・作者は大久保篤先生。先生の商業誌デビュー作品『一善の骨』の流れをくんでるらしいぞ!
・舞台は邪本。妖怪が人間に混じって暮らしているぞ。
・主人公は『一日一善』の制約の道化師『狂骨の将太郎』。生き物の骨からその生き物の能力を引き出すぞ!
・ちなみに道化師とは脳の力を5〜60%引き出すことが出来る人間のことだ。当時の俗説で、人間は脳の力を30%も引き出せていないと言われていたんだ!
『B-2ed』では、無個性の人間は個性が無い分脳力を余らせていることになっているんだ!
だから出久は道化師になっちゃったんだね。
とうとう最後の砦だったかっちゃんまで僕と顔を会わせることが出来なくなったので、僕の中学三年目はひたすらボッチで過ごすことになった。
ああなるほど。素行が怪しいって皆が僕に怯えてることだったんだね。でも記憶は完全に消滅してるだろうから、自白させるような個性持ちとかでも僕のことは探れない。だいたい、僕がいないところでは平気で無個性の僕を見下してるはずだしね。
寂しくないと言えば……まあ、嘘になるけど。道化師という物はそういうものなんだと、ずっとエミネに聞いていたから覚悟はしていた。もともと人間は自分と違うものを嫌うしね、個性じゃないってばれたら排斥されるし、そうじゃなくても道化師の制約はその人間を地獄に落とすようにできてる。
人懐っこくて人が好きだったエミネ。親友と一緒にいたいと願ったエミネ。だけど彼の制約は『一日一悪』。親友の制約は『一日一善』。制約の対価はまさに親友への『友情』……ってなんかエミネのことばっかりだな。緊張してるのか?
そうだ、今更だけど自己紹介しよう。
僕の名前は緑谷出久。折寺中学三年生。無個性。道化師。
能力は血液から作る血坊主を操っての治癒、蘇生。かっちゃんにやられた怪我を見た母さんが嘆くので、それを隠したくて目覚めた能力だ。
あと、生き物の魂を蘇生して、血液を元に身体を一時的に与える……なんて使い方もある。過去に蘇生経験が無いと再現は難しいので経験というストックありきだ。動物なら犬とか猫とか、あと鳥類が少しと、蟲類がたくさんかな? 他にもまあちょろちょろ。下水道に白いワニがいたのはビビったっけ。
制約……つまり道化師としての能力の代償は『一日一悪』。この制約を守らないと僕の中の大切な物、『正義の心』が失われる。
能力の管理者は『白沢のエミネ』。先代の白沢の道化師だ。そう、この能力の管理者は本来『白沢』なんだけど、どういう訳か僕の代ではエミネが担ってるらしい。ただ、『白沢のエミネの出久』と名乗るのは面倒なので、もし名乗る機会があったら『白沢の出久』と名乗ることしている。
まあ、そうそうそんな機会無いだろうけど。
さて、自己紹介おしまい。そろそろ行こうか。今日は待ちに待った雄英の入試だ!
雄英の入試には勝てなかったよ……
や、まさかプレゼントマイクが試験官だなんて思わなくて、思わず興奮しちゃった。そのせいで他の受験生に絡まれるし……まあ四角四面なだけで悪い子じゃ無さそうだったけど、それでも……僕が無個性だって知ったら態度変わったりするのかな。
そう、色々考えたけど受験にあたって道化師の能力は使わないことにした。と言っても、火事場のバカ力は出しっぱなしにして適宜自己治癒し続けるつもりだから完全に使わない訳じゃないけど……それでも世の中に道化師のことが広まるリスクはできるだけ避ける方向でいこうと思う。
幸い、試験内容はロボットを敵に見立てた戦闘形式だし、装備も持ち込み可能らしい。鉄バット一本あればなんとかなるだろ。
あと、かっちゃんとは会場が別になった。良かったね、かっちゃん。
『ハイスタートー』
(行こう出久)
「あ、うん」
うん、え?
『お、いいねぇベイビー! おら、実戦にはカウントなんかねーんだよ! どいつもこいつも必死こいて走れぇ!!』
おおおお、あ、ありがとうエミネ! すごいスタートダッシュを決められたよ!
(いや、構わないけど出久)
っ、でたな仮想敵ロボ! とりあえず鉄バットで……なんちゃってホームラン!! うん、割となんとかなりそうだな。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、ここのつ、とお! ざっと20点! は、行ってなさそうかな!? 鉄バット壊れたけどその辺の装甲板拾えばまだまだいける!
(出久、良くないニュースがあるんだが)
え、なに? じゅういぃち!
