B-2ed   作:管蘿乃

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本日3話目。一時間ごとの更新です。


B_20thD『幕間3(終)』

「……おなか……へった」

 

 ひどい空腹で目が覚めた。

 枕元のスマホで時間を確認しようとして手が空振り、ここが保健室であることを思い出す。

 目が覚めたのは治癒の個性で減った体力のせいか、それとも単純にそれだけの時間がすぎたのか。どちらにせよ空腹であることに変わりはないが、それより重要なことがある。

 

「……怪我、治ってるな」

 

 何気なく身体を起こしたところで気がついた。身体を動かしても痛みがない。ベッドから下りて軽く伸びをし、ひとつひとつ確かめるように身体を動かしていく。多少の疼痛はあるものの、引き攣れたり突っ張ったりする感じや動かすことに抵抗するような痛みはない。どうやら完全に治ったみたいだ。

 

「……」

 

 静かだ。もしかして誰もいないんだろうか? いや、誰もいないんだろうな。先生方はなんか対策会議とかしてるんだろうし、瀬呂君と常闇君は検査? が終わったら教室にもどるだろう。

 本当に静かだ。

 

「……僕、もしかして弱いのか?」

 

 思わずそんな言葉が口をついてでた。

 攻撃、回復、補助、防御、移動。白沢の能力はどんな方向にも応用できるし、そのおかげで手加減を考えなくてもやり過ぎてしまったあとに取り返せる。しょっちゅう個性での暴力を受けていたから、単純に痛みや苦痛に対する耐性も持っている。なるべく平和的に一悪という制約を満たすために、口に出せないようなことも沢山してきた。

 だから自分が弱いと思ったことはなかった。

 能力ありきだけど正直、強い方だとすら思っていた。

 それがどうだろう? 二日連続であっさり意識を奪われている。

 以前……というかまだ一昨日か。八百万さんに指摘された『耐えれば良いと思っている』あるいは『警戒心が薄い』ということ。芦戸さんの個性のことで実感したきに成ってたけど、電撃(ヴィラン)との戦いはそれが如実に、僕の弱点として形に成っていた。それで、そして、自分すら守ることが出来ないのに立ち向かおうとして……

 奥の手があった。だけど使いたくなかった。それでも結局使わざるをえなくて。

 悪の気配には、敏感なつもりだ。だけど、目の前のカーテン一枚の先にミッドナイトがいたことに気付かなかった。

 心構えができてない? 根本的に戦いを舐めてた? 色々考えてみるけど、ピンと来るものは無い。とりあえず八百万さんからは警戒心が足りてないに一票入るとして、僕自身は基礎力が足りてないには一票は入れておこうか。

 ……ここで素直に警戒心が足りてないに僕からの一票を入れないことに意味はあるのか? そんなんだからだめなんじゃ無いか?

 

 Groowl... (ぐぅー)

 

「う……」

 

 自分の空腹っぷりを思い出して上着からスマホを抜き取り時間を確認する。12時10分、普段なら四限半ばか。うん、お昼ご飯を食べよう。学食は……やってるのかな? 多分ランチラッシュ先生はいるんだろうけど、だからといって休校なのに学食やってるってのも変な話だ。最初から会議と決まってれば普通は弁当を持ち込むとか出前を取るとか……セキュリティもあるけど、それなら校門まで受け取りに行けば良いんだろうし。

 

「う?」

 

 脱いだ服を着直そうと思ってカーテンをあけると、ちょうど誰かがドアを開けるところだった。

 入ってきたのは赤いつんつん頭の……切島君?

 

「お。緑谷、起きてたか」

「あ、ああ、おはよう?」

「おはようは違うんじゃねーか?」

「そ、そうだね」

 

 なんだ、なんで切島君? 思わずそんな疑問が頭を過る。いや、ええ? 自分でもよくわからない疑問に戸惑っていると、着替えようとしている僕に気を使ったのか切島君は背を向けて言葉を続ける。

 

「昼な、俺らの分もランチラッシュ先生が用意してくれるんだと。だから呼びにきた。お前も食べるよな?」

「あ、ああ、うん。ありがとう切島君」

 

 食堂に行けば良いのか。シャツを着て、ベルトとネクタイを締め、上着を羽織る。そう言えば右手の包帯がいつの間にかなくなってる。添え木のことを考えると、治ったのを確認してからほどいたのかな? ……まあ、特に重要な情報じゃないな。羽織った上着に袖を通し直す。ついでに手指の動きに違和感がないかを改めて確認。うん、問題ないな。

 

「それでさ、緑谷……」

「なに? 切島君」

「今更だけど話、しようと思ってよ。なんで、来なかったんだ?」

 

 今か。いや、やっぱりか。

 

