「全員一塊になって動くな!!」
「
っていうか、一人でも先に逃がそうと思って突き飛ばしたけど先生から真逆の指示が出たし、大体マフラー渡しただけでなんの説明もしてない。本人からしたら敵が出たのと同じタイミングでいきなり突き飛ばされただけじゃないだろうか、これは気まずい。
いやだっていきなり敵がでたし。
自分が逃げるんじゃなくて誰かを逃がそうとしたのは、僕が最前列にいたからだし。
何をされるかわからなかったら一秒でも早く逃げるべきだし。
いや、いろいろ考えても仕方ない。すべきことはなんだっけ。
とりあえず僕がいるのは最前列左。右後ろに一歩詰める。誰かにぶつかった。なんで動いてない? そう言えば突き飛ばしたのは誰だったんだ? ビリビリ響いてくる悪意が思考を乱す。
「なんだ? 入試のときみたいにもう始まってるパターンか?」
「下がってろ切島! 13号、生徒を守れ」
僕が心の中でいろいろ考えて切島君が暢気すぎる感想を抱いている間も、イレイザーヘッドはゴーグルをかけて装備の動作確認をし13号は一歩前に出て臨戦体勢を取る。
「緑谷くん、よく気付きましたね。あれは本物の
「は、本物ぉ!? ヒーローの学校に乗り込んでくるなんてバカすぎんだろ!?」
「だが侵入者用のセンサーがあったはずでは……」
13号にほめられたけど状況が状況だけに嬉しくない。あと峰田君、飯田君、その反応は遅すぎる。
「反応してない以上そういう個性がいるんだろ。校舎と離れた隔離空間に少人数が入る時間を狙い撃ち……確かに馬鹿げてるが、用意周到で悪意に満ちた、目的あっての本気の奇襲だ」
轟君の冷静で的確な分析。良いと思うよ? でも一塊になって動くなって言われてんだから前に出るべきじゃない。なんで暢気に覗き込んでるのさ。13号が困ってるじゃないか。もっと大事なことに目を向けようよ。相澤先生がいるのに未だに続々と
周りの暢気すぎる振る舞いとの間で頭の中身が上下に揺れる。心臓がばくばくしてる。ああ落ち着かない。
「13号避難開始。外に出て電話を試せ、上鳴、お前の個性もだ」
「う、うす」
……
「13号、頼んだぞ」
……!?
「イレイザーヘッド!? 一人で闘う気ですか!?」
「え、先生がいくら個性を消せるって言っても、この人数は……」
「そもそもあなたのスタイルは個性抹消・奇襲からの捕縛のはずだ! 正面戦闘は!!」
「一芸だけじゃプロは務まらん……そのうちみっちり教え込んでやるから今は逃げろ」
言うだけ言った相澤先生が敵の群れに飛び込んで行く。
それは一方的な展開だった。
おそらく個性を消されただろう敵は動きを鈍らせ、先生が使う捕縛武器に絡めとられ、投げられ、叩き付けられ……個性を奪われると人間こうも動揺するものか。個性を消されたことに気付かず不用意に近づく者、消されたことを確認しようとして発動した個性を味方に当ててしまう者。無個性の僕にはいまいち分からないけど、いきなり右手が動かなくなったり、耳が聞こえなくなったりするような感覚だろうか? 凄い。いや、そりゃそうか。先生が正面戦闘をするなら本領はどうやったって複数人での連携、当然相手の連携を崩すのだってお手の物、そうなれば人数が多いほど状況は有利になりやすい。
でもその有利はどこまでいっても五分まで。あとは先生の地力がどこまでも極まってるからこそだ。出来れば最後まで見ていたいけど、かっちゃんを支える飯田君と13号が避難誘導を始めてる……いざという時のために血坊主を残して行きたいところだけど、こんなときに限って……クソ、最悪あとで良い。死んでたってなんとかできる。してやる。絶対にだ。
「1、2、3、4……17、18、19……19!?」
「飯田君、点呼は良いから急いで!!」
「いや、ですが」
飯田君と13号の会話。走るクラスメート。目の前に広がる……黒?