(一悪の時間が迫ってる)
じゅうにぃ! 大丈夫! 昨日部活の後輩がくれた合格祈願のお守りがあるんだ。そ、それを、それをか、こ、こわせばばばば、ばっ、ばっちり一悪にな、ななな、な。
(ああ、それが出久にとって一悪なのはいいんだ。ただ、それ今持ってるか?)
え、そりゃあばっちりポケットに……ポケットに……無い。運動服に着替えたときに前の服に入れっぱなしにしちゃった!?
いや、でももう五分くらいで試験終わるし! じゅうさん、じゅうしぃ!
(一日の残り時間もそれくらいなんだ)
なんで!? どうして!? じゅうご、アラームは!? じゅうろく!
(試験会場に入るときにプレゼントマイクに興奮した出久が全部切ってた)
やらかしじゅうななぁったぁ!? じゅうはち!
(どうする? 一日は正確な数字じゃない。多少は安全マージンをとってあるけど)
いや、試験終わったらすぐに着替えられるかもわからないし、ここは……ここは試験中に一悪するしかない!
ぐ、ぐぐ、具体的に言うと、試験妨害! じゅうく、にじっ!?
THOOM
BooooooM!!
二十。おあつらえ向きに
Step1.血坊主を服の下に用意します。
Step2.血坊主で蜂を造ります。
Step3.適当な受験者の足元に行かせます。
Step4.足を貫かせ、転んだところを治します。
よし、これなら証拠も残らないし、完璧だ。それにしても受験生を
「いったぁ……」
っ! エミネ! 血坊主の制御と妨害の方をお願い!
(またか。出久はほんと我慢がきかないな。そういうところも嫌いじゃないけど)
状況は!? 0Pロボが崩した瓦礫に女の子が挟まってる!!
危険は!? 次の一歩が彼女に迫ってる!!
対処は!? 瓦礫をどけて逃げるか、ロボを排除するしか無い!!
可能か!? 無理!! 瓦礫をどけても逃げる時間がない!! ロボを排除する力は無い!!
(出久、悪い知らせが続くんだが)
なに?
(
嘘だろ!?
(……あの子を、見捨てるか? それなら一悪になるだろ?)
……絶対ダメだ! 今助けるのは難しいって思っちゃった! それじゃ一悪にならない!
(そうか……本音は?)
一度助けるって決めたのに諦められない!
(しょうがない。じゃあどうするんだ?)
まず、助ける。パワーで強引に引き抜いて、逃げながらこっそり適度に治療する! そして!
(そして?)
ぐ、ぐぐ、ぐ、ぐぐぐうぜんをよよよよそおって、お、おっぱ、胸を! いちあ、一握、一悪する!!
(……出久ってほんと平和だな。ちょっと羨ましいよ)
う、うるさいなぁ! それよりやるよ!
彼女の足下の瓦礫の隙間に血坊主を先行させる。最初は無理矢理引っこ抜くつもりだったけど、血を送り込んで膨らませてジャッキみたいに使う! 外からじゃなくて中からなら目立たないだろ! こっちを見て驚いてる彼女が、何かに気付いたように足下を振り返った。その瞬間にあわせて加速! プールの折り返しの要領で……飛び込み、前転、ひねりを入れながら右手で彼女の胴体を、左手でい、いい、いち、一悪! しつつ! 0Pロボの足だか瓦礫だかを蹴って離だ……うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?
え、なん、なんで!? 今僕飛んでない!? 浮いてない!? 吹っ飛んでない!?
(0Pロボの
10メートル? 清水の舞台が12メートルで生存率90%だったっけ。頭さえ守れば何とかなるかな? 多少の怪我は治せるし……この子だけ守りきればいいか? おっふ、思わず手に力入っちゃった。意識するな意識するな意識するな、落下中にそれはかなり命取りだ。『うひゃっ』とか『ひゃんっ』とか聞こえるけど無私だ無視! いや無私。あれ、無視? ええい、とにかく身体を丸めて、背中から行け!
うっ……うん? あれ、思ったより痛くない? そしてなんか腕が軽い。あれ、まさか落とした!? 訳じゃないな、感触あるし。
「うく、か、解除」
ずん、と全身に重みが戻ってきた。今、軽くなってたのか? 彼女か、誰かの個性? 腕の中で彼女が吐いてる。個性の副作用だろう。つまり助けにいっておいて助けられたのか、僕は。
って、ダメだ! まだ0Pロボは動いてる。彼女の脇に身体を入れて、自分の手を胴にまわす。逃げなきゃ。抱いた方がはやそうだけど吐いてるから仰向けには出来ないし、俵担ぐみたいにしたらおなかに圧力がかかって辛いだろう。おんぶは彼女自身の手に力が無いと不安で出来ないし……ってまだ敵ロボでるのか! 邪魔ぁ!