「来なかったって……」

「戦闘訓練の日の朝言ったろ! 話があるって」

「ああ、そっか……あー、皆を待たせたりしてたら嫌だから、食堂に向かいながら話そうか」

「……おう」

 

 連れ立って保健室を出て、並んで歩く。今朝挨拶はしたし、そもそも初めて会って……もとい、入学式から五日目くらいなのに、随分話してないみたいだ。

 いい子だと思うんだけど、僕は切島君が苦手なんだろうか。

 苦手なんだろうな。

 

「ええと、今更だけど約束すっぽかしてごめんね。あの日は授業の後保健室で治療してもらってさ、いや、なんて言うか、あの日()保健室で治療してもらってさ、二日連続だったし、体力とか余裕とか全然なくなってて」

「そっか。それだとあんま文句言えねえな」

「……ごめんね」

 

 そのせいでうっかり忘れた……とかじゃなくて、そのせいでめんどくさくなったってだけなんだ。

 切島君にはわかるかな。高校デビューした切島君にさ。わからないかな。中学に入った直後に、無個性だって知られた直後に呼び出される僕がさ、高校デビュー狙ってる奴に呼び出された……無個性だって知られたとたんに呼び出された僕の気持ちがさ。

 ちょっと仲良くなれたかな。仲良くなれるかなって思った。

 ()()()()、仲良くなんて成れなくて良い。ただ何も知らないままにしたいって。そう思う僕の気持ちがさ……!

 

「……緑谷?」

「あ、ああ、いや」

 

 自然と笑ってた。いや、これは笑ってるっぽく口端が引き攣ってるだけか。いや……いや、まあ、愛想笑いか。愛想笑いだ。

 

「それで、結局、また放課後あけとけば良いの? 今日は……まああれだから、明後日?」

「……いや。ただちょっと聞きたいことがあっただけだしな」

「そうなんだ……もう良いの?」

「ううん、そう言う訳じゃないんだが……」

「お」

「あ」

「む」

 

 食堂の前で常闇君に……っていうか多分教室にいた皆と合流した。中から声がするから、常闇君が一番後だったんだろう。

 

「息災のようだな緑谷」

「うん、ありがとう常闇君……さっきの今で息災って言うのもなんだけど」

「ふっ、そうだな」

 

 食堂の扉を開くと、案の定既に今朝のクラスメートが一角にまとまって座っている。机に直接膳が並べてあるところを見ると流石に注文を取ってる余裕はないってことだろう。ランチラッシュ先生もいないし。

 

「む、来たか緑谷君。身体は大丈夫なのか!?」

「ああ、飯田君。おかげさまで……ええと切島君、話の続きはまた後でにしようか。あ、口田君隣座るね」

 

 奥から詰められたなかで、一番手前の空いている椅子をひく。隣が口田君、向かいは切島君が座って常闇君はその隣。ちなみに反対隣の席は蛙吹さんだ。軽く挙げてくれた手に笑顔で応える。

 全員の着席を確認した飯田君が食事開始の号令を発した。

 

「それではみんな、イタダキマス!」

「「「イタダキマス」」」

「イタダキマスっと……なあ緑谷、今で良いから一つだけ教えてくれないか?」

「ムグ、ん、ああ、いいよ……一個だけ?」

「ああ。なんつーか尾白見てて思ったんだ。結局人から聞いただけで納得したり、受け入れられたりするわけじゃないんだって。信じたいもんは信じたいし、信じられねぇもんは信じられねぇ」

「真理だな」

「おう、それにな、多分どんな答えであっても、あの時の気持ちが無くなったりはしないなって」

「アノトキノキモチ?」

「緑谷、野暮だ」

 

 間髪入れず常闇君。

 ええー……何だそれ。切島君もその言葉にうんうん頷いてるし。なんか納得行かないんだけど……

 はぁ。

 

「わかったよ。それで何を聞きたいの?」

「入試の時のことなんだけどよ、なんで麗日を助けたんだ?」

「なんでって……」

 

 なんでってなんだ?

 

「なんでとか言う状況じゃなかったじゃないか。相澤先生も言ってたけど、僕に合格する気がなかったとかそういうことなんじゃない?」

「なんだよそれ……なんか他人事みたいっつーか、投げやりじゃないか?」

「実際、相澤先生に言われるまでもなく失敗なのは確かだからね」

 

 あの日散々皆の前で相澤先生に詰られたのに、それを今更掘り返すのか。

 確かにあれが失敗だったのは間違いない。そこにある自分自身の思いとか、諦め癖だなんだと言うのはともかくとして、失敗だと言うこと自体は、それは流石に、相澤先生に言われる前からわかってたことだ。

 