「させませんよ」
妙に低い声とともに目の前に黒いもやのようなものが広がる。これは、他の敵をここに運び込んだ個性の持ち主か!? ちらりと振り向くと、相澤先生がこっちを見ようとして、だけどすぐ前に向き直る。消し損ねたのか、うまいこと逃れたのか。どうも先生はこいつと相性が悪いらしい。それは身体を隠すもやのせいか、はたまた本人の技術の賜物か、あるいはこう見えて発動系ならぬ異形系なのか。いや、見た目は文句なく異形系だけどね。分析してる場合じゃないや。
「初めまして、我々はヴィラン連合と申します」
「僭越ながら本日、ヒーローの巣窟である雄英に入り込ませていただいたのは」
「平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたいと思ったからでして」
いや、そんなことはどうでも良い。今こいつ何言った?
「本来ならここにオールマイトがいらっしゃるはずですが、何か変更があったのでしょうか……まあ、それとは関係なく、私の仕事はこれ」
ゆらゆら揺れ始めたもやの輪郭が吐いた意味不明すぎる言葉に一瞬、頭が真っ白になってる間に、目の前にいた尾白君と切島君が飛び出していた。早くて重い尻尾の一撃と、硬くて鋭い手刀がもやを吹き散らす。
「何をするつもりか知らないけど、やらせないよ!!」
「その前に俺たちにやられるとは思わなかったのか!?」
「バカ!! 足を止めるな!!」
「どきなさい二人とも!!」
思わず叫んだ僕に、尾白君が憎悪の目を向けたのが最後。13号が飛び出すも間に合わず、二人は一瞬で広がったもやに飲み込まれた。
障子君が上鳴君と口田君を抱えて13号の影に飛び込む。飯田君がかっちゃんを抱えたまま遠く飛び退く。轟君が一人でクラスのかたまりから飛び退いて。
耳郎さんが芦戸さんと葉隠さんへ、常闇君が蛙吹さん、蛙吹さんが麗日さんへ、瀬呂君が峰田君と砂藤君へ。せめてはぐれまいと
僕は……そこで視界が途切れた。
一瞬、闇の中をどこまでも落ちて行くような感覚。視界に光が入って見えるようになったと思ったのは一瞬。痛いほど大粒の雨が全身に打ち付けられる。妙に薄暗い。これは上から見えたドームの中か? さしずめ台風ゾーンとか嵐ゾーン、そんな感じだろうか? とりあえず残り二本の内使い出がない方、標準迷彩のマフラーを顔に巻き、風雨を防ぐのに使う。ださいのはわかってるけど、そんなことを気にするほど余裕は無い……いや、ちょっと待てよ? 相手はセンサーを無効にしてる。んだよな?
周囲を見回すと、重量級っぽいヴィランが多い。この環境で安定して闘える能力か。水系は多分水難ゾーンにいるだろうから、あといるのは……いや、どうでもいいか。なんにせよ僕よりは強いんだろう。
見た感じいるのは
「なんだよ、地味なガキ一人ぽっちかよ」
「ちぇっ、ガキを殺し放題だって言うからきたのによ……」
「あ、あの、ここドームだし、カメラとかついてますよ? ここで何かしたら顔とか、全部記録に残っちゃうと思いますけど」
とは言え念のために確認だ。ばれたら困るのは僕も敵と変わらないからな……
「お、何だ? 命乞いか? 残念だったな。他のところにだってカメラはあるけどな、そういうのは全部使えなくしてあるんだよ」
「何だったらほれ。お探しの物はこれだろ?」
ぽんと放り出されたのは一台のカメラ。ドーム内のどこかに設置してある奴だろう。僕が来るまで暇だったときにたまたま見つけたから壊した……とかそんな感じか? なんにせよこれで何をやってもばれないことが確認できた訳だ。
「ああ、安心しろよ。お前一人じゃ満足できないからな。さくっと殺してよそに遊びに行くわ」
「あっという間におわらせてあげまちゅからねー」
「ぎゃはは。死体は持って帰っておもちゃにするかもだけどな!」
「ほらほら、お前の個性を見せてみろよ。ヒーローの卵だろ? がーんばれっ! がーんばれっ!」
