本日は一時間一話のペースです。
治療のために学校に来なきゃいけない僕にはあまり関係のない話だったりする。
「まあ、教室に来たのは単なる習慣なんだけどね。おはよー、なんちゃっ」
「おはよう! 緑谷君!」
え、飯田君?
「今朝は早かったな緑谷」
「オハヨー」
「おはようございます緑谷さん」
「……」
常闇君、
轟君こそいないものの、教卓前の飯田君を含めて見慣れた朝の光景だ。っていうか見慣れすぎた朝の光景だ。あれ? 今日臨時休校だったはずだよね?
思わずスマホで日付を確認してみるけど、別に知らない間に明日だった……なんてことも無い。今日は今日で間違いない。なのになんでいるんだ? 誰かに聞こうと思って顔を上げると、飯田君が目の前に来ていた。
「うむ、元気そう……とは言えないが、まあひとまず席に着いたらどうだろうか?」
「え、ええと、うん」
五人の視線を一身にうけつつも、いつも通り八百万さんの隣を通り常闇君の隣の自分の席に座る。皆に見守られながら椅子を引き、皆に見守られながら鞄を机の横に掛け、皆に見守られながらノートと筆記用具を机の上に並べつつ、皆に見守られながら顔を右隣に向けて……
「おはよう常闇君、黒影君……って、なんだこれ」
「なにがですの?」
「いや、何っていうか……」
何もかもだよ! そう言い切らないうちに教室のドアが開いて、入ってきたのは……障子君?
「早いな緑谷。無事なようで何よりだ」
「おっす……おはよう、緑谷」
「お、もういるのか。昨日はありがとな緑谷。おはよう」
「お、おはよう?」
切島君に瀬呂君まで……
あれ? 今日って臨時休校だったよね? 昨日先生にも聞いたし、電話でかっちゃんのお母さんにも確認取ったし。僕が朝から教室に来たのはあくまで習慣としての何となくであって、保健室にいくのも早くて9時からって言われてた……と思う。
「おはよう皆! ええと、あとは確か芦戸君、蛙吹君、麗日君と……」
「確か峰田が迷っていると言っていたな。砂藤、耳郎、葉隠は来ないらしいが、緑谷が無事学校に来たら教えて欲しいと言っていたぞ」
「うん。そうかそうか。そういえば緑谷君、保健室にはいつ頃行くんだい?」
「え、ええと、9時半くらいに顔を出す予定だけど……」
既に僕を入れて9……いや、8人か? 一応。それだけいるのに、もう3人来る? クラスの半分以上じゃないか。
今話題に上がらなかったのは轟君と上鳴君と青山君と……尾白君にかっちゃんか。
うーん……わからない。一体何が起きてるんだ?
「そうか。何か助けが必要なら言ってくれ。力になろう」
「いや、その……改めて聞くけど、なんで皆いるの? 今日臨時休校だったよね?」
「ええ。ですが登校してはいけないとは言われていないのです。特に瀬呂さん常闇さんは何があるかわかりませんからね」
「それで君が心配だったこともあって、その気があるのなら皆で自習でもしようということになったのだ。親睦を深める意味も込めて」
なるほど……なるほど? 瀬呂君と常闇君に関してはまあわかった。正体不明の
説明ありがとう八百万さん、飯田君。その自習、僕も参加できるのかな……そんなことを考えていると、すぐにまた教室の扉が開いた。
「あ……」
「あー! 緑谷君もう来とる! おはよー!」
「おはよう緑谷ちゃん、また会えてなによりよ。皆、おはよう」
「お、おはよう」
件の女子三人、芦戸さん、麗日さん、蛙吹さんだ。皆鞄だけ自分の席において遠慮なく僕らの近くによって来る。芦戸さんが若干元気がなさそうだけど……
「緑谷……」
「あ、芦戸さん、おはよう。あ、昨日は大変だった、ね?」
「緑谷ぁあ……!」
うわ、ちょ、芦戸さんが抱きついてきた!? い、いやちょ、待って! 痛い痛い痛い! 治療完全じゃなくて彼方此方折れたりむき出しなの! あと近い! 抱きつかれてるのに近いも何も無いけど近い! 昨日お風呂入ってないんだよ! 右手使えないからタオルで軽く拭いただけなの! うう……こんなことならちゃんと家に帰れば良かった……
「生きてる……ちゃんと体温がある……良かったよおぉ……! 本当に、無事で良かった……!!」
「え、ええと、うん。怪我はしてるけど、体調は悪くない、かな?」
体温て何? っていうか芦戸さん本当どうしたの?
