尾白君の独白に、多少不愉快な表現があるかとも思いますが、ご容赦ください。
SIDE:尾白
13号が授業の挨拶をしていたとき、俺が立っていたのは後ろの方の列の左側だった。だから、そのとき緑谷が何をしてたのか、全部見えていた。
「イレイザーヘッド!! 敵が!!」
誰よりも早く……俺は相澤先生と緑谷を両方見てたからわかる。間違いなく先生より早く
「全員一塊になって動くな!」
だからイレイザーヘッドからその指示が出たとき、ちょっとほっとした。あいつの行動はプロの判断にそぐわなかった。別にあいつが正しい訳じゃない。あいつが優れてる訳じゃない。たまたま見えてたとか、偶然勘が働いたとか。それだけのことだと思って、だけど八百万さんはそのまま姿を隠した。なんであいつの行動を信じる?
だってあいつは無個性だ。
そりゃ、俺だって本物の無個性を見るのは初めてだ。だけど無個性がどんな連中かは知ってる。
どんな奴が無個性を名乗るのかは知っている。
俺の個性『尻尾』はそんなに強くないとされている個性だ。だから俺は、ヒーローになりたいと思ってから武術を習うようになった。道場付きのトレーナーにメニューを作ってもらって、それ以上をこなして、認めてもらって、もっとハードなメニューを組んでもらって。両親の手伝いで小遣いをもらって、個性の使用許可が出る公営体育館を借りて個性の練習をして。どこまでも限界に挑戦するように鍛えて、鍛えて、鍛えて。
そうしてると、変な奴が喧嘩を売ってくるようになった。没個性の癖に生意気だとか言う強力な個性の持ち主もいたけど、それよりも多かったのは足を引っ張ってこようとする自称
曰く、俺たちにみたいな没個性には無駄なことだ。
曰く、そんなに頑張ったってどうにかなる訳が無い。
曰く、お前みたいな奴がいるから俺たちまで目を付けられる。
曰く、お前も俺たちも無個性と同じような物だろ……
そうして言いたいことを言っては、最後には暴力をふるい、喧嘩を売ってくる。個性をふるって来る彼らに良いようにやられる訳にも行かず、時には逃げ、時には反撃し、そして教師に訴えられて呼び出され、個性を使ったら問題になるんだぞ、波風立てるななんて叱られ、脅されて……
中には理解がある、良い奴だっていた。だけどそういう奴は自分を没個性だとか無個性だとか、そんな風に卑屈には振る舞わない。そう言う個性だから仲間だなんて言わない。貪るように時間を潰し、何もしないのに欲しがりで、気に入らないことがあれば暴力をふるい、無個性の仲間なんて名乗りながら自分だけは違うなんて思ってる傲慢な連中、それが無個性を名乗る奴らだ。
だからあいつが許せない。あいつに負けるわけにはいかない。
本物の無個性を見たのは初めてだけど、初日の振る舞いを見ればわかる。他人を陥れることを平気で考えて、情け深いつもりなのか必死に人が手に入れた物を手放し、気に入らないことがあれば教師に暴力をふるう。爆豪を脅してたって話もあるし、ヒーロー基礎学での俺への振る舞いもある。
何が
だから、あいつが怯えるような、焦るような態度を取ってることに気付いたとき、俺ならやれると思った。
逸ってる切島と呼応するように飛び出して、ワープゲートの個性の持ち主を蹴散らした。お前には出来ないんだろう。そう思って。
「バカ!! 足を止めるな!!」
「どきなさい二人とも!!」
あいつと同じことを叫ぶ先生を見て。俺は……
SIDE:切島
思わず飛び出して、もや男に襲いかかり、そしてワープゲートに飲み込まれた。
流れにするとこれだけだけど、結果的にクラスメート全体を危機に陥れてしまったのは間違いない。13号先生の動きを俺たちが遮ってしまったから、多分他のクラスメートも散り散りに飛ばされていることだろう。
