがある」
「へっ?」
「君に対して、私はあまりに不誠実だった。『誰にだって、例え無個性だってヒーローになれる可能性はある』そんなの、ただの綺麗事だ」
オールマイト? 突然何を……
「ヒーローは何時だって命懸けの仕事だ。自らを律することなき暴力は、簡単に私達の命を奪うだろう。怪我をして、心に傷を負って、引退するものも少なくはない。デビューしても誰にも知られることなく、ひっそりと消えていくことだってある。そして、闇に身を落とすものも……」
喉が、喉が渇く。唾を飲み込む音がやけに耳に響く。
「私だって、ヴィランと戦うのは恐ろしい。だから、だから詫びよう。ヒーローは
「あ、謝らないで下さいオールマイト、だって、そんな、そんなの……」
ヒーローになりたいと思った。チカラが欲しいと思った。チカラを手に入れて、でもそれは思ったのと違ってて。チカラを得た僕には地獄が待っていた。
(なにが間違いか知りたかった。チカラを求めたのが間違いだと思った。そしてそれは肯定してもらえた、だけど)
だけどそれすら、嘘だった。ならこの地獄が正しいのか? そんなわけない。なら答えは簡単だ。
(ヒーローになりたい、そう願ったのが間違いだった。そういうことか?)
ああ、嗚呼! それだけは、それだけは間違いだと思いたくなかったのに……だけど、
「そ、そんなの、
だけどそうだ、知ってた。だからチカラを求めて、だからずっと色んなことから目を逸らして生きてきたんだ。
「
まるで言葉と一緒に血でも吐いてるみたいだ。
気持ち悪い。胸がずきずきする。
こぼれそうな涙をこらる。
ああ、くそ!
「だから、オールマイト! そんなことで、謝らないで……」
ヒーローに成れると言われたことも、ヒーローに成れないと言われたことも、僕にとっては救いじゃなかった。僕には最初から救いなんて無かった。それだけのことだったんだ。
こらえろ、僕に弱音を吐く権利なんか無い。ただ、今目の前の最高のヒーローにこれ以上弱いところを見せるな。もう甘えるな。せめて、彼の負担にだけは、なるな!
「少年……」
そう思って俯いた僕の肩に、そっと手が置かれる。大きくて、熱くて、力強い、オールマイトの手だ。
「君の認識の中に一つだけ正さねばならないことがある」
「え」
肩に置かれた手に力がこもる。思わず顔をあげると、オールマイトの燃えるようなまなざしが僕を貫いた。
「君は今、こう思っているんだろう。『自分がヒーローに成りたいなどと思うことは間違いだった』と」
「確かにチカラなき者がヒーローに成ることは出来ない。だが、その思いは間違いじゃない!」
「あのときあの場にいた誰もが無力を言い訳に、思考を止め行動することができなかった」
「だが君は違う。君だけが違った!」
「トップヒーローのほとんどはプロになる以前から逸話を残している。ヴィラン退治、人命救助」
「そして彼らは口をそろえてこう言うんだ」
「考えるより先に身体が動いていた! と」
「だから少年、君の思いは……君の正義は間違いなくヒーローに相応しい!!」
そして……そして頭が、真っ白になった。
言葉の意味を、その内側の真意を、読み取るために必死に口を、肺を動かして空気を取り込む。
「っ」
目の奥がじんじんする。
耳元で心臓がうるさい。
視界が、かすむ。
「はい! ありがとうございます!」
かすむ視界の、その向こうにオールマイトの笑顔が見れる。
かつて憧れて、きっと届くことは無いと諦めた、恐れ知らずの
ああ、なんて……なんて絶望だろう。
——あ、オールマイトがいたぞ!
——マジで! サインもらわないと!
「『ぬおっ! 見つかってしまったか!』」
遠くから押し寄せる喧噪に、オールマイトが慌てだす。
「『少年、君がもし、もしまだヒーローになることを諦めないならその道の先で……雄英でまた会おう!!』」
そしてオールマイトはそれだけ告げると、最初会った時のように跳んでいってしまった。
オールマイトが、雄英で待ってる……?