助けを求めたいところだけど、男子の目も女子の目も微妙に生暖かい感じで芦戸さんの方を見てる。うう、なんかドラマのラブシーン演じてるみたいで恥ずかしい。抱き返すこともできずに両手を彷徨わせておろおろしていると、常闇君と目が合った。
「察してやれ緑谷、芦戸は戦闘訓練のときのことがトラウマなのだ……俺も、正直駄目かと思った」
「え、戦闘訓練のときって?」
「お前は意識してなかったかもしれんが、あのとき芦戸を拘束して気絶したお前の身体は冷えきっていたらしいぞ。曰く脈動も極めて微かで呼吸も殆ど無かったとか……覚えが無いか? 手の中で
あー、なるほど。そういうのは、まあ、わからなくもない。いろいろ経験がある。寿命は蘇生じゃどうにもならないからね。口田君もめっちゃ頷いてるし。うん。そっか。あのときの僕ってそんな感じだったのか。なにぶん昨日のことが強烈すぎて3日前の自分がどんなだったとかいまいち思い出せないけど。そっか。なんか悪いことしたな……そう思ったところでポンと肩に手が置かれる。瀬呂君と……
「いや、ぶっちゃけそんなん関係なかったぞ」
「そうね。私たちだって心配だったもの」
蛙吹さんが麗日さんと一緒に芦戸さんをなだめて引き取ってくれた。心配だった、か……僕のために泣いてくれてる、のか。僕のために? なんか変な感じだ。気持ちがふわふわする。
「そうだな。生きててくれて本当に良かっ」
「オラァ、また芦戸に抱きつきやがったな緑谷ぁ! どうなんだ! 柔らかいのか! いい匂いがするのかぁ!?」
「峰田ちゃん、空気読んで」
そして脇腹ずきずきする。峰田君にめっちゃどつかれた。
というかうん。おはよう峰田君。いつの間に近付いてたのかさっぱりわかんなくて結構ビックリしたよ。まあ、空気変わったのはほっとしたし、若干涙目に見えるのは蛙吹さんの突っ込みが強烈だったからってことにしておこうか。うん。
峰田君が自分の席に着くと、いいきっかけになったのか他の皆も自分の席に戻っていく。いつの間にか壇上に上がった飯田君がスマホで何か……名簿? を確認して……
「ふむ、とりあえず連絡があった人間は全員集まったな」
「来てない連中には連絡しといたぞ」
「そうか。では改めて……自習会を始めようか」
「「「おー!」」」
お、おー? 本当にガラッと空気変わったな。
いや、変えたのか。
「ああ緑谷君、時間になったら構わず保健室に行ってくれたまえ。その時は瀬呂君と常闇君も同行するが」
「う、うん」
「それではまず反省会からだな。さあ、意見のあるものは挙手したまえ!」
連携が取れてなかった。力任せになってしまった。侃侃諤諤と交わされる言葉を常闇君が淡々とノートに書き留める。ある程度意見が出たところで飯田君が全体を落ち着かせ、時系列を確認し、各場面での行動に是非を問う。
まさに反省会だ。
個性の詳細を交えた自己紹介とかしてるし、途中で保健室行きたくないなぁ。行くけど。
常闇君が黒影君の紹介を終えたところで、二人に声をかけて教室を出る。まさか黒影君が光を弱点としていたとは……今いた中で有効に使えそうなのは八百万さんくらいだったかな? あとでノートに書いておこう。このあと一体どんな話をするのか、参加できないのは勿体ないなぁ。いっそ自分で治してしまいたいくらいだ。
「おや、早かったね」
「おはようございます、リカバリーガール……と13号先生、相澤先生も」
「……チッ」
「ああ、おはよう緑谷君、瀬呂君、常闇君」
保健室には先客がいた。恐らく瀬呂君や常闇君と同じ理由で呼び出されただろう二人、相澤先生と13号先生だ。
なんだよ『チッ』って。とは思うけど口に出さない、顔にも出さない。落ち着け僕。心を無にするんだ。エミネが治療したから一見なんともないようでも、相澤先生だって病み上がりなんだし。
