今回は『SMASH』という決め台詞がいかに重要かよくわかりました。
まるでワニのように大きな
数少ない大型生物の再現だけあり、ワンアクションで大量の標的に大きなダメージを与えられるので非常に燃費が良いのだが、いかんせん大量の標的というシチュエーションがまず無い上にとかく目立ってかわされやすい。というかもう、立場上目立つ時点で度しがたい。
今回は暴風雨に加え、それに適応した重量級の
「ぎゃあああああ!?」
「な、なんだこがっ!」
「げひっ!?」
「いぎいぃいい!!」
「逃げろ、にげえぇぇえええぇぇ……」
「いでぇ! いでぇよぉ!!」
結果目の前にあるのは阿鼻叫喚の地獄絵図だ。やってしまった感が凄い。というか胸が悪くなる。間違いなくヒーローの卵がやることじゃないけど、そんなことを言っている余裕は無い。とっとと治して拘束しないと。
とりあえずスクリーチαを止め、出血で朦朧としてるらしい奴から順番に切断された部分を血坊主で継いで行く。
……
……もし、もしもだ。
もしこいつらを殺せば、
リカバリーガールの治療に合わせて血液の流れを操作してこっそり増血してるけど、その分体力の消耗が激しい。
ここで大量の血を得られるなら……
例えばこいつらの凶器で仲間割れを装えれば、いざというときに皆を治癒、蘇生するための余力が……
落ち着け僕。感情的になるな。変なことを考えるな。僕にはエミネがいる。いつも通りだ。落ち着いて、ちゃんといつも通りにすれば良いんだ。
……ふう。よし、これで全員か? 端から見たらどういう訳か貧血で全滅って感じかな。吸血鬼の個性持ちとかが仲間割れを引き起こしたっぽく偽装しようか? 噛み跡とか針で刺した跡とかつければそれっぽくなると思うけど。
「おいおい、何だお前?
「え……?」
「
背後から声、慌てて振り向くと見覚えのない男が居た。ずっと隠れてたのか今来たのか、全滅させたと思って完全に油断してた……絶対見られちゃいけなかったのに……! いや、そんなこと言ってもしょうがない。どう誤摩化すにせよまずはこいつを倒さないと。黒いボディアーマー、髑髏のマスク……泡立ったように妙なぶつぶつが浮いた肌……何の個性だ?
「さて、大人しくしてもらうぞ」
激しいスパーク。ドーム内の照明が明滅して……風雨が止まった……? このゾーンの機能へのアクセス、今のスパーク……侵入者用のセンサーの妨害をしてる電気系個性の奴!
まずいな。どうあっても僕は戦うときに『血坊主の生成』『血喩による再現』のモーションが挟まる。火事場の馬鹿力を出すのにだって、自分の中のギアを切り替える……いわば
「か、勘違いだよ。ただ、断面が綺麗だからくっつくんじゃないかって思っただけで……」
血坊主生せ
「お前の詐術も見ていたし、このチンピラどもの個性も把握してるんだよ。さっきのバケモノ、お前の個性なんだろう? 治癒と攻撃、両方できる個性は珍しいが……生命の創造って所か? いや、その辺の解析は連れ帰ってからすれば良いところだな」
「ぐっ、がっ、あぎっ!?」
「治癒系の能力持ち相手なら加減する必要も無いな。徹底的に痛めつけてやるから死なない程度に自力でなんとかしろ」
電撃ヴィランの指から放たれた電撃が連続で僕を貫く。その度に弾かれるように身体が動いて悲鳴が口からこぼれた。顔に巻いていたマフラーも焼け落ちる。い、痛い。痛い痛い痛い!! 痛い、けど! 痛いのなんてなあ……!! 今更なんだよ!
「おっと忘れてた」
言葉とともに向けられた指を睨みつける。耐えてやる。それで、次の一撃までの時間を!
