予鈴と相澤先生の出現にあわせて芦戸さんと峰田君が慌てて席に戻っていく。あ、先生今舌打ちした……? 今後は余鈴一分前の着席を心掛けよう。それと、切島君と麗日さんはなんでちらちらこっちを見てるんだろう? 普通に話しにくればよかったのに。
……
……あーもう! なにが『
そんな祈りが届いたのか……いや、相澤先生だし届くまでもないか。とにかく朝のSHRが始まった。
「はい注目。昨日は戦闘訓練お疲れ様。
先生の目が順繰りにかっちゃん、尾白君、僕を捉える。うう、なんか嫌だなぁ。
「爆豪、三度目だ。もう言わん、自分を見つめ直せ」
「尾白、お前は頭冷やせ。今後授業でもやるが
「緑谷……に言うことは特にないな」
……ならなんで名前呼んだし。
「無いがわかれ。程度問題もあるが、俺達はいちいちお前らのケアをするほど暇じゃない。自分のことは自分でやれ。ただし、ルールの範囲内でだ。以上、昨日の話は終わりだ。本題に入るぞ」
相澤先生、さらっと話を畳んだな。正直、
……っていうかこれ僕のためか? そのケアは本当に暇とかどうとか言う話なのか? 尾白君の行動を皆の前で私刑とか言うか? っていうか誰のための何の話してるんだ! なんで僕の名前出した! あーっ、もやもやする!
気持ち悪い。
「急で悪いが今日君らには学級委員長を決めてもらう」
「「「「「学校っぽいの来たー!!」」」」」
こんなこと考えてるの僕だけなのか。先生の言葉にみんなのテンションがあがる。誰も彼もが手を突き上げて自分がやると……みんな凄いなぁ。
僕は絶対嫌だけど。
「緑谷は手をあげないのか?」
「ヤロウゼ」
「いやー……学級委員はちょっと……」
常闇君と黒影君、別々に手を挙げてるけどこの辺どうなるんだろう? 流石に黒影君はノーカウントになってしまうのか。あと口田君、流石に学級委員になったら声だすよね? あ、轟君は手をあげてないな。
かっちゃんはなんかいろいろ必死な顔になってるけど突き上げた手に揺らぎは無い。障子君は手のあげかたに気を使ってるな、個性はリーダーに向いてそうなもんだけど。芦戸さんは手をぶんぶん振ってる。切島君もか。麗日さんは……
「って、どうかしたの八百万さん」
「いえ、手を挙げませんの?」
「挙げないよ」
「そうですか」
なんなんだよ……嫌に決まってるだろ学級委員なんて。無個性だからって雑用みたいに押し付けられて、先生からの言葉だってのに無個性の言うことなんて聞けるかって言われて、先生には無個性だから仕事ができないって貶められる。良い思い出なんか一個も無いし、今更良い思い出に作り替えようなんて思わないよ。
まあ、三年の時はみんな大人しく言うこと聞いてくれたけどね。担任には責めるような目で見られたけど。知らない。僕は知らない。
「周囲からの信頼あっての仕事だ、民主主義に則って多数決で決めるべきだ」
「みんな自分に投票するに決まってらぁ」
「まだ三日目なのに信頼もくそもないわ飯田ちゃん」
「だからこそ、ここで複数票取れればそれは真に相応しい者だということにならないか!」
あー……飯田君、切島君、蛙吹さんか。正直、ああやって場を動かせるなら僕としては飯田君で良いと思うけど。
「どう思われます?」
「良いんじゃない? 僕と轟君は手を挙げてないし、多分誰かしらに複数票集まるよ。自薦禁止にしたって良いし」
「確認できますの?」
「別に出来なくても良いと思う」
ルールを破る人間がいるなら、それはそれだ。そこまでして一票取らなきゃいけない人間が上にいけるとは思えないし、本人だってそんなことわかってるだろう。逆にそれでうまくクラスをまとめることが出来るなら、まあそれはそれで良いと思うし。
「それに先生は
「俺は別に構わんぞ。他の委員含めて今日中に決まるならな」
「いっ!?」
相澤先生!? っていうかなんで皆聞いてるんだよ! 僕八百万さんと話してたぞ!?
