B-2ed   作:管蘿乃

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本日5話目の投稿となります。


B_16thD『救助訓練編 5(終)』

 多分一番正しいのは、手元の電撃(ヴィラン)を殺すことだった。

 

 それで、相手が満足して帰るまで待って、こっそり全員生き返らせる。それが最善じゃないにせよ、次善かその次くらいの選択だった。

 

 道化師の能力を過信したか?

 ない。

 (コスト)が潤沢にあるならともかく、少なくとも重症が二人出てる。攻撃にも自己治癒にも能力を使えない以上、黒血と火事場の馬鹿力込みでも個性ありの砂藤君と握手合戦すら出来ない僕には、余裕なんて無い。

 

 敵を舐めてたのか?

 ない。

 ついさっきまで電撃ヴィランに良いようにやられていて、無関係で(ヴィラン)とはいえ何人もの人間を殺され、挙げ句奥の手である黒血を発動させられたのに今更油断なんてするはずが無い。

 

「やめろおぉぉぉぉ!!」

 

 気が付けば走り出していた。

 つまり、我慢できなかったのだ。

 いつかエミネが嫌いじゃないと言ってくれた、僕のどうしようもない部分。

 それがすべてを台無しにした。

 

「脳無、的が出てきたぞ。ぶつけてやれ」

「っあ」

 

 吹っ飛んできた瀬呂君が僕の腹にぶち当たり、彼ごと吹き飛ばされて壁に叩き付けられた僕は意識を失った。

 だから、そのごく僅かな時間に出来たことは一つだけ。

 

「完全再現・エミネ」

 

 たったそれだけだった。

 

 

 

 

 

「……これは、そういうことか」

 

 瞼が開き、光が目に入る。全身にかかる重み、重力の感覚。右手。左手。全身を巡る血。どこまでも近くて遠かった相棒の気配はないが、道化師能力の使用には差し支えなさそうだ。魂から肉体、全てが白沢の能力によって再生されている。

 出久の奥の手。秘中の秘。『白沢のエミネ (おれ)』を作り出すという荒技。

 もっとも使用する血の量は出久の総血液量の4分の1程度なうえに、当然能力による治癒では自身の血液量は回復しない。俺が使えるのも注がれた量だけ。つまり一時的に手数を増やせるだけのほとんど無駄な技だ。俺の方がより攻撃的な『命』のストックがあるが、それも出久の中から使えないことは無いし。

 それなのに出久がこんなことをする理由はなんだろうか? 限界以上の血液を使い、ショック症状を起こし死にかけている出久の身体を抱えながら考えてみる。いや、考えるまでもないことだった。

 

「だけど出久、お前は俺のことがわかってない」

 

 手元にあった死に体の男……出久が電撃ヴィランと呼んでいた男を跡形も無く殺し尽くし、その血を奪い尽くす。

 そして自分に注がれた分を出久に戻して蘇生した。尤も、意識を保つのが難しいくらい血が足りてないのは変わらない。黒血の反動もある。しばらく目は覚めないだろう。

 

 自分の血液を限界の先まで使い切ってでもここに居る級友や教師を助けてほしい。

 

 おそらく、そんなつもりだったんだと思う。だけど違う。俺は出久とは違う。人間は好きだ。友人は大事にする。だけど、出久と違って俺はとっくに覚悟を決めている。自分が大事なものを優先すると。そのために殺しを厭う気もない。

 誰も殺さないで、皆を助けたい。

 出久、その望みはかなえられない。それでも願う。結果がこれだ。

 また一つお前のタガは外れた。この短期間で2つ目だ。そして、殺人も免れなかった。俺からは言えないが、すぐ自分で気付くだろう。

 出久、やっぱりお前にはヒーローなんて無理なんだ。俺たち道化師は願えば願うほど叶わない、そう出来ているんだから。それなのにあの男にそそのかされてこんなところまで来てしまうなんて……

 

「……はぁ」

 

 今更いくら言ってもどうしようもないな。

 だからこそ、出来ることはしてやるべきだろう。出久と一緒に手元に転がっている少年を治癒し、倒れ臥した彼の級友や教師に向かって足を進める。そこに立っている有象無象、その中でも危なそうなのは三人。黒いもやのようなシルエットの男、黒いゴムのような皮膚に脳みそを丸出しにした異形の男、そして全身に剥製の手らしきものを身につけた男。同じ悪だからわかる、悪の気配。異形だけはすこし気配が弱いが。