「だって麗日さんの個性考えてみてよ? 彼女なら踏まれる前に平手打ち一回だけであのロボットを倒せたんだよ? なのに僕が余計な手出ししたせいで二人まとめて吹っ飛ばされるし、麗日さんはそのせいで個性を無理な使い方してダウンするし……結局僕は余計なことして麗日さんに迷惑かけただけだったんだよ」

 

 言ってて恥ずかしくなってきた。思わず頭を抱えて机に突っ伏す。料理は避けるけど。

 

「知らなかったとは言え、それを思わず何も考えず……ちゃんと周囲を観察してれば気付いて良さそうなもんなのに。っていうか雄英だって試験で死人や大怪我なんてでないようにするだろうってなんで思考が巡らなかったかな……ううう……」

「ゲンキダセヨ」

「……ありがとう黒影君」

 

 黒影君がつんつんと髪を引っ張る。慰めてくれてるのか……? まあ、会話中に机に伏せてるってのも失礼だよな。

 おずおずと顔を起こすと、なんか妙な表情の切島君と目が合った。

 

「……助けたこと、後悔してるのか?」

「いや? 余計なことしたとは思ってるけど……」

「なあそれ、誰が余計なことだなんて決めたんだよ!?」

「誰がって……」

 

 なんか切島君怒ってる? でも実際、救助 (レスキュー)ポイント10点だったしなぁ。

 思えば認められたって言うのも、やる気だけは認める的な……ごくささやかなあれだったんだろうなぁ。実は44点から35点までの間に他に誰もいなかったとか。まあそれで満足したりしてた僕も僕なんだけど。

 

「え」

 

 あ、麗日さん。口田君の席の一個向こうだったか。

 

「緑谷君、レスキュー10点だったの?」

「え、声に出てた? ごめん、皆も聞こえてた?」

「あ、ああ」

「聞いたが……」

「じゃあ内緒にしてくれる? 点数の内訳は照会非推奨だったよね」

 

 一通り成績は公開されてるんだけどね。点数やその内訳は非公開で、照会は非推奨になってる。ちなみにかっちゃんが一位で切島君が二位、三位はB組の塩崎さんだったかな。僕は最下位 (ワースト)で麗日さんがその上だ。

 人によっては0P出現後も逃げながら戦ってたらしいし、あそこで足を止めた時点でお察しというか……ほんと麗日さんには悪いことしたなぁ。

 

「ちょっと待って、ほんとに10点だったの!?」

「う、うん。この際だから言うけど。敵ポイント35点で救助ポイント10点だったよ」

「そんな……」

 

 ああ、なるほど。照会は非推奨ってこういうことか。いっそ禁止でも良かったと思うけど、人の口に戸は立てられないからなぁ。

 とりあえずフォローしとかないと。

 

「あ、あくまで僕の行動が適当じゃなかったってことであって、別に審査してた人達も麗日さんが助かったこと……助かった? あの、まあそのへんにケチをつける気なわけじゃないと思うよ?」

「うん……うん……切島君、あとでちょっといい? 常闇君も」

「かまわん」

「ああ、あ、答えてくれてありがとな、緑谷」

「うん……」

 

 麗日さんと切島君、常闇君は黙々とランチラッシュが用意してくれたという昼食を食べ始めた。せっかくの美味しいお昼ご飯なのにあんまり明るい雰囲気じゃない。なんか一気に蚊帳の外になっちゃったな。口田君の方を見てみると、自分の頭越しに行われていた会話の意味を計りかねているようで、不思議そうな顔をしている。蛙吹さんは……同じか、なんかちょっとほっとした。

 さて、午後の自習会には参加できそうだけど、どんなことをするのかな。午前の反省会の内容も、詳しく知りたいし。八百万さんあたりならちゃんとまとめてるだろうし、出来れば後で教えてもらおう。




午後の自習は残念ながらカットです。その分このあとがきで個性解説とかやってるんで見逃してつかーさい。

常闇踏陰
個性:並列人格 特定物質形状操作 特定物質生成
自分の影を自分だけの友達だと思ったことはありませんか? 夕日に伸びる影をバケモノだと思ったことはありませんか? ……何言ってんでしょうね。忘れてくださっていいですよ。
影っぽいモンスターを宿した身体と言う異形系。異形系の中でも珍しく、強い部類の個性です。個性の暴走を許してしまうあたり、分類としては第二世代でしょうか。
細かく分解すると、光が当たると分解してしまう特定物質『影』を生み出す異形、人格が2つあると言う異形、その『影』を操作できる発動系の三つの個性で構成されていることになります。もともと操作に特化した人格である『黒影』の方が当然操作は得意な訳ですが、常闇君も『制御』蛇口の調整をする程度ならなんとかできます。

個性体質:異形(鳥の形の頭) 超量貯蓄
超量貯蓄、と言うのは『影』のエネルギーを溜めるというやつですね。
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