「そうだな……確かに俺は焦っていたようだ。投票用紙を一人一枚持ち、クラスの後ろに投票箱を設置、今日中に他人に一票投票……そして帰りのHR前に開票、速やかに委員決め。こんなところでどうだろうか!」
飯田君の言葉にまあしょうがない……という空気になった。そうじゃなかったらじゃん拳くらいしか選択肢無いしね。箱と投票用紙は八百万さんが出してくれて、開票作業は
とりあえず投票先は率先して行動できる飯田君、よく考える頭を持った八百万さん、問答無用で最強個性の轟君……は本人にやる気が無いようだから外して、昨日の敵は今日の友的なノリで芦戸さんと、単に情をとって常闇君……こんなところか。
さて、授業の時間だ……どっかで時間とって切島君と話そうかな。
……そう思いながらも、結局話をしないまま昼休み。
「それで、レスキューポイントとはなんのことですの?」
「八百万さんは轟くんと一緒で推薦だったんだっけ? ええと、一般入試は内容が……」
……なんで僕、八百万さんと向かい合って教室で弁当食べてるんだろう?
いや、他に一緒に食べる相手がいなかったからか。常闇君を始めとした同会場組は芦戸さんも連れてさっさと教室を出ていっちゃったし、それ以外に特に親しいと言える相手もいない。
峰田君は、ちくしょうミッドナイトの授業ねーじゃねーか! と、叫びながら弁当持って教室を飛び出していった。まあ、学食に弁当持ち込んだって良いしね。
じゃあなんで僕らが……僕と八百万さんが教室で弁当を食べてるのかと言えば。
「それにしても八百万さんよく食べるね」
「個性の関係上どうしてもそうなりますの。緑谷さんこそ」
「治療続いたから体力回復用の
弁当箱がでかいからだ。僕も八百万さんも、隣の机まで借りて弁当箱を開いている。流石に二席以上とってしまうのに食堂は使いがたい。
あと、左手が使えなくて何をするのももたつくんだよね。
「もしかして自分で作りましたの?」
「まさか、左手使えないからね。八百万さんは?」
「料理長が用意してくれます」
すごいお嬢様っぷりを見せ付けられた。でも料理自分でしないのか。
「っふ」
「どうかしました?」
「ううん、料理上手になれば、無個性でも八百万さんに
「……気が早い話ですわね」
「
首輪付き……監督管理下準サイドキック制度。今のところ唯一僕がヒーローらしい活動を出来る可能性だ。
一般的には事件解決のために有用な個性持ちを一時徴用したり、敵の出現に対してうっかり個性を使ってしまった一般人を法から守るために使われる制度なのだが、国内最多の
そして、この制度は監督官に全ての責任が乗るということを前提にして非常に自由度が高い。敵に捕まって誘拐された人質などが個性を使い自力で脱出したりした場合にすら適用できる。場合によっては書類のやり取りさえ出来れば
ただし、インゲニウムの事務所ですら無個性を
「私とて、まずはサイドキックからですよ?」
「ってことは八百万さんが独立するまでに料理を修めれば良いわけだ。時間があると見るべきかな」
「……高校在学中に私を満足させるお弁当を作れたら考えますわ」
「チャンスがあるなら精々がん」
「なにか?」
「いや、今なんだか……」
「なに? サイレン!?」
「警報ですわ!」
〝〝セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください。セキュリティ3が……〟〟
校内放送が繰り返される。3って確か……生徒手帳を確認しないと……
「校内への、侵入者……?」
「確か……ええ、そうですわね」
咄嗟に窓から外の様子を窺う。数人がパラパラと校庭に駆け出していくのが見えるけれど……明らかに少ないな。
廊下に出ると、他のクラスの生徒達も慌てて教室を出るところだった。一目散に階段へと走っていく彼等を他所に、八百万さんは鏡を作って窓の外の様子を見てる。僕も倣ってスマホをカメラモードにした。