「がっあああああああああ!!!」
そして特大の電光が僕の頬をかすめ、横に倒れ臥すチンピラ
それは悲鳴だけを残して真っ黒に焦げ落ちた。
「え?」
「動けない奴らを回収するのも面倒だし、役に立たなかった奴に報酬を用意する義理も無いんでな。俺の報酬になってもらおう……んん、いい匂いだぁ……あと18個か」
え、なんだ? なにを言ってるんだ? 18個……18……18人のことか。もしかしてチンピラ敵の人数のことを言ってるのかな。だとするとこのゾーンに居た敵の数は、今やられた一人とこいつを入れてちょうど切り良く20か。
「17」 ZAP !! 「ぎゃああああああああ!!!」
6つのゾーンと中央の広場にそれぞれ同じだけ配置されてたなら140の
「16」 ZAP !! 「ゔゔゔゔっ!!!」
まあその殆どが単なるチンピラで、それも一つずつ減っていくみたいだけど。
「15」 ZAP !! 「ぎいいいいいいいいい!!!」
ふと、真っ黒な焼死体の中の真っ白な目玉と目があった。あった……!?
何ぼけっとしてんだ僕は!!?
「あっ、や、やめっ……!」
ZAP !! ZAP !! ZAP!!
「あ……ぎ……っ!」
「うん? ダメージは治してないのか、俺にいたぶられる準備はどうした?」
気がつけば地面に倒れていた。だめだ、直前のチンピラ敵のせいで状況のギャップに思考がついてこない。もしかして僕、今一瞬だけど現実逃避してたんじゃないか? このままじゃまずい。
血坊主生成。治癒開始。まずは痛み止……!
ZAP!!
ぎいいいいいいいいいい!
治癒する時間なんてよこさないじゃないか!? くっそ、このままだと本気でまずい。痛いのには耐えられるつもりだけど、電撃に全身を揺さぶられて瞬間瞬間の思考が止まる。電撃ってものの脅威度と、上鳴君の戦闘力評価を二段階上げよう。
「14」 ZAP!! 「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「ふう……くくくくく……」
っ血坊主生成。治癒か ZAP !! ぐぅっ!?
なんとか隙を見て回復なり痛み止めなりをしようとする僕に、電撃ヴィランは容赦のなく電撃を撃ち込んで来る。自力でなんとかしろなんて言っておいて手を緩める気配もない、言ってることもやってることもめちゃくちゃだけど、一つわかることがある。こいつは、出来るだけ僕を苦しめて遊びたいんだ。それは肉体的なことだけじゃない。
「なんだ? お楽しみの最中ならいけると思ったか? 他人をおとりにするなんて酷い奴だな」
精神的にもだ。こいつ、僕の矜持を折りにきてる……!
「それとも
がつりとけり飛ばされたチンピラ敵の死体が目の前に転がり、その首が音を立てて砕け落ちた。
……?
……!
……!!?
……っああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
間断なく撃ち込まれる電撃。新しく血坊主を生成する余裕は無い。無いけど!!
「ス」
ZAP !!
「グッリ」
ZAPZAP !!
「ーヂィイイ」
ZAAAAAAAP !!
「アルッファアア!!!」
霞む視界に肉の焦げる音、鼻の奥からする血の臭いを堪えてその名を叫ぶ。スクリーチαは止めただけだ。止めただけなんだ。遠くへ消えた
やれ!
「お、おおおっ!? さっきのバケモノかっ! くたばれ!」
ZAP !! ZAP !! ZAP !! ZAP !!
ぐっ、今だ! 血坊主生成、血喩開始! 鴉の翼再現、
ほんの一呼吸の時間だ。その間に白鰐の再現された命は特大の電撃で蹴散らされた。だけど、それで充分だ。ありがとう。またしばらく休んでて。
……しかし
「はっはぁあ。ちょっと焦ったが、やっぱり殺せるみたいだな。俺にはたいしたことの無い相手だ」
「そうでもないよ。あの子にはあの子の役割がある。そしてこの子にもね」
「……なんだそれ、マントか? っは! さすがヒーローの卵だな」
いや、アースだよ。血液って人体組織の中で一番導電率いいからね。
血坊主生成。血喩かZAP !!びっ始。ZAP !!再げZAP !! ZAP !! ZAP !!んZAP !! ZAP !!再げZAP !! ZAP !! ZAP !! ZAP !!再ZAP !! ZAP !! ZAP !!
ピカピカピカピカ鬱陶しいっ!
痛み止めとアースの軽減があればお前の攻撃なんていくらでも耐えられるんだ! 巡れ黒血!! 火事場の馬鹿力全開!! 沸き上がる衝動に任せて両足で踏み切り、
僕の記憶が飛ぶくらいにぶん殴ってやる!!!
「ちっ、大人しくしろ!!」
ZAP !! ZAP !! ZAP !! ZAP !! ZAP !! ZAP !! ZAP !!