……持って帰っておもちゃに、ねぇ。
「あー、なんというかその。頭悪すぎるでしょ。なんでこんなすぐに逃げられないところで待ち構えてるのさ」
やりやすいけどさ。血坊主生成。血喩開始。下水道の白鰐再現。
「は?」
「あ、なんだ? 恐怖で頭おかしくなっちまったか?」
「考えなかったの? 自分たちがなんでここに連れてこられたのか。ワープの個性だよね? もしかしてオールマイトの死体を一発殴れるとか言われて釣られてきた? 実はあのワープゲートのアジトの場所も知らないんだろ」
「なんでそれを……」
「だって、
「それは……」
「ようするにあなた達は使い捨て。期待されてない有象無象。僕らに勝てる道理は無いんだよ……たとえ僕が無個性でもね」
ブツリ、と。空気が切れる音がした。
僕に煽られた彼らが、これ以上我慢できるはずが無い。全力で襲いかかってきた彼らを、僕は笑って迎えうつ。
「
SIDE:八百万
『先生、あの、除籍と言うのは嘘だったんですよね?』
『……ああ。君らの全力を引き出すための合理的虚偽だ』
あのときの相澤先生の表情は、私の中で明確に敗北の記憶として刻まれている。緑谷さんへの。
緑谷さんにマフラーを押し付けられ突き飛ばされたとき、動揺はありましたがそれでも無駄なことはしない人だと思いました。
だから素直にその場から離れつつ身を隠し、相澤先生の指示に躊躇しながらも、自分でも地形に対して適当な迷彩を用意して入り口へと向かいました。流石に電話は作れませんが、狼煙や花火を上げることくらいは出来ます。校舎に危機を伝えるには十分でしょう。もし全体から遅れるようであれば合流しよう、そんなつもりで皆さんより5メートルほど先をひっそりと移動していました。
その5メートルが私の立場を明確にしました。
オールマイトを殺す。その言葉が背後から聞こえた時、私は動揺を殺すのに必死でした。ですが、動揺しても何もならないことを知っています。私はどこまでも冷静に……冷静にクラスメートを見捨ててしまいました。そういう立場にいたからです。緑谷さんが、私をその立場に立たせたのです。
そして今、目の前に敵の背中があります。いえ、背中というか、服を纏ったもやのような何かなのですが。
「障子君、無事か!」
「上鳴と口田を残せた、他も全員バラバラにはなったが施設内にはいるようだ」
「凄いな。俺は爆豪君一人で手が足りなくなったぞ」
「黙れモブが! 俺を守ろうとすんじゃねえ! ぶっ飛ばすぞ!!」
「本当に緑谷君がいないと元気だな君は……」
その向こうに立つのは13号先生、飯田さん、障子さん、爆豪さん、口田さん、上鳴さん。
障子さんは個性で作った複製器官で施設内の様子を聞き分けている様子……ちらりと障子さんと目が合いました。どうやら私が隠れてることにも気付いているようですが何も言いません。何も言わずに両手を大きく広げ、もや男に挑みかかるような姿勢を取りました。爆豪さんも、指先の確認をするように一本一本折り曲げては火花を散らしています。
しかし13号先生はそれを制するように個性を発動し、もや男を牽制しながら口を開きました。
「幸いここには情報伝達力が高いメンバーが残りました。校舎まで走れる飯田君、
「他の場所でも戦いが起こっているでしょう。殆どの人は数人で固まることが出来たようですが、不利な戦いを強いられている可能性もあります」
「スピード勝負です。僕があの
「さあ、行きますよ!」
号令とともに三人が横に広がり、距離を取りました。私も振り向き、入り口を目指します。敵に背中を見せることは恐ろしいですが、ここは先生を信じましょう。
「敵の前で策を語りますか……?」
「押さえ込める確信が、あるのでね!!」
大丈夫、気付かれてない。だから、焦らずに、私は私の役目を……
今回八百万さんの視点が入りましたが、次回は何名かのキャラの視点でそれぞれのゾーンの様子をご覧頂きます。