 

「なんだお前、どこから湧いて出た?」

「死柄木弔、もう時間が……」

「ああ? わかってるよ。でもこんな奴今まで居なかったろ? 黒霧、生徒の中にいたか?」

「いえ……居なかったと思いますが」

「また伏兵か? まあいい潰しとけ、脳無」

「Quooo...」

 

 かすかな鳴き声を上げながら走ってくる黒い異形を迎え撃つべく、両腕を前に突き出し血坊主を握り込む。

 

「来い雷神! 雷鋏 (ライトニングシザー)!!」

「おお?」

「なっ!」

 

 両手が変化した雷の刃が異形を胴体からまっぷたつに切断した。皮膚に妙な弾力はあったけど、斬撃や電熱に対する耐性は無いようだ。それならどうとでもなる。

 

「君らの足下の二人に用があるんだ。どいてもらおうか」

「ははっ、黒霧、こいつ躊躇なくやったぞ!」

「やはりヒーローや生徒ではなさそうですね。もしや招いた(ヴィラン)の中に自警団 (ヴィジランテ)が混じっていましたか?」

「どいてくれって言ってるんだが、聞こえないのか?」

「聞こえてるさ。相手にする必要がないだけだ」

「こいつが生きてるからか?」

「!?」

 

 背後で異形の男が両断したはずの体を自らで繋いでいる。さしずめ自己再生の個性だろうか? 出久のストックに欲しいな。一々血坊主を生成して治癒するより大分効率が良さそうだ……とはいえ出久じゃ殺せないし、この個性じゃ蘇生してやる機会も無いだろう。見送りだな。

 

「でもお前再生してる最中はろくに動けないだろ」

 

 再生中のその身体に雷鋏を連続して叩き付ける。

 焼けた部分を崩さなければ再生できないようだし、繋ぐのではなく丸ごと再生するならなお時間がかかりそうだ。そもそも腕を切り落とせば繋ぐことすら難しく、足を縦に裂けば綺麗に再生するために自ら切り落とし直さざるをえない。

 どうも、万能個体というよりは特定の相手に対して有効な性能のようだ。俺にはなんの問題もない。いや、いくら敵だからといってこうもザクザク切り裂かれるという事態が異常なのか。

 

「なんだ、くそ、チートがっ!」

「死柄木弔、これ以上は……」

「ちっ! 黒霧、脳無を回収しろ。どうせオールマイトも来ない。帰るぞ」

 

 帰ってくれるならありがたいな。俺のすべきことは、怪我をした出久の知人を治癒することだ。貯めておける血は多い方が良いし、余計な戦闘は避けよう。いや、避けたいんだが、無理だろうか。

 

WHAM !!

 

 派手な爆発音。いや、ドアを吹き飛ばした音が、まるで何かを爆発させたみたいに聞こえる。それだけ大きな力がふるわれたんだろう。ヒーローは遅れてやって来る……と言うけれど、きっとそんなのヒーローが望んだことじゃない。それは彼の隠そうともしない怒気を見ればわかる。

 

「『もう大丈夫』」

 

 まるで火山でも目の前にしてるみたいだ。

 

「『私が来た』」

 

 ビリビリと感じさせられるのは俺たちとは対極にある『善』なるものの気配。見た目と相まってカリスマジャスティスを思い出す。そして同時に発せられるらしくない殺気。そう言えばこのエリア、生徒も教師も倒れてるから立ってるのは『悪』だけだな。殺気を向けるのに躊躇いがある訳も無いか。出久もよくあんなのに憧れるもんだと思うよ。俺はもう憧れなんて通り越してドロドロした羨みや妬みしか沸いてこない……憧れと言えば憧れだけど。まあ、俺や将太郎も子供の頃はカリスマジャスティス好きだったしな……将太郎なんか最後らへんはあれと並んで戦ってたし。

 思わず見入っていると、手を顔に貼り付けた男がこちらを向く。

 

「おい、お前」

「何だ? 帰るんだろ?」

「いや、帰るのはやめ (コンティニュー)だ。こいつらくれてやるから脳無を返せ」

 

 出久の担任と隣の席の奴が蹴ってよこされる。

 

「死柄木弔……!」

「黙ってろ黒霧……なあ、お前もあいつが気に入らないんだろ? 俺たちの味方じゃないが、あいつの味方でもない、違うか?」

 