「っぶっとべえええええ!!!」
放たれる電光を受けきって、僕の拳が髑髏のマスクに突き刺さる。吹き飛んだマスクの下は、火傷跡の酷い顔だ。
「っが!!? てめえぇ!!」
「まだまだぁ!! ブラッディコート!!」
間髪入れずに電撃ヴィランは僕の顔を掴み、僕は翼の先端を相手の身体に突き刺す。構わず撃ち込まれた電撃は、今まで通り僕の身体と翼を伝導する!
「「っっがあああああああああああああああああああああ!!?」」
皮膚の感じで何となくそうじゃないかとは思ったけど、顔を見て確信した。かなり精度で繊細にコントロールできる上に、威力も申し分ない凄い個性だ。だけど、明確な弱点が一つある。第二世代! お前自身の身体は電撃に対する耐性を殆ど持たない。そういうことだろ! 答え合わせは要らない! 撃ちたいだけ撃て!! なんなら治ったばかりの左もくれてやるよ!!
右を撃ち込む代わりに引き戻した左を、全力でみぞおちに叩き込む。
堕ちろっ!!
「おちろっ!!」
「がっふ……」
右もう一発!!
「もういっぱあつ!!」
「ぐげっ……!」
「左死っねっ!!」
いっけえええええええ!!
「こひゅ……かは」
おちた!
……ふう、ようやくか。危なく『しねー』とかヒーローの卵にあるまじき言葉を使うところだった。
あ、だめだ、気を抜くと黒血が絶えて反動がくる……早くすべきことをしないと。電撃ヴィランにやられた奴ら、まだ魂が残ってるなら蘇生できる。多少電撃痕や火傷の痕が残ってれば仲間割れに信憑性が出るだろうし、こいつらだって何が起ったかは正確には把握してないだろう。僕のことなんかすぐわかんなくなる……と思う。僕自身の傷は……治せない。マフラーやジャージが焦げてぼろぼろなのは誤摩化せないし、もうそんなに血が残ってない。何かあった時の為に残しておかないと。使えて二回か三回か……怪我の度合いでは一人に使いきるかも。
それとあとは、
いっそ殺してしまえば……?
チンピラ敵達には電撃痕がある。こいつらの武器を使えば仲間割れによるものと充分偽装することができるだろう。よしんばばれたとしても、無個性の僕なら……だめだ! 警察なりプロなりに任せる。それが、僕のすべきことだ。
でもこいつ、目が覚めたらまた殺すかも。
……気絶してるしね。今のうちにマフラーで手足縛っておこう。
でもそれで電撃を防げなかったら? いや、殺されるのがチンピラ敵とは限らない。もし、クラスメイトがここに来てこいつと鉢合わせたら?
そう考えると確かに殺した方が確実だ。なにより、いざというとき血坊主に使う
……
考えちゃダメだ。とりあえず最後のマフラーで縛り上げた電撃ヴィランを引きずって、暴風雨ゾーンを出るべく移動を開始する。
目が覚めても個性が使えないように、手首を首に縛り、掌を頭に当たるようにした上で顔ごとぐるぐる巻きにした。これなら自殺覚悟じゃなきゃ個性を使えないだろう。そう言えば、どれくらい時間が経っただろうか? 凄く長くも感じるし、短かったような気もする。送られてきてからチンピラ敵を全滅させるのは一瞬だったけど、電撃ヴィランには相当いたぶられたからな……
もしかしたら、案外もうオールマイトが来て皆を助けたりしてるかも。
ふとそんな考えがよぎる。
ワープ個性の敵に飲まれたとき何人か姿が見えなかったし、飯田君と障子君が何人か庇っていた。既に助けが呼ばれていてもおかしくない。よしんばまだだったとしても通信妨害してるはずの電撃ヴィランは今僕が倒した。助けが来るのも時間の問題だろう。
わかってた。世の中そんなに温くないって。
でも、正直限界だったんだ。体力も、精神も。
巨大な
顔を潰された常闇君とその横で泣いている
テープを掴まれ振り回される瀬呂君。
どうしようもない現実がそこにあった。
スクリーチαは出久の背後から現れているので、映像的には一応出久の個性とはわかりません。無個性だと言う証明があるので記憶が残っていても誤摩化すのは難しくないのです。
第二世代と言うのは自分の個性に対して耐性が極端に低く、またその耐性が成長しない世代を言います。