全力で殴った1Pロボがひっくり返る。案外軽いよね。壊せはしないけど。2P3Pは武器なしだとちょっと辛い。いくら火事場の馬鹿力が出てるからって、いや、だからこそ筋肉の締めだけで骨格自体の強度が上がるわけじゃない。四角四面の人みたく鉄板仕込みの靴でも履いてればまた別だろうけど、それにしたってどうせ逃げながら蹴り壊すなんてできるわけがない。残り時間はどれくらいだ? 0Pが出たのが残り五分を切ってた。あれからどれだけ逃げてる?
(安心しろ出久、あと1分ないから)
それはそれでポイントに不安があるな。まあ、なるようになるか。最悪普通科からのくり上がりを狙ったって良い。僕はそれで良いけど、この子は大丈夫かな? 僕が吹っ飛ばされたのをフォローしたりしなきゃ、もっと動けただろうに。逆に悪いことをしちゃったんじゃないだろうか。
いや、悪いことはしてるんだよな。イチアクだけどサンアクくらい。思い出すと顔から火が出そうだ。うう、考えるな。感じ……たらもっとダメだろ! もうなんでもいいから早く終わってくれ!
『終っ了~!!』
終わったぁ。いやぁ、ほっとしたよ。
『よーしおまえら、わかってると思うけど事務所に戻るまでがヒーロー活動だからな。デカイ怪我してる奴もいなそうだし、ターゲット壊しても点入んないけど、ちゃんとゲートまで戻ってこいよー!』
なん、だと?
(出久、今日三度目の悪い知らせだ。0Pがまだ動いてる)
(ついでに出久、他の受験生は一斉に退いてしまってる。あいつのターゲットは俺達だ)
(もう、諦めてもいいんじゃないか? 怪我してないなら帰ってこいって言われたんだし、ここで諦めれば普通に回収されるかもしれないぞ)
(その子だって、早く休ませた方がいいだろう。出久は充分頑張ったさ)
くっ……
「ダメだ!」
(どうして?)
「加点は無くなったと言われたけど、減点が無いとは言われてない。ここでの判断ミスは僕の減点だけど、帰れなければ彼女に行く! 助けられといて、勝手に諦めるなんて、出来ない!!」
(逃げ切れるのか?)
「無理、だからエミネ! チカラを……」
「ん?」
(あれ?)
『なーんちゃってな! It's a YU-EI Joke !! おら、ターゲットはもう動かねーからそこで大人しくしてなー』
プレゼントマイクの言葉通り、背後の0Pは全く動かなくなってる。まじか。雄英まじか。なんだったんだよ今の30秒!
叫び出したい気持ちを抑えてとりあえず肩を貸してた女の子を地面に下ろす。便宜上あだ名でもつけたいところだけど、今つけると確実にゲロ子ちゃんとかになっちゃうからやめとこう。
とりあえず丸めた上着を枕がわりに横向きで寝かせてみる。ふと開いた目が僕を捉えた。
「……うぷ、う、お、おつかれ?」
「あ、気付いた? おつかれ」
しばし見つめ合う。
「その、ありがとう。助けてくれて」
「……こっちこそ、吹き飛ばされた時は駄目かと思ったよ」
「いやいや、そもそも助けてくれなかったら……うぷ」
「うん、無理に喋らないで。すぐに先生くるだろうからそれまで大人しくしてよう」
「……ほんとに、ありがとう」
一悪……いや、一悪どころか三握くらいしたことを謝りたい……全力で謝りたい。謝らないけど。
とりあえず黙って待っていたらリカバリーガールがやってきてハリボーをくれた。診断結果としては僕も女の子……麗日お茶子さんというらしい……も、彼女の個性を使うような怪我では無いということでそのまま戻ることになった。麗日さんは念のために担架で運ばれていったけど、その頃には割と平気そうだった。
戻り際に他の受験生と合流できたので、四角四面の彼と鳥みたいな頭の子と黒髪の実直そうな子とマスクしてる大柄な子(それぞれ飯田君、常闇君、切島君、障子君というらしい)に点数を聞いてみたら、だいたい40〜50点だった。特に四角四面の彼は50点オーバー。一応優秀そうに見えた子に声をかけたわけだけど、彼らの平均を取ると僕の点は結構ギリギリじゃないだろうか。なんだかんだで1P2Pが多かったからなぁ。後は筆記と面接かぁ。とりあえず普通科の試験にあわせて復習しとこう。
……無個性だってことは言わなかった。
(意気地なしだな)
まだ同じ学校に通えるって決まった訳じゃないのに、教えてどうなるんだよ。よく考えたら、無個性ってだけで面接で減点されることもあるんだし。
もう、あとはなるようになれだ。普通科に備えながらのんびり待つさ。
『緑谷出久に関する素行調査報告書』