俺と一緒に飛びかかった尾白と、二人そろって送り込まれたここは差し詰め倒壊ビルゾーンとかだろうか? 廃墟じみた建物の中で、俺は比較的有利に立ち回れていると思う。なんだかんだで俺の個性は対人戦に有効だし、ビルが崩れることを恐れずに闘えるのがでかい。尤も、相手も似たような個性の持ち主が多いから若干攻撃力不足なんだが……その辺は武術習ってるらしい尾白がうまくやってくれる。身体を硬くできる奴には関節技と投げ技を、重たい奴には急所を狙った打撃を。その闘いっぷりはいろいろ参考になる。
俺の主な仕事は、そうやって飛び回る尾白の盾となり、壁となること。五人くらいの敵を倒した頃、そういう形で連携がまとまってきた。
「尾白、まだいけるか!?」
「助かるよ、切島」
言っちゃなんだけど、尾白に関していい印象ってのはあんまりない。スポーツテストの結果は俺よりちょっと上くらいだったし、戦闘訓練の時はたった二度の攻防で、どちらも緑谷に瞬殺されてた。一回目は不意打ちだし、二回目もその時のダメージがあったんだろうけど……アイアンクロー一発だ。しかも事情はよくわからないが裏切ってる。相澤先生は
だけど実際、こうして一緒に闘えばわかる。
尾白は熱い奴だ。芯が通った男だ。たとえ何かを間違ってたとしても、悪い奴じゃねえ。
なら俺が迷う必要は無い。ただ目の前の敵を蹴散らして、逸って先生の邪魔をした責任を取るだけだ。尾白を追って不用意に近づいてきたでかぶつの胴体に硬化で固めた拳をぶち込む。
同時に尾白の尾がその後頭部を打ち抜いた。
「これでっ」
「終わりか!!」
周囲にはもう敵の姿は無い。なら、次にすべきことがあるはずだ。他の皆を助けに行く。
「尾白」
「ああ、皆を助けに行かないとね」
「誰がどこにいるのかはわからないけど万が一爆豪と緑谷がセットでいてみろ、絶対全滅する」
「……そうだね。急ごう」
「おう、中央は先生が闘ってるはずだから、邪魔にならないようにな」
急げ!
SIDE:常闇
自分の個性が、戦闘に向いていることは知っていた。いや、向いているというのもぬるい。闇に染まれば自ら戦いを求める、戦乱の申し子とすら呼べる相棒をこの身に宿しているのだ。自分はヒーローか、そうでなくとも相応の鉄火場を行くのが運命であると確信をするほどには、強力な個性だと感じていた。
だからこそ、その手綱をとることにかまけていた自分が、瞬間的な判断において優れた方でないことも実感しつつあった。
だが、こんなにも致命的なミスをするとは思っていなかった。
「緑谷……」
咄嗟に仲間とはぐれまいと行動したのは良いが、近くに居る一人に手を伸ばすのが精一杯で戦力のことまで頭に回らなかった。俺は見ていたのだ。
「常闇ちゃん、今は目の前に集中して」
「緑谷君なら大丈夫だよ、二対一……ううん、三対一だって、入試の0Pだって切り抜けたんだから!」
「ゲンキダセヨ」
ここ——埋もれた建物や荒れた地面の様子からおそらく土砂災害ゾーン——に一緒に飛ばされた二人、蛙吹と麗日は冷静になるようにと声をかけてくれているが、少し現実が見えていないように感じる。確かに緑谷は弱くない。だが、けして強いというわけでもないのだ。
どこまでも隙を狙い、言葉で翻弄し、道具を駆使し、姑息に徹する。まるで熟練した戦人のようにすら感じるが、それはあいつがそれしかできないからこそだ。それを全部行い、全力を振るうあいつには一分の遊びもない。一歩、一打、一秒があいつの全身を削いでいる。昼に芦戸から聞いてしまったのだ。緑谷は入学時から既に5キロ、体重を失っているのだと。
「すまない、速攻で終わらせよう!」
尾白への態度や爆豪の様子を見れば、何かしら後ろぐらいところの一つや二つありそうだとも思う。
だが、それがどうした。
秘密があるのも、潔白でないのも当たり前のことだ。そんなことどうでもいい。彼は良い奴だ。優しくて、全力で、かっこいい奴だ。
そして、俺の友なのだ。
ああ、未だ終焉には早すぎる。だから頼む。生きていろ、緑谷!