「あれは……ただの報道陣ですわね」
「え、あ、ほんとだ」
「私たちも下りましょう。ここにいてもしょうがありません」
「うん、急ごう」
一階まで下りてみると、そこはちょっとした騒ぎになっていた。食堂前の非常口に人が押し寄せてパニックを起こしているみたいだ。普通なら先生とかが避難誘導するところだろうけど、そういう姿も見られない。避難を指示する放送だけが生徒達を煽っている。
「これは……」
「なんとかしなきゃ! 八百万さん、簡単なので良いからメガホンを!」
あちこちから悲鳴が聞こえる。このままだと……いや、既に怪我人がでているかもしれない。
血坊主生成。血喩開始。犬の発声器官再現……
「ええ!」
「しず「大丈ー夫!!!」
「ただのマスコミです!!! 慌てることはありません!!!」
飯田君が非常口の上で叫んでる。常闇君が持ち上げたみたいだ。最高峰の人間に相応しい振る舞いを! そう呼びかけられて、非常口に押し寄せていた生徒達も頭を冷やされたみたいだ。
「大丈夫そうですわね」
「うん。でも飯田君はあそこから動けなさそうだし、僕らは他の非常口を見に行こうか」
もう一カ所あった非常口を見に行くと、食堂前ほどの混雑ではないけれどやはり酷いことになっていた。僕らは飯田君の真似をして生徒達を落ち着かせ、校庭に出た後八百万さんの出した救急セットで応急処置をして回った。と言っても2、3年の先輩方もパニックが治まるとテキパキ動いていて頼りになる人が多かったため、左腕の動かない僕の出番は生徒の誘導くらいだった。
「しかし……人前で力を使うことに躊躇いがなくなってきてないか、僕」
「何かおっしゃいました?」
「いや。ええと、開票結果ですが……」
飯田君 4票
八百万さん 3票
轟君 2票
常闇君 2票
尾白君 2票
蛙吹さん 2票
「こんな感じですね。なので委員長は飯田君にお願いすることになりました」
「ありがたい。全力で務めさせてもらおう!」
「あと副委員長なんですが……この中から委員長に指名してもらおうかなと」
「なぜだ?」
「委員長に向いてる人と副委員長に向いてる人は別でしょ。この場だと書記もかねるし……八百万さんは構わない?」
「ええ。委員長に選ばれなかったのは悔しいですが」
「ふむ、それでは本人が構わなければ……常闇君にお願いしよう。先ほど助けてもらったしな」
「了解した」「アイヨ!」
「……何でも良いが、決まったなら他の委員決めをとっととやれ」
「りょ、了解しましたぁ!」
保健委員、飼育委員、風紀委員、美化委員、図書委員、体育委員、広報委員、選挙管理委員、文化祭実行委員。
結局各委員2名だから、クラスの全員が何らかの委員会に所属することになる。人数足りない場合はどうするんだろう? そんなことを考えつつ、僕は保健委員になった。いや、だって今後もお世話になりそうだからさ……ま、無事決まってよかったよ。だーれも僕が不正するとは思ってなかったみたいだし。
ま、不正ってほどでもないか。辞退するつもりだったし、単に一枠票数を黙ってただけだしね。
「あ、緑谷さん、せっかくなので投票用紙を返していただきたいのですが」
「!?」
投票用紙は得票者に配るということでことなきを得た。飯田君、感涙で咽び泣いてたな。
ぶっちゃけ飯田君は学級委員より風紀委員の方が似合うと思う。
あと、文化祭実行委員があるのに体育祭実行委員が無いのは、体育祭の内容をヒーロー科があらかじめ知ってしまうのを避けるためです。普通科や経営科、サポート科では体育委員が体育祭実行委員をかねています……と言っても、競技そのものにはあまり関わりませんが。
あと活動報告に『B-2edの言い訳コーナー』作りました。よろしくお願いします