そういえばカーテンでスニーカーしか見えない13号先生は……声は元気そうだけど、治療中にスナイプ先生にやられたらしいから、完璧に治療できたのかが気になるところだ。気になるけど……確認は無理かな。
ま、他人のこと気にしてる場合じゃないか。
「緑谷、ちゃんと朝飯食ってきたかい? 睡眠は? 体力無いと逆に死ぬからね」
「逆に!?」
「実はどっちもあんまり……」
身体中痛かったので。お小遣いも厳しいですし。
「まあ、そうだろうと思ったよ。とりあえずペッツ……と言いたいところだけど、イレイザーヘッド、あんたあれ持ってんだろ! 出しな! ほらとっとと出すんだよ!」
「チッ!」
「それを飲んだら治癒してやるから奥のベッドで寝な」
「え」
「なんだい? 『え』って」
「いや、治癒が終わったら教室に戻って自習会に参加しようかと」
「自習会? 教室でなんかやってんのかい?」
「あー、クラス内で連絡取り合って集まろうってことになったんすよ。それでっす」
「ふーん。熱心なことだね。でもだめだよ。大人しく寝てるんだね」
「はい……」
「それじゃあんたらはこっちだ。ほんとはちゃんとした病院に行くべきなんだけどね。治癒系個性持ちの情報は迂闊に流せない。機材は取り寄せたから……」
うん。寝たふりしてあとでこっそり教室に戻ろう。この時間を寝たままなんてもったいないしね。
今はみんなどんな話をしてるのかな……
そんなことを考えながらゼリーをすすりつつ、上着とシャツを脱いでハンガーにかける。スマホとかは上着のポケットに。ベルトもネクタイと一緒にかけておこう。空になったチューブをゴミ箱に捨ててカーテンを開ける。
「いらっしゃーい」
「な、ミッドナ……!」
この香り! しまっ、意識が……
「まずは事件全体の概要から説明します」
「昨日午後一時よりUSJにてヒーロー科1Aのヒーロー基礎学における救助訓練を行う予定でしたが、ここに
「150名ほどの
「最終的な結果として、140名あまりのチンピラ同然の
「さて、ここからはより詳細な話をしていきます」
「まず『死柄木』及び『黒霧』の言動から、こちらのカリキュラム及びオールマイト弱体化の情報が漏れているものと思われます」
「もちろん、何らかの個性によるものという可能性もありますが……いえ、続けましょう」
「次に脳無ですが、少なくとも『ショック吸収』と『超再生』と言う2つの個性を持っています。そう、あくまで
「裏付けるものとして意思に乏しく命令されるがままであったこと、超再生にも関わらず皮膚にいくつもの傷跡が残されていたことなどが指摘されます」
「ええ、何らかの形で個性を移植したものではないかと……実際、臓器移植などで個性による拒絶反応が出た例などもありますし」
「つまり、脳無というのは何らかの処置を受けた『改造人間』である可能性があります。これを一つ念頭に置いておいてください」
「そして三点目、捕らえられたチンピラの中にU1はいませんでした。襲撃者間での公開情報量が少なかったため名前などはわかりませんでしたが、個性的な観点及び襲撃者間に於ける認識的な観点からは確認が取れています」
「また暴風・大雨ゾーンの中に、電撃痕のある瀕死のチンピラが5名確認されました。同エリアにいた生徒も、同じく電撃を受けて瀕死になっています」
「しかしながら……捕らえられたチンピラの中にはやはり電撃系の個性の持ち主は確認されませんでした」
「未発見の人物が二人いるというよりも、同一人物である可能性の方が高いでしょう。個性の質から見ても、この電撃系の個性の持ち主がU1であると思われます」
「つまりU1は……ああ、ここからは余談なのですが……生徒には弱い電撃でいたぶった痕が、チンピラには強い電撃で一撃で昏倒させた痕跡がありました。つまり奴は生徒にチンピラを庇わせて甚振っていたのではないかと考えられています。非常に残虐で……んんっ」