 ……はぁ。すくなくともオールマイト (あいつ)からは敵として認識されてるらしいのは間違いないしな。それに俺の目的はあくまで俺が再生されたときの出久の望みである、『彼の級友および教師の治療、救出』。あんな殺しても死ななさそうな奴に関わる必要は全くない。必要ないことをする気もない。

 

「ちなみに他に怪我人は?」

「生徒や教師のかい? 黒霧が13号をやったな。今はあいつの足下にいるんじゃないか?」

「そうか」

 

 雷神をもどす。そういえば、確か出久の級友はこの施設全体に散ってるんだったな。他のエリアは……見に行った方が良いか、一応。それを考えるといつまでもこんなところにはいられない。両手に血坊主を生成し、足下に転がった二人を治癒……

 

「!?」

 

 何だ今、いきなり吹っ飛ばされた……目の前にいた二人もいない。

 

「あああ……だめだ、だめだ、ごめんなさいおとうさん、ごめんなさい……」

 

 ちょっと遠くにいた……死柄木と呼ばれる男も殴られたらしい。顔についていた手が地面に転がって、何やら精神的に不安定になっているようなそぶりを見せる。よく見れば遠くにいたチンピラ達も一様に倒れて気を失っているみたいだ。脳無とやらは……あ、再生が終わってる。

 

「ははっ、すごいや、見えないくらいの速さで助けるついでに殴られた。国家公認の暴力だ……でも思ったほどじゃない」

 

 そうなのか。俺としては流石にいろいろ見直さざるを得ないんだけど。アップル・シノダと良い勝負するんじゃないか? このスピード。

 

「やっぱり本当だったのかな、弱ってるって話……!」

 

 訂正しよう。これで弱ってるなら全盛期にはアップル・シノダを上回ってたんじゃないだろうか。いや、でもシノダもかなり強いからな……どうでもいいか。確かめる必要もないし。

 それより治療する前に二人とも取り上げられてしまった。その上かなり警戒もされている。もう放置しても良いような……別に殺したのだって貯めるだけで有意義だし。

 

 ……だめだな。

 タガが外れた以上、またしばらく俺は出久を支えてやれない。であれば、何らかの実績が必要だ。俺が側に居るという。

 

「つまりシノダ並みに速いあの男をかい潜ってあの二人を治すのか」

 

 オールマイトは今、脳無と呼ばれた異形を一方的に攻撃している。行けるか? どうもダメージを与えられてなさそうなんだが。手こずってると見ていいのか? というか、死柄木と黒霧はなんで黙って見てるんだ?

 いや、なんか死柄木が自慢気に語りだした。

 

「効かないのはショック吸収だからさ! 脳無にダメージを与えたいなら、ゆぅっくり肉を引き千切るのとかがお勧めだね……不粋に刃物とか持ち出すなよ? 平和の象徴」

「『? わざわざサンキュー! そういうことならやりやすい!』」

 

 ジロリと死柄木に睨まれる。

 ショック吸収……なるほど。それと自己再生にかまけて初撃をわざとくらったと言いたいのか。確かにあれの攻撃に反応出来ているのなら、素で雷鋏を使っても避けられそうだな。

 しかしばらして良いのか、あっさりとオールマイトに背後を取られてバックドロップが……

 

「なるほど、そういう感じか」

 

 思わずそんな言葉が口をついて出た。オールマイトのバックドロップは、着弾点に回り込んだ黒霧のせいで決まらなかったのだ。

 黒霧の靄 (ワープゲート)に飲まれた脳無の上半身が別の(ゲート)から飛び出しオールマイトの脇を抉る。

 期せずしてチャンス到来だ。

 俺は悠々と歩いて出久の教師と級友の元に移動した。近場に誰かいればそれに預けることも出来ただろうが、上まで運べば死柄木達三人もついてきかねない。目の届く範囲で守りながら戦うつもりだったのだろうが、脳無の予想を上回る戦闘力に焦ったと。おかげで遠くまでいく手間が省けた。血坊主で二人を治癒し、担ぎ上げる。

 

「これは上まで運ばせてもらうよ」

「『な、あ、ちょ! 君!? っだ、あイタ!! 君ら初犯でこれは覚悟しろよ!?』」

「その格好ですごまれてもただのコメディだな」

 

 どうやら黒霧が(ゲート)を閉じることでオールマイトをまっぷたつにするらしい。実際そうなったら治そう。人間2人担いで移動するなんて重労働は基本的にシノダの仕事だったからな、余計なことを考える余裕は無い。

 

 BOOOM!!