SIDE:芦戸
掴めなかった……目の前にあったのに、掴めなかった……
「緑谷の手……掴めなかった……」
「芦戸、緑谷なら大丈夫だって! なんだかんだであんたら三人に勝ったじゃん! だから今は目の前に集中しないと……!」
「耳郎……!」
耳郎はわかってない! そう叫びそうになるのをこらえる。今はそんな場合じゃないんだ。わかってる。わかってるのに届かなかった手の先の、緑谷の姿が瞼の裏から消えない。
みんな、変に緑谷を強いと思い込んでる。そりゃ、無個性なのに頑張ってると思うけど、それでも強くなんか全然ないのに。
瞬きの次の瞬間、刃物が飛んでくる。慌てて酸で溶かし尽くしたけど、危なかった。だめだ。集中しないと。
「……ごめんっ、今は闘うよっ!」
「うん。とりあえず二人とも私のことは気にしないで闘って。私、ちゃんと二人にあわせるから」
葉隠がそう囁きながら私たちの陰で手袋とブーツを脱ぎ捨てた。私も耳郎も個性の射程がそれなりにあるし、こうなるとこっちから連携するのは難しい。せめて足下に酸の溜まりを作らないように立ち回るつもりだけど、どうしても頼る形になっちゃう。
「葉隠、ごめん、よろしく」
謝りながら、今は確実に葉隠がいない場所に思いっきり酸を撒く。背中合わせの耳郎も近づいてきた奴に向かって個性を使ったみたいだ。
ここは、多分山岳ゾーン。耳郎がはぐれないように手を伸ばしてくれたから、私は葉隠と耳郎と三人でいられた。でも少し思う。もう少し手を伸ばしてくれたら、もし私を掴まないでいてくれたら。もしかしたら緑谷に手が届いたのかもしれない。緑谷を守ることが出来たかもしれない。
緑谷は、弱い。常闇を倒すだけで片腕を半分ダメにしてた。尾白を倒したときにはバテバテだった。私相手には一か八かを試す以外の選択肢がなくなって、そんで、負けた。尾白はともかく、常闇なんて身体にテープを巻いただけだ。それだけで腕を一本だめにしたんだ。私は覚えてる。あの冷たさを。私を止める為に
私たちの周りには十数人の
きっとどこもそうだろう。
もし、緑谷に誰も手を伸ばせなかったら。
もし緑谷が一人だったら。
あの弱っちいクラスメートはきっとどこまでも必死に闘って、それで……
「耳郎、急いでこいつらやっつけなきゃ」
「そりゃ、そうしたいけど……なんか良い作戦あるの?」
「うん……あのね、緑谷の作戦、使おうと思って」
「緑谷のって……あれ!? 本気!?」
「このままじゃ消耗戦だよ。だからさ……!」
「……いいよ。乗った! やってやろうじゃん!」
絶対、絶対助けに行くからね! 待っててね、緑谷!
SIDE:峰田
どうしてこうなった……どうしてこうなったんだよ! なんだよこの状況! おかしいだろ!?
「ここは、火災ゾーンだな……わりぃ、俺のテープはあんまり炎には強くねえんだわ」
「それでも足止めにはなるだろ。そしたら、俺が決めてやる。それに峰田もいるしな」
「瀬呂ぉ! 砂藤ぅ! なんでお前らそんなに落ち着いてんだよ!?
「おうよ。元々この授業もオールマイトが来るはずだって話だし、そこまで持ちこたえりゃなんとでもなるぜ!」
そっか、オールマイトが来るまで持ちこたえりゃ……来るまで……持ちこたえ……
「ど、どーすんだよ!? 戦うのか!?」
「それしかねーだろ。幸い瀬呂もお前も
「俺のテープは一瞬しか持ちそうにねーけどな、出来るだけサポートするぜ!」
あ、あ、あ、あ、あ、あ、ああああああああああ! もうわけわかんねぇ! なんでそんな平気な顔してんだよ! なんでそんな前向きなんだよ!
あああああああ!! こんなことなら八百万のヤオヨロッパイ揉んどきゃよかった! いや! 違う! 畜生! そうだよ!
こんな女っ気ないところで死ねるか! 絶対揉んでやる! ずぇったい揉んでやる!!
ヤオヨロッパイ揉んで、緑谷が芦戸にしたみたいに抱きついてやるんだ!!! 皆助かった時ならノリと勢いでいける! いってやらぁ!!!
「お、峰田、燃えてきたな!!」
砂藤としか組んだこと無いまま高校生活終わりなんて許容できるかぁ!!?
「おーい峰田、俺忘れてるぞ? 全部声に出てるからな?」
SIDE:轟
「嘘だろこいつ」「こっち来た瞬間に、こんな……」「ほんとにガキかよ」
「俺に取って懸念すべき点は一つ。誰かを巻き込まないかってことだ。だから一人で転送されるようにクラスメートから離れた」
落とされたのは水難ゾーン。水中行動に特化した
まあ、とりあえずは水中で凍っちまってる連中は掘り出すが……しかし、こいつら、どう見てもオールマイトを殺すために集められて精鋭って感じじゃねえな。どこにでもいる個性を持て余した
「ま、水中で息が出来ても氷の中じゃ無理だよな。凍傷、凍瘡、まあいわゆる低体温症もある」
「ああそうだ……俺もさ、ヒーローの卵なんでな。
「ところでなんだけどな、あのオールマイトを
俺が次にすべきことは……
保健委員は皆の健康記録をつけている設定です。
治療によって体力を消耗するために、その消耗度合いを明確にするためにリカバリーガールの治療前後では毎回体重が計測されているのです。
ちなみに出久の体重は前日の朝のものなので、実際はもう少し増えています。