「……すいません、U1に関してはひとまず置いておいて、最後になりますがB2について説明します」
「先ほど最終的な重傷者は生徒2名と言いましたが、過程に於いては生徒にもう2名、教師にも2名の重傷者がでています」
「目撃者や血痕などから間違いない事実ですが、教員達が駆けつけた時点では生徒2名を残して全員治療されていました。これを行ったとされるのがB2です。彼は13号への治療行為を攻撃しているものと誤認され、スナイプの攻撃を受けて消滅しました」
「消滅です。何らかの形で分身を作る個性を持っているのか、あるいはそういった支援を受けた組織的な行動だったのでしょう。また、少なくとも何らかの方法で警報をならさずUSJに侵入しています」
「我々が知らなかった襲撃をあらかじめ察知して、何らかの仕込みを行うことが出来る個人、もしくは組織……それが現在
「ええ、確かに。神出鬼没で人を治療して回る、これだけ聞くと物語のヒーローのようです」
「しかしながら彼には2つ不審な点があります」
「一つはオールマイトの危機に対して無関心だったこと、もう一つは生徒のうち一人を治療しなかったことです」
「ええ、治療されなかった生徒のうち一人は、治療された生徒と同じ場所にいたはずなのです。ですが、一方は治療され、もう一方はされなかった。ここには何らかの意図があると見るべきでしょう」
「また、脳無に行われた個性の移植。ここに治癒系の個性持ちが関わってないと見るのは難しい」
「そう、
「彼はあくまで連合のブレーキ役であった……その可能性もあります。しかしながら答えを出すことは出来ないでしょう。少なくともチンピラの中に彼を知っているものはいませんでした」
「……さて、ここまでで表面的な情報は終わりです。最後に少し憶測が混じった話になります」
「先ほどU1にいたぶられたとされる生徒、同時にB2に治療
「はい。無個性の彼です。しかしながらここに一つのレポートがあります」
「『緑谷出久に関する素行調査報告書』」
「この中でいくつか、面白い報告が見られます。『調査期間中の3分の2以上の日数、彼を10分〜30分ほど見失った』『何らかの組織か、あるいは個性を用いた個人が介在しているとしか思えない』『彼には悪質なストーカーでもついていて、思考や記憶をいじる個性を使っているのだろうか?』『彼が治療しようとした動物等の回復が、通常より1.5倍ほど早い傾向が見られた。』」
「そうです。『緑谷出久という無個性の背後には
「いえ、彼が生まれつき無個性であることは間違いないと思われます。しかし脳無のように何らかの個性を移植されている可能性は否定できませんが」
「はい。彼の再調査が必要であると考えられます」
次回更新は一時間後。
芦戸三奈
個性:酸(溶解液)生成・汗腺制御
幼い頃に親がエイリアン2の映画をみて悲鳴をあげているのを見て憧れたため、名前は『酸』になっているがその実体は謎の溶解液。
あるいは子供心にイメージした『酸』そのものか。実は第二世代……というか2.5世代くらい。あるいは個性の方が強力になり過ぎてしまったのか。
当然『酸』は汗腺から出ており、その成分を調整できるため、上がった体温をガンガン冷ましていける。熱を汗に移してそのまま排出なんてことも出来る。運動が得意なのはその辺も関係しているかもしれない。
個性体質:超量貯蓄・異形(強靭な皮膚)
『酸』を生み出す成分を溜め込む体質と、その成分に若干強い皮膚。残念ながら未完成なため、強力な『酸』は自らの皮膚を溶かすし、髪は弱めの『酸』でも解けてしまう。そのためルミリオンや峰田のように自分の皮膚や髪を使って衣装を作ることが出来ない。実は髪を伸ばすことに憧れていた時期もある。