(いくのか?)
……
(一度は、諦めたろ?)
……
(この地獄が、ヒーローに相応しいと思うのか?)
……いや。
(じゃあ)
……それでも、僕は
そして、この正義を消すことが出来ないなら、それに見合うだけのことをしなくちゃいけない。
だから、僕はヒーローになる。
諦めて、裏切って、見ない振りをして。
自分の手で汚してしまった夢だけど。
だけど僕は一……
「よーやく見つけたぞデクコラァ!」
かっちゃん? またずいぶんと変なときに……
「俺は、俺はてめぇに助けを求めてなんかいねぇ!! 助けられてもいねぇ!! あ!? 俺はなぁ、一人でやれたんだ!!」
そしていつも通り一方的だな。ポケットの中で最後のアラームが鳴る。後一分か。ちょうどいいや。
「無個性の出来損ないが! 俺を、俺が、助けを求めてるだと!? 見下すんじゃねぇ! 恩でも売ろうって……」
「———」
「がっ!!」
無意味に突き出されていたかっちゃんの右手が吹き飛び、叫びをあげそうな口に血坊主が突っ込まれる。
まあ、やったのは僕だけど。
「いやぁ、かっちゃんいいとこに来てくれたね」
ついで脚を切り落とし逃走を封じる。なに化け物でも見るみたいな顔してるのさ。もしかしてちょっと怯えてる? 今日は君の新鮮な表情ばかり見てる気がするよ。
とりあえず新しく生み出した血坊主を断面に押し付けて止血する。別に殺す気はないからね。
「ドロドロ男の時も殴ったりしたし、あとでちゃんと治療しようと思ってたけど……ちょうど時間だし、君を今日の一悪にするよ」
「ほは、ほはへ……」
「大丈夫。治療するって言ったでしょ? 最悪死んだって蘇生できるし、後遺症も残らないよ……おっと」
「ーーーーー!!」
爆液を溜めようとしてた左手を文字通り踏み
達磨みたいでかわいいよ、かっちゃん。
「ほ、は、へ……」
「僕? 知ってるでしょ、無個性の緑谷出久」
(出久、チカラについて聞きたいんじゃないか?)
「ああ、なるほど。普通の人は知らないもんね。折角だから特別に教えてあげよう。僕はね、『道化師』なんだ」
「人間が持つ可能性、そしてその先にあるのが進化。つまり
「僕らは理を違えたもの。大切なものを賭けた制約と引き換えに、その
「そして僕の制約は一日一悪。大切な物はこの心に宿る正義」
「ね? さいっこうの道化でしょ?」
うーん? 僕の笑顔じゃ恐怖は吹き飛ばせないみたいだね。残念。
さて、それじゃそこの路地に入ろうか。人に見られると困るからね。
大丈夫大丈夫、ただちょっと記憶に残らないくらい……ついでに治療したり謝ったりしても罪悪感が薄れなくなるくらい痛めつけるだけだから。
大丈夫だって。もう何年僕がこの能力と付き合ってきたと思ってるんだよ? 記憶に残らないから今まで通り傲慢に振る舞えるさ。ただ、僕を見ると原因不明の悪寒に襲われて脚がすくんだりするかもだけど、僕だって昔は君に怯えてたからね。お互い様でしょ? むしろこれをきっかけに僕ら仲良くできるかもよ? ま、正直君には今更一ミリも興味ないけど。
さて、白いワニにまるかじりされてみる? それとも蜂の群れに全身穴だらけにされてみる? 鼠にかじられるなんてのもあるよ? 鳥葬は必要コストが多いからしんどいけど、かっちゃんがしてほしいなら頑張ろうかな。ああ、せっかくだから全部やってみようか。かっちゃんタフだからね。きっと出来るよ!
……あれ、もう一回死んじゃった? ごめんごめん、すぐ生き返らせるよ! うん、よし。それじゃあ次逝ってみよう!
原作との相違やねつ造についての質問、疑問など受け付けます。むしろ感想欲しいです。