依頼されてから半年間の調査結果をここにまとめる。
結論としては調査依頼にあった、彼が無個性であるか? 何らかの組織と繋がりはないか? 暴力を好むなどの反社会的な傾向がないか? という三点に関しては、限りなく白に近いグレーであるとする。
まず、反社会的な傾向の有無であるが、彼自身は調査期間中極めて善良な傾向を示した。
思考に没頭する、独り言が長くなるなどの悪癖が見られたが、基本的には規則正しく生活し、近所の住民に挨拶を欠かさず、困っている人間に手を貸したり、傷付いた動物を治療しようとしたりする場面が見られた。極端な例としては、子供が塩をかけたカタツムリに水を与える場面すらあった。
むしろ逆に怪しい、というのはその場面を確認した調査員の言であるが、実際怪しい。
彼の周囲を調査する限り、彼はとても見下されている傾向にある。無個性であるということが広まっているからだろうが、彼と朗らかに挨拶を交わした住民ですらその事を口にし、彼や彼の母親を貶める言葉を口にする。場合によっては不貞の子だという囁きすら聞こえる。
この環境でなんの歪みもなく育つというのは通常あり得ない。極端に鈍いという可能性も無いではないが、長年の勘が彼には何らかの秘密があると告げている。
調査の継続を具申するものである。
追記.調査期間中修学旅行にて、父母が愛用しているマグカップを誤って旅行に持っていき割ってしまうという事故があった。しかも二日にわけて二つほぼ同じ時間の出来事である。非常に怪しいのだが、割ってしまった彼の悲しみに嘘は無かった模様。
次に何らかの組織との繋がりであるが、非常に怪しいと言わざるをえない。これにはいくつか理由がある。
まず、調査員が度々彼を見失うことである。
こちらも個性を公に使っているわけではないが、それでも大人と子供である。見失うなどということは考えられないのだが、実際見失っている。そして、暫くするとあっさりみつかる。この間の移動距離などは、けして無個性であることが不自然ではない程度のものにおさまっている。しかし調査期間中の3分の2以上の日数、彼を10分〜30分ほど見失った。これは異常なことである。何らかの組織か、あるいは個性を用いた個人が介在しているとしか思えない。
第二に、彼の周囲の人間の態度にある。
普段くちさがなく彼の話をするクラスメイト達が、どういうわけか彼を前にすると怯えたような態度を取るのである。教職員も訝しんでいるようだが実態は掴んでいない模様。同年代に見える調査員を派遣しそれとなく思考誘導などを試みたが、彼に暴力を振るわれるなどといった供述はひきだせず、むしろ彼に対して個性を振るったなどという言葉を聞けた。
彼には悪質なストーカーでもついていて、思考や記憶をいじる個性を使っているのだろうか? という意見も出たが、そういった存在は確認できなかった。大きな組織が関わっている場合、人員を増やす等の対処が必要となる。より詳細な結果を求め調査を継続する場合、経費の増額を求める次第である。
追記.調査を開始するひと月ほど前までは幼馴染みであるB少年にはこの傾向は見られなかったそうだが、現在では彼も調査対象を前にすると怯えをみせる。ただし彼に関してはその前後に起きた事件で敵に襲撃されそこに対象が居合わせたという事実が判明しているため、単に彼を前にするとトラウマがよみがえっているという可能性がある。
最後に無個性であることの確認だが、両親との遺伝子上の繋がりは確認できた。また、三親等までの調査結果では、母方の曾祖父に第二世代型無個性が確認された。
しかしながら個性調査のレントゲン写真から、彼が第一世代型無個性であることが確認できた。念のためレントゲンゲートまで持ち出し確認したが、彼が無個性なのは間違いないと思われる。
しかしながら、前述した彼が治療しようとした動物等の回復が、通常より1.5倍ほど早い傾向が見られた。彼自身は個性を持たずとも、何らかの個性の影響を受けている可能性がある。
より綿密な調査の継続を具申する。
「記憶操作に追跡妨害、接触した生物の治癒促進……確かに常識的には個人の能力とは思えないな。何らかの組織、もしくは奴が……いや、まさかな」
「それでどうするんだい? 面接の担当は私だけど!」
「いえ、一般の受験生と同じ扱いで構いません。無個性でヒーローをやって行くのは無理でしょうが、全てが杞憂だったとき彼の人格を失うのはあまりに惜しい」
「そうかい! ならばっちり面接してくるさ!」