 

「ん?」

 

 頭上を爆音が超えていく。

 これは、『かっちゃん』だな。まさか死柄木達に挑むつもりなんだろうか? だとしたら、13号を治癒したらすぐにこっちに戻った方が良いだろうな。いや、むしろ全滅した後戻って蘇生すれ (なおせ)ばいいか。死柄木達もオールマイトも自分の前の相手に夢中だから、状況的には随分余裕があるな。

 

 Stick! (ペタ) Stick! (ペタ)

 

「よっしゃ取った! 引っ張れ砂藤!!」

「おうよ!」

 

 なにっ! 飛んできた透明の帯が担いでいる二人に貼り付き、引っ張られるままにもろとも宙を舞う! これは出久の級友の個性、テープ!! 気が緩んでいた隙を突かれて二人をかっさらわれた!?

 ……いや、別にいいか。このまま13号とやらを治しに行こう。

 

「おい、あいつ入り口の方に! 誰か……!」

 

 Cooo (パキパキ)......

 

「1.傲慢 2.憤怒 3.嫉妬 4.怠惰 5.強欲 6.暴食 7.色欲……開け大罪の翼」

 

 Froooooozen (キンッ)!!

 

 二度も隙は見せないさ。

 足下から生じた冷気が広範囲の氷結を引き起こす。これも出久の級友だな。だけど、その気配は気付いていたから飛翔することで充分対処できる……いや、俺はおまけなのか。メインはオールマイトを捕らえていた脳無を凍らせることらしい。同時に『かっちゃん』が降ってきて黒霧を叩き伏せた。脳無が凍り付いたのを見て動揺した瞬間を狙ったか。相変わらずみみっちいな。

 

「スカしてんじゃねえぞモヤモブが!」

「平和の象徴はお前らなんかに殺れねえよ」

 

 ……よし、入り口に向かおう。オールマイトが抜けてきたら面倒すぎる。

 

「『あ、こら! 君! ああもう!』」

「ちっ!」

 

 舌打ちとともに氷の柱が追いかけて来るけれど、逃げ切れる速度だ。オールマイトが抜け出すのも、それに合わせて脳無が氷結した身体を砕き再生。黒霧を救い出そうとして『かっちゃん』を襲いオールマイトと激突……そんな光景がぐんぐん遠ざかる。飛んできたテープや出久の級友は風神を呼び出して追い払った。高台になっている入り口には、倒れてる人間とそれに応急処置をする人間、あとはこちらを警戒している数名……速いのとでかいのと無口なの。これなら躱せるな。

 

「先生に手出しはさせんぞ!」

「そうですわ!」

「だめだ、逃げなさい皆!」

 

 立ちふさがろうとする三人と、13号を庇おうとする一人。残念ながらこちらの方が速い。

 

「これで終わり」

「なに!」「……!」

「ぐわああああああああっ!?」

「先生ー!!!」

 

 血坊主を生成してまっすぐ突っ込み、その傷だらけの背に叩き込む。

 広場に二人、治療した二人、テープの足下にいた二人、いつの間にか出久のそばにいた二人、入り口に四人……これで出久を除いた十二人の生徒の無事が確認できた。この13号への治療で教師二人の無事も確保できることになる。後は中央の広場の戦いの行方と、まだ見ない生徒の安否だが……

 どうやらここまでのようだ。

 

 BLAM BLAM BLAM (バキュン)!!

 

 銃声とともに身体が崩れるのを感じる。死柄木達も逃げ出したようだ……もっとも逃げるのはあの三人だけの様で、チンピラ達は置いていかれてしまうようだが。

 はあ……血を戻すのに気を取られて、出久を治すの忘れてた。俺からの戒めだと、受け取ってもらおうか。

 そんなことを考えながら、俺は消えた。




緑谷君は最後まで戦い抜くことが出来ませんでした。
そして彼自身の知る彼の経歴に殺人罪が追加されました。
成人男性一人分弱の血がプール出来ました。
本日の投稿は次が最後です。
おまけというか、リザルト?

アップル=シノダ パンチが速すぎて燃える。摩擦と言うが多分断熱圧縮。おおざっぱに計算するとマッハ4。
オールマイト 速すぎて目に留まらない。入り口から広場が100メートル離れて多とすると約マッハ3。ただし途中のヴィランを丁寧に気絶させながら。
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